70年代のロックはこんなにオモシロかった! ROLLYが70年代の日本のロックをカヴァーした昨年リリースの『ROLLY'S ROCK CIRCUS~70年代の日本のロックがROLLYに与えた偉大なる影響とその影と光~』に続く、『ROLLY'S ROCK THEATER ~70年代の日本のロックがROLLYに与えた偉大なる影響とその光と影~』を完成させた。今回は前作にも登場した外道はっぴいえんどらロック・レジェンドの楽曲に加え、ツイストチューリップ原田真二など、よりポピュラーで親しみやすいナンバーもカヴァー。そこにロックと歌謡曲をポップに掛け合わせてきたROLLYのマニアックなセンスが光る。

ロック馬鹿・ROLLYの〈カッチョイイ~!〉が詰まった本作は、ロックに捧げた最高にグラマラスなラヴレターだ。今回はそんな最新アルバムに込めた熱い想いを訊いた。

ROLLY ROLLY'S ROCK THEATER~70年代の日本のロックがROLLYに与えた偉大なる影響とその光と影~ キング(2016)

 

洋楽と邦楽を自由に行ったり来たりできる

――待望の続編ですが、前作の反響はいかがでした?

「物凄く手応えを感じましたね。それまでなら僕のコンサートには来てくれなさそうな、僕より年上の方……50代後半くらいのおじさんなんかが〈お! はっぴいえんどに外道、四人囃子もやってるんやんけ〉と興味を持ってアルバムを聴いてくれて。〈これまであんたのことをイロモノやと思ってたけど、実際聴いてみたらいいやんか!〉ってコンサートに来てくれたんです。それで僕がターゲットにすべきなのは、そういう人たちじゃないかと気が付いたんですよ。僕は4つ上の姉が聴いていた音楽の影響が大きかったから、中学生の頃は外道やら四人(囃子)やらはっぴいを聴いていて、同級生とはあんまり音楽の話が合わなかった。そういうわけで、前作は70年代前半の曲が中心だったんですけど、今回は70年代後半な感じ。自分がギターを始めた頃……キッスクイーンベイ・シティ・ローラーズエアロスミスエンジェルみたいに、ロック・バンドとアイドルが共存していた時代を意識しているんです。前回はちょっと背伸びしてダークでサイケな質感だったけど、今回はもろグラムでロックンロールな感じになっていて、より自分らしい。前作がビートルズで言う〈赤盤〉なら、今回は〈青盤〉ですね」

――確かに前作よりポップでヴァラエティーに富んでいますね。

「ジャケットの色味もカラフルでしょ? 前作はモノクロで今回がカラー」

――しかも、前作がスコーピオンズ〈復讐の蠍軍団~イントランス〉(75年)、今回がUFO〈UFOライヴ〉(79年作)のジャケットへのオマージュというのもROLLYさんらしいというか(笑)。

「(目がキラリと光って)そう! 微に入り細を穿つというかね、わかる人にはわかる」

(左から)前作のジャケット、スコーピオンズ〈復讐の蠍軍団~イントランス〉のジャケット
 
(左から)今作のジャケット、UFO〈UFOライヴ〉のジャケット
 

――でも、なぜジャケットは邦楽じゃなくて洋楽なんですか?

「前回、ROLLYのイメージをいい加減変えようという話になって。どアホなのは間違いないんですが、カッコイイ路線の写真を撮ってみよか?ってモノクロで撮ってみたら、〈イントランス〉みたいな感じになったんですよ。それが凄く良かったので使ったんですけど、スコーピオンズときたらUFOじゃないですか、(マイケル・)シェンカー繋がりで」

――偶然から生まれたシェンカー繋がり(笑)。

「このジャケがUFOだということがおわかりになったのなら、“Only You Can Rock Me”(UFOの78年作『Obsession』収録)って曲は知ってます? 今回“雨あがりの夜空に”をカヴァーするにあたって、この曲はあまりにも有名な曲すぎるし、清志郎さんのアーティスト・パワーが凄すぎるので、どんなふうにカヴァーしようかいろいろと考えたんですよ。そこでディスコ風にやってみるとか、そういうのは良くないと思うんですよね。この曲を愛している皆さんは、きっとこの曲をクラブ・ミュージック風にするのは好きじゃない。かといって、まったく同じにするのも変。〈自分なりの解釈にするのはどうすれないいんだ!〉と思っていた時に、(低い声で)そ~いえば~と思い出したのが……じゃあ、まず“雨あがりの夜空に”の本物を聴いてみましょう。(スマホのYouTubeで映像を出して)こういう曲ですよね」

RCサクセションの80年作『RHAPSODY』収録曲“雨あがりの夜空に”
 

「では、次にUFOの“Only You Can Rock Me”いきますよ」

――あ、似てますね!

