アイドル・ファンに加え、多くの音楽リスナーやミュージシャンたちを震撼させた初作『3776を聴かない理由があるとすれば』から1年。静岡・富士宮市のご当地アイドル、3776井出ちよのがソロ・アルバム『もうすぐ高校生活』をリリースした! 本作は3776のサウンドと世界観を作り上げてきた石田彰が引き続きプロデュース。現在高校受験の真っ只中である井出が、〈高校生になったらどんな女子になるのか?〉をテーマに、〈でしゃばり女子〉〈放課後バイト女子〉〈ギャル子〉など、9種類の高校生にふんした全9曲が並ぶコンセプト・アルバムで、9人の井出ちよのと共に高校生活を疑似体験できる――という仕様だ。

歌詞カードをめくれば、それぞれのヴィジュアルも撮り下ろされているので目にも楽しいうえ、ここでお届けするインタヴューの通り、サウンド面においてはももいろクローバーZ私立恵比寿中学といった、既存のアイドルの楽曲をイメージして制作されたという。これは、より〈ドルドル〉した井出を楽しめる、3776よりも正当なアイドル盤といえるかもしれない。

今回Mikikiでは、今夏自身のレーベル=PENGUIN DISCを立ち上げたばかりの南波一海を聞き手に迎え、ソロ名義での『もうすぐ高校生活』が出来上がった背景から、石田と井出の両者に話を訊いた。 *Mikiki編集部

★〈PENGUIN DISC〉について吉田豪が南波一海をインタヴューした記事はこちら

井出ちよの もうすぐ高校生活 Natural Make(2016)

 

3776に入りたい人って、だいぶすごい人

――3776は現在新メンバーを募集中ですが、いかがでしょう。集まってますか?

石田彰「(受付が)メールと郵送があって、メールのほうは全然来てないです。郵送はこっちで管理していないので、まだわからないですね。ただ、動画を撮る、というのを募集要項に入れているから、準備する時間が必要だと思うので。だから応募があるとしてもギリギリになるのかと思っています。締切が10月31日なので、いまは周知してもらう段階なのかな。でも、全然来ないかもしれないし」

――募集する地域は富士宮に限定していないんですよね。

石田「そうですね。もし東京でしかできないという人がいたら、地元は地元でできる子でやって、東京遠征のときだけ出るとか……全然どうなるかわからないです。ちよのは(応募が)来てほしくないって言っていますけど」

井出ちよの「そんなことは言ってない!」

石田「井出ちよのと一緒にやりませんかと募集しておいて、誰も来ないのもイヤでしょ」

――ひとりがいい?

ちよの「ひとりがいいんじゃなくて、ふたりがいいんです。3人も4人もイヤなんです」

石田「たぶん、派閥ができるのがイヤなんじゃないかと」

ちよの「派閥はヤだ! 派閥ができなくとも、私以外の3人に共通の話題があったとしますよね。遠征の途中でその話題になったらどうします?」

石田「こんなしょうもない理由ですよ」

ちよの「しょうもなくないです! あと、同い年くらいの子がそんなに得意じゃないので、いっぱいいらないなって。自分が疲れちゃう気がする」

――いろんな人とコラボしてるじゃないですか。

ちよの「コラボは一瞬の出来事なので。あと、いい子としかコラボしていないですから」

――最近だと963とか。

※963=くるみと読む、福岡・久留米のTV番組内の企画で生まれたローカル・アイドル。もともとは2人組だったが、現在はぴーぴるの一人ユニットとなっている

963の2016年のシングル“ストロー”、Kenichiro Nishiharaが作・編曲、ボンジュール鈴木が作詞を担当
 
3776と963がコラボしたパフォーマンス映像
 

ちよのPeach sugar snowamiinAとか。中身もいい子としか関わりたくないんです」

――しかも、コラボしてきた人たちはある程度の活動歴があるし、活動的にも比較的近しいところにいるから合わせやすいというのもあるだろうし。

ちよの「そうなんですよ!」

石田「だから、審査員に私も入れてくれ、と言われています。イヤな子は落とすからと」

ちよの「でも、そんなに来ない気がする。3776に入りたい人ってだいぶすごい人ですよね」

――変わった人でしょうね。

石田「存在を知っていたらそうでしょうね。3776を知らなくて、〈アイドル・グループがあるんだ〉くらいで間違って応募したりする子がいるかもしれない」

――『Audition』とか『Deview』で見て、手当たり次第応募している人もいますもんね。

石田「まさにそういう子が来てくれたら、とは思っています。もしかしたらおもしろい子がいるかもしれない。極端に遠くの子がいたらいたでいいかもしれないし……ないと思いますけど」

3776“僕だけのハッピーエンド”
 

――そもそも、なんで3776をまたグループにしたいと思ったんですか?

