クラシックとユーロ・ジャズからの影響をもとに、国内外で活躍を続けてきたジャズ・ピアニスト、西山瞳。ジャズ界に長く身を置きながら、NHORHMとしてへヴィメタル・カヴァー盤をリリースしたり、BABYMETALへの並々ならぬ愛をつづった記事でMikikiの年間アクセス・ランキングの首位を獲得するなど、メタル愛好家としても知られる彼女。そんな〈メタラーのジャズ・ピアニスト〉という立ち位置から、へヴィメタルについてアレコレ語り尽くす連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉が満を持してスタートします! ベビメタ・フィーヴァーも相まって〈近年ヘヴィメタルが再び盛り上がってきている〉という西山氏の証言もある中、ニュー・リリースのメタル盤の紹介でその最前線を追ったり、過去の名盤を取り上げてその歴史に迫ったり、西山瞳があらゆる角度からへヴィメタルのおもしろさを熱くお伝えしていきます。初回は、ご挨拶を兼ねて本人のメタル遍歴をつづっています。 *Mikiki編集部
こんにちは、西山瞳です。ジャズ・ピアニストの私が、メタルの連載をはじめることになりました。なぜこのような運びになったのか?今回は自己紹介がてら解説していきます。
私は2015年に、ヘヴィメタルの曲ばかりをピアノ・トリオでカヴァーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』と、翌年に続編『New Heritage Of Real Heavy Metal 2』をリリースしました。しかし、スウェーデン録音のアルバムでデビューし、心の師であるエンリコ・ピエラヌンツィの影響下でピアノ・トリオ作品を沢山リリースしてきましたので、突然〈ヘヴィメタルの曲をカヴァーしたアルバムを出すよ!〉とアナウンスした時は、周囲から非常に驚かれました。おまけに、ジャケットもヌードでしたから※(私ではなく、モデルは藤崎ルキノさんです)、どうかしてしまったのではないかと……。
しかし、私個人的には〈私のヘヴィメタル愛を発露するのは、今しかない!〉という思いがありました。
そもそもなぜこのカヴァ―盤を出すことになったかというと、2015年の1月に、音楽レーベルAPOLLO SOUNDSのディレクターと〈何か“クセ玉”的なおもしろい作品を作ろうよ〉という話で盛り上がりまして。
自分のリーダー作が10作品を越えて、ちょうど自分のプロジェクト以外の何かにトライしてもいいかなとは思っていた時だったのですが、私は何を隠そう元メタラー。ジャズ・ピアニストで私以上にメタルを聴き込んでいる人はおそらくいないだろうという確信もあり、近年ヘヴィメタルが再び盛り上がってきていること、自分自身がBABYMETALにハマりかけていることなども相俟って、できるのはこのレーベルしかない、これは千載一遇のチャンスだとも思い、〈メタルをジャズでやりましょう〉と提案して、発表に至りました。
とは言え実は今までも、作品を出すたびに行われるインタヴュー取材で、〈イングヴェイを聴いていた〉だの〈スティーヴ・ヴァイの“ファイヤー・ガーデン組曲”みたいなことをやりたかった〉だの、掲載されるかどうかは別として、度々お話して布石は打っていたのです。
私は子どもの頃からクラシック・ピアノを習っていて、高校2年の夏までは真面目に取り組んで音大受験の予定で準備をしていたのですが、ある時から情熱の糸が切れたようにまったく弾きたくなくなってしまって、レッスンをお休みしてピアノも弾かなくなってしまったことがありました。
その時に、身近にあったのが、ヘヴィメタルだったんです。当時は90年代半ば、周りのバンド小僧たちが聴いていたのは、ミスター・ビッグ、メガデス、パンテラなどでした。
当時、一番仲の良い友人の女の子がベースをやっていて、彼女のバンドのライヴを観に行ったら、イングヴェイ・マルムスティーンの“Never Die”“Meant To Be”という曲を演奏していたんです。これはおもしろいと思って、彼女に貸してもらったのが、『The Seventh Sign』(94年)というアルバム。ギターってこんなに綺麗な音で速く弾けるの……? なんかクラシックみたいなことやってるぞ……? 音数は多いけれど、叫んだり汚い音ではないし、こんなに緻密に作り込まれていて、これは相当技術的に上手じゃないと演奏できないよね……?と、今まで聴いたことのない音楽に俄然興味を持って、そこからイングヴェイを中心に聴いていくことになります。
それまでピアノ中心に音楽を聴いてきた私にとって、ヘヴィメタルのギターの世界はとてつもなくおもしろく、とんでもないものでした。新しい世界でした。
思っていたよりも、とてもテクニカル。
想像していたよりも、洗練されている。
そして、自分が思っていたより遥かに、音楽の幅が広い。
イングヴェイ以外で当時よく聴いたものは挙げればきりがないのですが、中でもよく聴いたアルバムは、ドリーム・シアター『Awake』、パンテラ『脳殺(Far Beyond Driven)』(共に94年)、メガデス『破滅へのカウントダウン(Countdown To Extinction)』(92年)などでしょうか。これらは、当時のバンド小僧は皆、聴いていましたね。ドリーム・シアターは、どのアルバムも本当に好きでした。一曲ごとの世界観に夢中になりました。
また、遡って、レインボーやディープ・パープル、ジューダス・プリーストの古い作品なども、よく聴いていましたね。ジャズを聴き始めた時のように、誰は元々どのバンドで、誰から影響を受けて、と、ディスクガイドを見て、さながら勉強するように樹形図を辿って聴いていた気がします。