「でしょう? UFOっぽくやることで、テンポもヘヴィーになって良いんじゃないかと思ったんです」

――意外な組み合わせですね。UFOとRCサクセションのファンってたぶん被らないじゃないですか。

「被らないですよね。でも、僕はどっちも知っていたんですよ! それが突破口になった。僕はデビュー以来、一貫して歌謡曲っぽいテイストとロックを合体したような曲に、チープ・トリック風味を被せる、ということをやってきたんです。近田春夫さんみたいに、洋楽と邦楽を自由に行ったり来たりできる人物として26年間やってきた。だから、今回のアルバムも邦楽のロック・カヴァーなんだけど、曲の表面にコーティングされているものとか、曲の中に入っているお楽しみ要素は、存分に洋楽テイストなわけですよ。キッスモット・ザ・フープル、UFOみたいなグラム~ハード・ロック路線で。メタルじゃなくてね」

――なるほど、だからジャケが洋楽でもおかしくないわけですね。前回に比べると“雨あがりの夜空に”“燃えろいい女”“てぃーんず ぶるーす”といった、多くの人が知っている名曲のカヴァーを収録しているのが、今回の特徴のひとつですね。

「前回のアルバムでいうと“タイムマシンにおねがい““たどりついたらいつも雨ふり”と同じ枠ですね。そういう名曲をやろうと思ったのは、前作を出した後、全国のイオンモールなどの催し物広場でキャンペーンをしたんですよ。その時に、まったく僕に興味がなさそうなおじさん、おばさんに向かって、曲を演奏する前に語りかけたんです。(穏やかな口調で)〈皆さん、1972年には何をされていたでしょうか。1972年と申しますと、浅間山荘事件、カップヌードル発売なんかがありました〉とか言っていると、歩いてたおじさん、おばさんたちが集まってくる。そこで“タイムマシンにおねがい”のような曲をやると、みんな一緒に歌ってくれるんですね。それで、みんなが知ってる名曲はいいもんだ!というのがわかりまして、今回“雨あがりの夜空に”や“燃えろいい女”をやってみようという気になったんです」

――なるほど。“燃えろいい女”は原曲のイメージに忠実なカヴァーですね。

「いや、意外と皆さん、オリジナルの曲の印象を忘れてしまっているんですよ。もっと熱い演奏を想像してますけど、実はそうでもない。(YouTubeでオリジナル曲を聴きながら)ね?」

ツイストの79年作『ツイストII』収録曲“燃えろいい女”、80年のパフォーマンス映像
 
今作に収録されたROLLYによる“燃えろいい女”
 

「オリジナルの演奏って、実はソフトなんですよ。ツイストはロック・バンドですが、当時は歌謡曲として売り出されているからオケは歌謡曲っぽいんです。ライヴはハードにやっていましたけどね。ここ数年、世良さんと年に数回一緒にライヴをやっていて、世良さんの熱量に影響されましてね。(今回のカヴァーは)原曲の1.8倍くらいの感じでやろうと」

――最近の世良さんのエキスが入ってるんですね。

「そう。最近マーティ・フリードマンとやってる世良さんは、かなり重くなっていますが、さらにそこに盛ってみました。今回のアルバムには、原曲に盛ってみたパターンと違う形でやってみたパターンがあるんですけど、そういうのを考えるのが楽しいのよねえ(笑)」

