ドタバタだって、ぐちゃぐちゃだって、一緒に歩いていくしかない。頼もしいゲストたちと鳴らしたトラディショナルでチャレンジングな〈家族〉のカントリー・ミュージック!

 フォーク、カントリー、アイリッシュなどのさまざまなルーツ・ミュージックをオリジナリティー豊かな日本のポップスとして奏でてきた佐藤良成(ヴォーカル/ギター/フィドル他)と佐野遊穂(ヴォーカル/ハーモニカ他)によるデュオ、ハンバート ハンバート。3年ぶりのニュー・アルバム『家族行進曲』は、彼らのサウンドの重要なエッセンスのひとつ、〈カントリー〉がキーワードになっているらしい。そこには彼らが敬愛する細野晴臣が関係していた。

ハンバート ハンバート 家族行進曲 anahachi/SPACE SHOWER(2017)

 「去年、『FOLK』というカヴァー・アルバムを出して、細野さんとラジオで対談させてもらったんですよ。その時に〈なんで『FOLK』っていうアルバムを出したの?〉って訊かれたので、細野さんからいただいた年賀状に〈今年はFOLK SONGに励もう〉と書いてあったのでって答えたら〈ハンバート ハンバートはカントリーじゃないの?〉って言われて(笑)。僕の中ではフォークもカントリーも同じなんですけど、じゃあ、今回はカントリーというのを頭の隅において曲を書いてみようと思ったんです」(佐藤)。

 そして、いつもはセッションで曲を作り上げるところを、今回はデモテープをきっちりと作り、曲のイメージを明確にしてレコーディングに挑んだ。さらに、カントリー風味を引き出すため、フィドル、バンジョー、ピアノなどアコースティックな楽器を使用。あえて声を張らず、繊細な声で通した佐野遊穂のヴォーカルも印象的だ。

 「ライヴで歌うとどうしても声を張ってしまうので、声の印象が強くなってしまうんです。最近のアルバムもそういう傾向があったんですけど、今回の曲は、そういう朗々と歌う感じのものじゃないと思って。透明感のある感じにしたくて、声が太くならないように歌うことを心掛けました」(佐野)。

 アコースティックな楽器と澄んだ歌声。ハンバート ハンバートにとってある種の原点回帰となった本作では、きっかけを作った細野が“がんばれ兄ちゃん”でベースを担当。「細野さんの声が聴こえてくるような」(佐野)演奏を聴かせてくれる。また、昨年ツアーを一緒に回ったアイルランドのバンジョー・グループ、ウィ・バンジョー3が2曲で参加しているが、「アイルランドにいながら、トラッドだけじゃなくてカントリーやブルーグラスもやるところに自分たちに通じるものを感じた」(佐藤)というだけに、伝統を重んじながらもチャレンジを忘れない両者の相性はぴったりだ。

 そして、カントリーを意識しながらも、曲ごとに多彩なアプローチで楽しませてくれるのはいつもながらのこと。たとえば“あたたかな手”では、ラップのような歌い回しがユニークだが、その舞台裏では2人の火花が散っていた。

 「これまで歌に関しては遊穂に自由にやってもらっていたんですが、この曲に関しては、どこで(声を)張るとか、突っ込むとか、ちょっとモタるとか細かく指示したんです。歌うほうはかなり辛かったと思いますね」(佐藤)。

 「その代わり、歌詞にはすごくダメ出しをして(笑)。私は歌詞を映像に置き換えてイメージすることが多いんです。カメラワークを意識したりして。この曲は特にそういうところにこだわりました」(佐野)。

 全曲の歌詞を佐藤が手掛けているが、映画のように情景が浮かび、登場人物の感情が伝わってくる歌詞もハンバート ハンバートの魅力のひとつだ。“ひかり”では自殺を決意した主人公の心の変遷という重いテーマを選びながら、彼ららしい語り口が光っているし、そこから帰省の風景を通じて家族の絆を描いた叙情的な曲“ただいま”へと続く曲の流れも感動的だ。本作には〈家族〉を題材にした曲が多いが、最初から意識したわけではなく、完成した曲を並べた時に気付いたとか。3人の小さな子どもの両親でもある2人にとって、〈家族〉というのは身近なテーマなのだ。

 「世の中には仲の良い家族もいれば、うまくいってない家族もある。でも、嫌いだからって家族という関係からは逃れられないじゃないですか。ドタバタでぐちゃぐちゃだけど家族をやめるわけにいかない。そんな家族の姿を描けたらいいなと思って〈行進曲〉という言葉をつけたんです。とりあえず、家族として歩いていくしかないというか」(佐藤)。

 面倒臭いけど愛おしい家族。誰にとっても身近な歌がここにある。『家族行進曲』は、つまづきながらも歩き続ける人々に寄り添ってくれるアルバムだ。

 

ハンバート ハンバートの近作。

 

『家族行進曲』に参加したアーティストの作品。