INTERVIEW

サキソフォニスト・清水靖晃、心の機微や明治の空気を繊細に表現したドラマ「夏目漱石の妻」のサントラを語る

photo by Shinya Matsuyama

 

NHK土曜ドラマ『夏目漱石の妻』の音楽は我ながら会心の作品である!

 この秋にNHKで放映された『夏目漱石の妻』は、あるゆる点で今の日本の放送界最高水準と言っていい良質なドラマだった。西洋と日本、栄華と没落、都市と田舎、男と女……様々な対比と混交の中で複雑に入り組み苦悩する登場人物たちの心情を見事に表現しきった音楽の作り手は、清水靖晃。私は観終わった後、あまりの感銘の深さに、すぐさま清水に連絡し、自宅まで押しかけて話を聞いたのだった。

 「この6月から8月までこれにかかりっきりでした」と語る清水は、自分でも会心の作品だと認める」

清水靖晃 NHK土曜ドラマ「夏目漱石の妻」オリジナル・サウンドトラック SUZAK MUSIC/IDEAL MUSIC LLC.(2016)

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 今回清水が作ったのは40曲ほど。そのうち計26曲は、最近発売された同名サントラ盤に収録されている。どの曲でも登場人物たちの心の機微、情景の陰影までもが繊細に描写されている。ベル・エポックの雰囲気をまとった軽快なテーマ曲《新しい時代のワルツ》には、まさに“坂の上の雲”時代の空気が充満している。

 「あのテーマ曲のメロディは、台本を読んだ段階でだいたい浮かんでいたんですが、撮影現場で完全にでき上がりました。NHKが作った漱石の自宅のセットが細部に至るまで実に素晴らしい出来で、それがこのテーマ曲の質感や匂いを決定づけてくれた」

 演奏はサックスのみならず、すべて清水が担当し、自宅スタジオで自分で録音したという。コンピュータを使ったストリングスのオケ・サウンドも、本物のオケ以上の艶やかさ、豊饒さだ。

 「譜面だけ書いてNHKで録音する人が多いけど、僕はだめなんです。なんか寂しいサウンドになって。自分のイメージしていた音の質感になかなかできないし、独特の匂いが出せない。自宅で全部一人でやると、作業としては大変だけど、完璧なものに仕上げられる」

 本ドラマの脚本、演出、演技、大道具などの素晴らしさも、清水のこのアンチザン魂があったればこそ完全なものになったのではないか、とさえ思える。

 劇中では1曲だけ、清水の演奏ではない曲が使われた。シューベルト《ピアノ・ソナタ第21番》(演奏は田部京子)。海辺で戯れる漱石たち家族の情景などのバックに流れるそれもまた、見事の一言だった。漱石の『草枕』を耽読した故グレン・グールドは、シューベルト作品の中で、生と死のイメージが複雑に絡み合ったこの曲だけが好きだったというが、そんなさりげない演出側の意図も感じさせる。

 できることなら、今回の制作スタッフで、文芸ドラマをもっと作ってほしいもの。

 「実は僕は谷崎潤一郎が一番好きでして。『お艶殺し』とか、もう既に音楽が頭の中で鳴っている(笑)」

 NHKさん、お願いします。

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