ヒップホップとジャズ、ソウルがスリリングに交錯するLAアーバン・ミュージックの〈いま〉を象徴する存在と言っていいだろう。アンバー・ナヴラン(ヴォーカル)、マックス・ブリック(サックス/キーボード)、アンドリス・マットソン(トランペット/キーボード)から成るLAのスリー・ピース・バンド、ムーンチャイルド――2012年に発表したファースト・アルバム『Be Free』がDJジャジー・ジェフやジェイムズ・ポイザー、ジル・スコットなどフィラデルフィアの要人たちから激賞されて注目を集めた彼らは、続く2014年の2作目『Please Rewind』によってさらに高い評価を獲得。いまやバンドの周辺には、ロバート・グラスパー、クリス・デイヴ、ジ・インターネットといった時代のキーパーソンがひしめき合っている。

こうした状況のなか、ムーンチャイルドはクアンティクやアリス・ラッセルらを擁するUKのレーベル、トゥルー・ソーツと契約。昨年11月に『Please Rewind』の世界リリースを実現すると共に活動規模を一気に広げ、7月21日(木)~23日(土)に東京・丸の内コットンクラブにて早くも初来日公演を行うことになった。そんなタイミングでお届けする、あの空間をたゆたうようなサウンドの背景を紐解くインタヴュー。サックスやフルートも演奏するシアトル出身の紅一点、アンバーが答えてくれた。

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MOONCHILD 『Please Rewind』 Tru Thoughts(2015)

 

まず何よりも、3人で一緒に音楽を作りたかった

――トゥルー・ソーツを通じての『Please Rewind』の世界リリースから約半年が経過しました。反響はいかがですか?

「このうえなく上々です。これまでよりもずっと多くの人々にムーンチャイルドの存在を知ってもらうことで、ツアーやライヴもものすごく増えました。トゥルー・ソーツと組めて本当に良かったと思っています。彼らは本当に協力的なんです」

――メンバーの皆さんは南カリフォルニア大学(以下USC)のジャズ科で知り合ったそうですね。それぞれの音楽的なバックグラウンドを教えてください。

「私たちは、ジャズはもちろんアース・ウィンド&ファイアやスティーヴィー・ワンダー、マイケル・ジャクソンなども大好きなんです。アンドリスは子供の頃からピアノを弾いていましたが、USCではみんなそれぞれホーンの課程を受けることを目的としていました※。USCのジャズ課程ではソングライティングのコミュニティーが活発な活動を行っていて、まずそこで私が曲を作るようになったんです。それと並行してマックスとアンドリスも作曲やプロデュースを始めて、ピアノをより主体的に使うようになっていきました。さらにUSCは、私たちがディアンジェロやエリカ・バドゥ、ジル・スコット、キングといったアーティストに出会った場所でもあるんです。彼らの音楽に強い共感を覚えて、私たちはジャズやネオ・ソウルを志向するようになりました」

※マックスはサックス、アンドリスはトランペットをメインに演奏している

――グループが結成された経緯を教えてください。

「USCのジャズ課程で出会って、そこで親しくなってジャズを一緒に演奏するようになりました。私は2011年にシンガー・ソングライター的なEP(『Amber Navran Band』)をリリースしたのですが、そのときバック・バンドとしてホーンを務めてくれたのがアンドリスとマックスだったんです 。そのメンバーでツアーを行ったときは、同じ車で一緒に音楽を聴いたり、音楽について話したりすることに相当の時間を費やしました。そんななかで私たちの音楽センスがよく似ていること、そしてみんなで一緒に音楽を聴いて過ごす時間をとても楽しんでいることに気付いたんです。ツアー中にはみんなで曲を書いて、それが決め手となってこのプロジェクトを始めることになりました。私たちのヴィジョンはただ一つ、大好きなジャズやソウルのアーティストに対する3人の愛情です。自分たちが個々で書いた曲を持ち寄るとグッと良くなることに気付いて、最初のアルバム『Be Free』ではまず各々で曲やフレーズを作ることから始めてみました」

2012年作『Be Free』。アルバムにはベン・ウェンデル(ニーボディ)やラッセル・フェランテ(イエロージャケッツ)などがゲスト参加

――『Please Rewind』ではどのような作品をめざしましたか?

「まず何よりも、3人で一緒に音楽を作りたかったんです。『Be Free』の制作があまりに楽しくて、それによって少しずつ注目されるようになってきていたから、とにかくバンドを前に進めたいと思っていました。作曲やレコーディング作業に慣れてきたこともあって、『Please Rewind』ではプロダクションやストリングス・アレンジ、バック・コーラスなどにも積極的に関与するようになったんです。転調や間奏を多く入れていくことで、アルバム全体の構成にも配慮しました」

――『Please Rewind』を作り上げたことによる、最大の収穫はなんですか?

「私たちの音楽を多くの新しいリスナー聴いてもらえるようになったこと、それからムーンチャイルドをサイド・プロジェクトとしてではなく、ちゃんとした(メインの)仕事として取り組めるようになったことですね。ムーンチャイルドとして活動を行うことはとても充実した音楽体験になっていて、それをこれからも続けていけるなんて本当にエキサイティングです。作品を発表するにようになってからは、自分たちがずっと聴いてきた大好きなアーティストと共演したり、SNSでコミュニケーションを取ったり、直接会ったりすることもできるようになってきました。最初のアルバムをリリースしたあとには、ジル・スコットやジェイムズ・ポイザー、DJジャジー・ジェフ、9thワンダーがTwitter上でムーンチャイルドを紹介してくれたんです。もう信じられませんでした! 自分たちが大きな影響を受けたアーティストと実際に会って話すことができるなんて、本当に幸せなことですから。また、ムーンチャイルドを始めたことによって、これまで行きたくても行けなかった場所に訪れる機会もたくさん与えてもらいました。まさに今度の日本がそうですね!」

DJジャジー・ジェフとジェイムス・ポイザーによるムーンチャイルド“Be Free”のリミックス