――楽しいんでしょうね(笑)。原田真二さんの“てぃーんず ぶるーす”も原曲よりワイルドですね。

「原田真二さんはね、中学の同級生の女の子はみんなメロメロでした。ちょっと大人ぶった女の子はCharさんなんかが好きでしたけどね。だから僕は、原田さんに対してはスーパー妬いてた! ジェラってたね。何しろルックスが最高で、若いし、才能があるし、日本のマーク・ボランでしたよ。姉が買ってた〈明星〉で初めて原田さんを見たんですけど、レスポールを持って、カーリー・ヘアーで、衿の広いサテンのスーツなんかを着てるわけ。もう、カッチョイイ~! 悔しい~(笑)! その頃、原田さんは“てぃーんず ぶるーす”“キャンディ”“シャドー・ボクサー”と3曲連続でベスト10入りしてたのかな。その後、『HUMAN CRISIS』(80年作)というプログレ・アルバムを出していて、それはよく聴きましたね。“てぃーんず ぶるーす”はシティー・ポップみたいな曲なんですが、YouTubeでカッチョイイヴァージョンを発見して、このアルバムにピッタリだと思ったんです。このヴァージョンを聴くまで、この曲を入れることは考えてなかったんです」

原田真二の77年のシングル“てぃーんず ぶるーす”、〈カッチョイイヴァージョン〉の78年のパフォーマンス映像
 

――うわあ、原田さん、ピアノじゃなくてギターを弾きまくってますね。確かに〈カッチョイイ〉! その一方で、チューリップ“銀の指環”のほうは原曲のポップさを活かしてますね。

「これは本物そっくりにやってみました。今回ドラムを叩いてくれた松本淳はチューリップの3代目ドラマーなんですよ。つまり、〈オリジナルが叩く〉というのがこのカヴァーのウリなんです(笑)。そしてもうひとつ。この曲、僕はスレイドっぽく感じていたんですよ。スレイドの“Cum on Feel the Noize”(73年作『Sladest』収録)ってあるじゃないですか。あの曲のAメロのバッキング・ギターわかります(口でギターのフレーズをハミングする)? このギターと“銀の指環”が似てると子供の頃から思っていて、それで今回はスレイドみたいに演奏しようと。だからそっくりに聴こえるけど聴き比べてもらうと違いがわかると思う」

――チューリップとスレイドが出会うとは! RCサクセションとUFOの出会いといい、まさにROLLYワールドですね。で、このあたりが70年代ロックの〈光〉なら、乱魔堂頭脳警察は〈影〉といった感じですね。

「乱魔堂や頭脳警察は当時レコードが手に入らなくて、ちょっと後になってから聴いたんです。乱魔堂は前作でいうとフラワー・トラヴェリン・バンド枠。物凄い悪魔的なギター・プレイを1曲入れたくて。サイケデリックというかね。乱魔堂のアルバム(72年作『乱魔堂』)には1曲目に“ちぇ!”というはっぴいえんどみたいな曲もあるんですけど、アルバムのなかでもっとも恐るべき“可笑しな世界”という曲を選びました。これはもう、存分に(ギターを)弾きまくりましたね。 頭脳警察は、PANTAさんとご一緒する機会も多くて、そのたびに〈いつか、“さようなら世界夫人よ”をやりたいんですよ〉と言っていたものの、歌詞の著作権の問題で許諾が下りなかったんです」

――それは残念です。頭脳警察、四人囃子、サディスティック・ミカ・バンド、はっぴいえんどの4バンドは前作でもカヴァーしていましたが、それだけROLLYさんにとって重要なバンドということでしょうか。

「そうですねえ。最初は重ならないようにしようかと思ったんですけど、やっぱりこの4バンドはマストだと思いまして。でも、例えば四人囃子の“ハレソラ”は、森園(勝敏)さんが脱退して、佐久間(正英)さんがメインで、佐藤(ミツル)さんがヴォーカルをやっていた頃の曲だったりして、選曲で70年代後半感を出してるんですよ」

前作に収録された、サディスティック・ミカ・バンド“タイムマシンにおねがい”のカヴァー
 

――そういうこだわりがあるんですね。なかでもサディスティック・ミカ・バンド“黒船”はアルバムを見事に締めてましたね。

「今回、キングレコードの夏目さんから、〈ギタリストとして弾きまくったギター・インスト曲をやってください!〉という注文がありまして。日本のロックで一番有名なギター・インスト曲といえばクリエイションの“スピニング・トー・ホールド”やん、とか、何をやるかいろいろと考えたんですけど、なかでも“黒船”がやりたかったんです。でもアルバムを締め括るのに相応しい曲になったので、やって良かったですよ。夏の終わりにビーチで入道雲を見上げているような、そんな絵が見えてくる曲ですね」

※外道なども担当していたディレクター