INTERVIEW

友よ、濡れた背中にコートをかけてやる―柴山一幸が無垢なポップセンスで奏でる、諦めきれない40代のロマンティシズム

柴山一幸『Fly Fly Fly』

友よ、濡れた背中にコートをかけてやる―柴山一幸が無垢なポップセンスで奏でる、諦めきれない40代のロマンティシズム

そろそろ人生も折り返し地点を過ぎた40代。このまま終わってなるものかと子どもみたいに駄々をこね、悪あがきして、もう一度、見果てぬ夢を見ようとしている男がいる――シンガー・ソングライターの柴山一幸は、2001年にカーネーション青山陽一らを輩出したメトロトロンからデビュー。ファースト・アルバム『Everything』(2001年)は注目を集めたが、その後、長らく音楽活動を休止していた。そんな柴山は2008年に『涙色スケルトン』で7年ぶりにシーンに復帰。以降、『I'll be there』(2012年)、『君とオンガク』(2013年)、『YELLING』(2015年)とコンスタントに新作を発表してきた。彼が愛するビートルズ直系のポップセンスと親しみやすいメロディーは、アルバムを出すごとに磨きがかかり、いままさに全盛期を迎える勢いだ。

そんななかでリリースされた新作『Fly Fly Fly』は、間違いなく柴山の新たな代表作とも言える充実した内容。中2病的な屈折とロマンティシズム、そして大人のビターさを併せ持つ柴山の歌世界を紐解くべく、『Fly Fly Fly』の全曲解説をここに敢行した!

柴山一幸 Fly Fly Fly mao(2016)

 

 〈ジョンの魂〉の世界に入り込んでしまった

――2008年に復帰して以来、順調に新作をリリースしていますが、音楽に向き合う姿勢は何か変わりました?

「いまだに何のために音楽をやっているのかよくわからなくて。メトロトロンからファーストを出せたことは、もともとカーネーションのファンだったので凄く嬉しくて、でも同時にコンプレックスもあったんですよ。カーネーションやムーンライダーズ周辺の方たちって音楽に詳しいじゃないですか。映画や本、サブカルとかも。でも、僕はそういうのにあまり興味がないんですね。僕はちょっと違っていて、単純にロックスターに憧れているというか、『ミュージックステーション』にも出たい……なんて言うと周りから笑われるんですけど、生まれつき自分を認めてほしいという欲求が強いんだろうなと思いますね。自意識過剰というか、電車に乗っていても他人の視線が気になるし。もう、中2病ですね(笑)」

――知る人ぞ知るミュージシャンでは我慢できない?

「狙って作っているわけじゃないんですが、僕の音楽はメロディーがポップというか、悪く言えば下世話。それはたぶん、みんなに認めてほしいという気持ちが強いんだと思います。僕くらいの歳になると、若い頃はメジャーなところでやって、歳を取ってだんだん自分のスタイルでマイペースにやっていくミュージシャンも多いじゃないですか。自分の趣味を突き通すみたいな感じで。僕はそんなふうに音楽をやるんだったら別の仕事でもっとお金を稼ぎたい」

――じゃあ、〈あそこにいたい!〉とめざしている場所ってあるんですか?

「僕が音楽をやっていく原動力として、はっきりしているのはビートルズなんですよ。ヨーコさんがさいたまスーパーアリーナでやっていたイヴェントがあるじゃないですか。あのイヴェントに参加して、ヨーコさんと一言でも喋れたら、もうそれで音楽を辞めていいと思っています」

※Dream Power ジョン・レノン スーパー・ライヴ。オノ・ヨーコの呼び掛けで2001年から毎年開催していたチャリティー・ライヴで、2013年の回を最後に現在は休止中。2004年からは東京・日本武道館で行われている

――それくらいビートルズが大きな存在なんですね。

「そうですね。ビートルズを聴きはじめたのは中学校の時で。それまでオフコースユーミンを聴いていたんですけど、オフコースのメンバーがビートルズ、ビートルズと言っていたので、聴いてみようかと思ったんです。最初は初期の作品を聴いていたんですけど、ロックンロールな感じにピンとこなくて、それで後期の作品を聴いているうちにポール(・マッカートニー)の曲が好きになっちゃって。その後、それぞれのソロ・アルバムを聴いてみたんです。最初に買ったのが、ポールは『McCartney II』(80年)でジョージ(・ハリスン)が〈慈愛の輝き〉(79年)で、リンゴ(・スター)は忘れちゃったんですけど(笑)、ジョン(・レノン)が〈ジョンの魂〉だったんですよ。そこで〈ジョンの魂〉の世界に入り込んでしまって、そこから抜け出せなくなってしまったんですよね。世の中の若者がブルーハーツ尾崎豊に惹かれるみたいな感じで」

ジョン・レノン(プラスティック・オノ・バンド)の70年作〈ジョンの魂〉の序曲となる“Mother”
 

――〈ジョンの魂〉のどんなところに惹かれたんですか?

「自分と同じようにもやもやしたものを持っていて、もしかしたら音楽に出会わなかったら犯罪を犯していたかもしれないような人が、音楽を通じてこんなに世間から認められて愛されている。そこに惹かれたんです。それ以来、ずっとジョンの仲間に入れてほしいと思ってきたんですよね」

――柴山さんの音楽は、どちらかというとポールっぽいメロディーやポップセンスが評価されてきたじゃないですか。それが前作の『YELLING』あたりから生々しさを感じさせるようになって、〈ジョンの魂〉っぽさが感じられるようになってきたと思うんですよね。その変化はどこからきたんでしょう。

「どういうアルバムを作りたいか、ぼんやりとしたイメージはあるんですけど、どちらかというと、その時のバンド・メンバーで何ができるかを考えるんですよ。メンバーが活き活きできるようなものをやりたいと思うんですよね。ひとりでやったら〈ジョンの魂〉しか出てこないので(笑)。(前々作の)『君とオンガク』の時はサウンド・プロデュースをやっていた炭竃(智弘)君がJ-Popにアニソンとか、ポップな作品を手掛けていた人なので、僕のポップな部分、ポール的な部分を出してくれていたと思います。『YELLING』から参加してくれた矢部浩志Controversial Spark/元カーネーション)さんや東京60WATTS杉浦(琢雄)君の演奏が合うサウンドを考えると、ソリッドでシンプルなロックンロールがいいんじゃないかと。僕自身そういうものがもともと好きなんですよね。だから、出会った人が自分の持っているものを引き出してくれるんです」

2014年作『君とオンガク』収録曲“君とオンガク”
 

――新しいバンド・サウンドに刺激されて、歌詞が赤裸々なものになっていったところはありますか?

「もともと、ぶっちゃけキャラではあったんですよ。一言余計なことを言って先生に殴られるとか(笑)。でも、30代までは、納得していないことも納得しているフリをしていたのかもしれないですね。若い頃は夢があるから〈夢をゲットするためにはやりたくないこともやらなきゃいけない!〉と思って真摯に生きていたと思います。でもこの歳になって先が見えてくると〈失ったら失ったでいいや〉みたいに開き直ってきた」

――そのやけくそ感というか、ふてぶてしさってロックンロールだと思うんですけど、そういう感情をいまのバンドだと乗せやすいんですね。

「そうですね。社会不適応者の集まりですから(笑)」

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