ちよの「この人は3拍子で踊ってるけど、この人は7拍子で踊ってる、みたいなのをやりたいというのは、前に言っていました」

石田「イヴェントでね。ひとりだとできることが限定されるので、いっぱいいろんなことをやりたいなと」

――でも、最初にTEAM MIIを始めたときは20何人といて、それが7人、5人、3人と減っていったわけじゃないですか。同じことがまた起きるのでは、という気もしてしまうのですが。

※3776の前身グループ。2012年の結成時は24人で、1年間限定での活動だった。地方公共団体の資本により結成された、全国的に珍しいアイドル・ユニットだそう

石田「そういうことがないようにちゃんと面談しようと思っています。今回は〈いつでも辞められます〉という文言も入れていないし(笑)」

富士山からまったく解放されて

――なるほど。ともかく、現時点ではひとりユニットである3776から井出ちよのがソロ・デビューしました。この話が出たときはどう思ったんですか?

ちよの「〈なに言ってんだろ?〉って(笑)。でも、前からアイドルっぽいことをやりたいというのは呟いていたんです。石田さんが好きなアイドルは結構ドルドルしているものだったりするので、そのうちすごくアイドルっぽい曲を作るかなと思っていたんですけど、本当にそういう曲だけでやるんだ、なるほど、と思いました。ただ、こういう体制になるとは思っていませんでした」

――アイドルっぽい曲をやるにしても、3776として歌うのではないかと。石田さんが〈井出ちよのソロ〉という形を執ろうと思ったのは?

石田「単純に〈井出ちよのが高校生になったらどんな女子になる?〉というコンセプトを思いついて、ちよのは来年高校生になるし、いましかないかなと。それと、うまくいけば3776はグループ体制になるかもしれない。いまやっているちよののソロ体制が好きな人もいるし、本人もグループはイヤだとか言っているので、こういう活動も別にあったらいいかなと」

ちよの「保険ということですか? 最悪だ!」

石田「そういう意味もなきにしもあらずで。だけど、コンセプトを思いついたのでやりたいな、というのが一番ですね」

――井出ちよのが高校生になったらどんな子になるかを想定して、1学期から3学期を3年分、全部で9パターンの楽曲を作るというコンセプトですよね。これは3776名義ではないから、富士山しばりの曲でなくてもよいという面もありますね。

石田「それはあります。富士山からまったく解放されて」

ちよの「解放(笑)」

石田「ご当地アイドルじゃなくて、ただ単にソロ・アイドルというのはやったことがなかったので。3776としてやるときは、やっぱりどこか富士山が引っ掛かってるところがあったんですけど、これはもう全然関係なく。『3776を聴かない理由があるとすれば』がバシッと出来ちゃったし、次の3776のアルバムを考えたときに全然思いつかないというのもありました」

3776の2015年のシングル“3.11”
 

――確かにあのアルバムの次に何を作るかというのは、やりにくいところではありますよね。

石田「変に注目されちゃったから。全然思い浮かばないし、それだったら思いついたこっちをやるのがいいかなと。高校生になる前のいましかできないし、しばらくは高校受験で休んじゃうし」

ちよの「次はどんなの作るんだろうと思っていたら、これ(ソロ)が始まった(笑)」

石田「おもしろそうって言ってなかった?」

ちよの「自分はTEAM MII時代からずっと変な石田節にずっと乗っかってきて、普通の(?)典型的なアイドルをやったことがなかったので、おもしろそうだなとは思いました」

――それで実際にソロ用の曲があがってきたわけですが、石田節ではなくドルドルしたものになりましたか?

ちよの「まだ(石田節が)残ってるって思いました!」

――あはは(笑)。今回、作家の名義はバラバラですけど、プロデューサーは石田さんですもんね。

ちよの「石田さんが作ってるんじゃないの? 曲をもらったときから感じてましたけど」

石田「いつもと違うからちょっとやりにくいって言ってたじゃん」

ちよの「やりにくいのは本当ですもん。いつもより石田節は少ないですよ? でも抜けきってない(笑)」

石田「いままでのよりかは普通のアイドル・ポップスっぽいとは思ったんだよね?」

ちよの「それは思ったけど、抜けてない」

石田「どこが抜けてないの」

ちよの「私がiPodに入れて聴いてるアイドルさんの曲の、どれにも当てはまらないから」