〈『New Heritage Of Real Heavy Metal』を出すよ!〉と、初めてアナウンスした時におもしろかったのが、同世代のジャズ・プレイヤーのギタリスト、ベーシスト、ドラマーたちの反応でした。
〈実は僕はパンテラの出待ちをしたことがあって……〉
〈最初はYOSHIKIになりたくてドラムを始めて……〉
などと、出てくるわ出てくるわ、元メタラーが! こんなスウィングするギタリストも、最初はメタルやっていたのね! ECM的なアプローチが得意な素晴らしいドラマーも、最初はメタルに憧れて楽器を始めたのね!……などと、とても嬉しくなりました。
まあ、当然といえば当然なんです。我々の世代が中学・高校生の頃の90年代は、世間的にはすでにヘヴィメタルのブームは少し下火にはなっていたのですが、中高生が憧れる圧倒的にカッコいい楽器演奏といえば、ヘヴィメタルでしたから。
ヘヴィメタルって、まず楽器の技術が相当上手でないとできない音楽で、凄まじい鍛錬のうえで、それぞれの美学を貫徹するという、エクストリームなロックの発展系なんです。私もそうですが、エクストリームな表現をメタルで聴きすぎていたら、別の方向に技術的にエクストリームなジャズに興味を持つようになるプレイヤーが出てくるのも、ある面で自然なことかもしれません。
そして、私がメタルを聴いていて本当に魅力的に思ったのが、とりあえずメタルのギター・ヒーローは、皆、なんだかとてつもなく〈おもしろい〉。パフォーマンスもそれぞれ個性的だし、BURRN!誌やPlayer誌などで掲載されているインタヴューが、おもしろすぎる。こんな人たちだからこそ、超絶魅力的な音楽をやっているのか!と、見たことの無い世界に興味津々でした(ピアニストのインタヴューは、大体皆さん真面目ですからね)。今でも思っていますが、最高のピアニストが得られないメンタリティーを、最高のギタリストは皆持っているように感じるのです。だから、ヘヴィメタルも好きなのですが、同時にギター・ヒーローがとても好きなんですね。
そういう意味でも、Mikikiで2016年にマーティ・フリードマンさんと対談させてもらったのは、感無量でした。私が持参したメガデスの『Rust In Peace』(90年)のジャケットに快くサインをして下さって、高校生の自分に会ったら自慢したいです。
続く。
PROFILE:西山瞳
1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコースジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I'm Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5ヶ月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズプロムナード・ジャズコンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をスパイスオブライフ(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズフェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。
以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコードジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラートリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカヴァーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、全ての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。
2016年には続編アルバムも発売。自己のプロジェクトの他に、東かおる(ヴォーカル)とのヴォーカル・プロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズプロムナードをはじめ、全国のジャズフェスティバルやイベント、ライブハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。
Live Information
2018年5月1日(火)名古屋Jazz inn LOVELY
出演:NHORHM(西山瞳piano 織原良次fretless bass 橋本学drums)
開場/開演:18:00/19:30開演
チャージ:3,800円
名古屋市東区東桜1-10-15 TEL:052-951-6085
http://www.jazzinnlovely.com/
2018年5月2日(水)大阪Jazz cafe STAGE
出演:NHORHM(西山瞳piano 織原良次fretless bass 橋本学drums)
開場/開演:19:00/19:30
チャージ:3,500円+ドリンク※予約制ではありませんので、当日お越し下さい
大阪府伊丹市伊丹2-4-1 AI・HALL1F JR伊丹駅下車すぐ TEL.072-777-3818
http://www.geocities.jp/stage_jazz/
2018年5月3日(木)高槻ジャズストリート
13:00-13:45 現代劇場3Fレセプションルーム
17:00-17:45 桃園小学校FMココロステージ