We Shall Overcome
絶大な賞賛を浴びた文句のない初作から3年、苦境を越えんとするプロセスで生まれた『The Dreaming Room』は、彩り豊かなローラ・マヴーラの音世界をさらに拡張する……
マーキュリー・プライズやアイヴァー・ノヴェロといった由緒ある各賞へのノミネートを待つ必要もなく、『Sing To The Moon』(2013年)には格調の高さを凌ぐ圧倒的な説得力があった。そんな処女作でいきなり英国シーンのトップクラスに仲間入りを果たしたローラ・マヴーラ。2014年にはメトロポール・オルケストとのライヴ・レコーディング盤を発表、最近ではスナーキー・パピー『Family Dinner Volume Two』にて自身の“Sing To The Moon”を歌い、ロバート・グラスパー×マイルス・デイヴィスの『Everything's Beautiful』にも参加といった大粒の露出もあったが、その間にはクラシック歌手である夫との別離も経験し、なおかつ成功に伴ってパニック障害が悪化するという辛い日々を過ごしていたのだという。そんななかで公開された楽曲――ナイル・ロジャースの小気味良いギターを配した“Overcome”と、キビキビしたニューウェイヴ・ファンクの“Phenomenal Woman”――は、待望のセカンド・アルバム『The Dreaming Room』における彼女の大きな変化を告げるものだった。
もちろん、シンフォニックに重なり合う厳かなコーラスや、クラシカルなストリングスを基調とする壮大な空間の広がりといった音楽性の芯となる彼女のユニークは変わらない。今回は全編にロンドン交響楽団がフィーチャーされ、幻想的な反響と残響を纏ったローラ自身の多層レイヤーによるクワイアをゆったりと包み込んでいる。それでも先述のダンサブルな2曲が残す印象はやはり強いもので、エレクトリックな度合いを増した意匠やビート感は、いままでにないオーガニックな躍動と昂揚を彼女の歌声に吹き込むかのようで素晴らしい。発掘者でもあるスティーヴ・ブラウンに替わってプロデュースを担当したのは、彼女のドラマーを務めるトロイ・ミラー。他にもジョン・スコフィールドやリオーネル・ルエケらが演奏に参加し、スピリチュアルな色合いを濃くした神秘的な音作りに寄与している。アトモスフェリックなアフロビートの“Let Me Fall”や、ブルージーな歌いっぷりの“Lucky Man”、クラシカルな展開が心地良い“Angel”、レッチ32がラップを交えたエミリー・サンデー風の“People”など曲調もさらにカラフルで、前作とはまた異なる荘厳さに強さも加えた大作だ。