INTERVIEW

特集「リズと青い鳥」 OST『girls,dance,staircase』二人の少女の繊細な関係性を牛尾憲輔が音像化。その儚く美しい世界観を映したコンセプト・ワークとは?

リズと青い鳥
高校の吹奏楽部でオーボエとフルートを担当する二人の少女の関係性を描いた人気小説が劇場アニメ化。その儚く美しい世界観をサントラと主題歌から紐解いてみよう

 


SOUNDTRACK by 牛尾憲輔

 

僕の作家性を抑えようと思って

 高校の吹奏楽部でオーボエを担当する鎧塚みぞれと、フルート担当の傘木希美。親友の二人は、高校生活最後のコンクールに挑む。そこで演奏する曲“リズと青い鳥”には、オーボエとフルートが掛け合うソロがあるけれど、なぜか二人の息は合わない。寄り添ったり、すれ違ったりする二人の心の行方は……。

 武田綾乃の小説「響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章」が、「リズと青い鳥」として劇場アニメ化された。監督は京都アニメーションの山田尚子で、このたび『girls,dance,staircase』と題して音盤化されたサウンドトラックを手掛けたのは牛尾憲輔。二人は映画「聲の形」に続いて2度目のコラボレートだが、牛尾にとって山田監督は同志のような存在らしい。牛尾は監督との関係をこんなふうに説明してくれた。

牛尾憲輔 girls,dance,staircase ランティス(2018)

 「音楽関係者も含めて、山田さんはこれまで共同作業した人のなかでいちばん波長が合うんです。 お互いにジャーマン・ニューウェイヴが好きだったり、あと、DJヘルの話でいきなり盛り上がったり。10代の頃に聴いてきた音楽が同じで、アニメの世界でそういう話ができる人っていないんですよ。それに僕は『けいおん!』の時から山田さんのファンだったし、山田さんは僕の音楽を聴きながらコンテを切っていてくれたらしい。映画『聲の形』で初めて一緒に制作した時は、山田さんとバンドを組んだつもりでいました(笑)」。

 通常、作曲家が映画に参加するのは作品が完成した後だが、牛尾は映画制作の初期の段階から、監督を中心とする制作チームに参加。主要スタッフのひとりとして、監督と一緒に作品のコンセプトを練り上げていった。そして、そのコンセプト・ワークが、牛尾の音作りにも大きな影響を与えている。

 「今回、コンセプト・ワークのなかで〈物の視座〉というような言葉が出たんです。みぞれと希美の繊細な関係は、ほかの人たちに知られたくないもの。二人だけの秘密なんです。そんな二人を見ているのは、ビーカーだったり、窓だったり、教室にあるいろんなモノだけなんですよね。だから、まずそういうモノの音が必要だと思ったんです」。

 そして、牛尾はモノの音を録音するために、映画の舞台=実在する学校に向かい、フィールド・レコーディングを行った。

 「音楽室の譜面台を棒で叩いたり、生物学準備室にあるビーカーを弓で弾いたりして、二人を取り巻くモノを楽器として使うことからサントラ作りがスタートしました。そういう音がまずメインにあって、その音を邪魔しない楽器で肉付けしていったんです」。

 そこで採集した音を細かにエディット。二人のヒロインの動きや感情に合わせて、囁くようにさまざまな音が響き合う。そんな緻密な音作りに加えて、やはり映画のコンセプトに触発された実験的な手法からメロディーが生まれた。

 「〈デカルコマニー〉という手法なんですけど、紙にインクを垂らして、紙をふたつに折ってくっ付けると、良く似ているけど微妙に違うふたつの絵が出来るんです。そのやり方を楽譜に応用して作曲しました。みぞれと希美が相似形を取りながら、双子惑星のように動いていく物語なので、デカルコマニーで生まれる、似ているけど少し違う図形と通じるものがあると思ったんです」。

 そうやって、独自のアプローチで作り上げられたサントラは、物語を盛り上げるための劇伴というより、空気感やムードを醸し出す音響的なサウンドになった。それだけに効果音との兼ね合いが難しく、音を作り込んでいくうえで緻密な作業が必要だったそう。

 「普通の劇伴だと、〈音楽の音量を上げてくれ〉〈いや台詞が大事だ〉って音響監督さんとのせめぎ合いがあると思うんですけど、今回は〈全部、音楽を下げてほしい〉って頼みました。物音があまり強すぎるとホラーみたいになるんです。それに、劇伴よりも二人が演奏する“リズと青い鳥”のメロディーが観客の印象に残ってほしかったので、僕の作家性を抑えようと思って。最初は不安で、今よりメロディーを入れようとして、それが原因でうまく映画にはまらなかったんです。それに気が付いてからは、いかに音を削っていくかというのが課題になりました。そのへんの調整にはかなり苦戦しましたね」。

 

物音ミュージカル

 そんななか、驚かされるのは映画のオープニングに使用された“wind,glass,bluebird”だ。登場人物の動きに合わせて、さまざまな物音が組み合わさり、それが音楽を奏でていくというミュージカルのような演出に驚かされる。

 「僕らは〈物音ミュージカル〉と言ってたんですけど、大変な作業でした。まず、監督が〈このシーンではこういうことが起こります〉という簡単なコンテを書いて、それを見ながら僕が音をはめていくんですけど、歩く歩数とかカット割のタイミングとか、音の都合で映像を全部変えちゃうんです。最終的に音に合わせてアニメを作っていく。だから、アニメのスタジオで音を作っていたんです。でも、この演出ってやりすぎるのも良くないので、観る人が〈あれ? これ音楽になっているんじゃないかな〉って気付くか気付かないかくらいに抑えました。でも、そこで気付くと全体の音楽の聞こえ方が大きく変わっていくと思います」。

 また、本作にはヴォーカル曲も1曲収録。エンドロールに使用された“girls,dance, staircase”は山田監督が歌詞を担当。ボーイ・ソプラノの歌声が美しく映え渡る。

 「この映画のコンセプトのひとつでもある、〈聖なるもの〉を最後に曲で表現したかったんです。ラスト・シーンでみぞれと希美が学校から出て行った後、そこに残されたモノたちの視線を美しく描きたいと思って。それで監督と話をするなかで、ボーイ・ソプラノを使おうということになったんです。歌詞は映画のコンセプトをいちばん理解している山田さんが適任だと思いました。〈ぜひ、やりたい!〉とおっしゃってたんですが、スタジオで紙とペンを持ったまま固まってましたね(笑)」。

 みぞれと希美のように、映像と相似形の関係でユニークなサントラを作り上げた牛尾。劇伴の仕事が増えるなか、映画音楽に対する興味を、こんなふうに語る。

 「良かったサントラで思い浮かぶのは、トレント・レズナーの『Social Network』とか、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの『Good Time』とか、あとヨハン・ヨハンソンが関わった作品とか。やっぱり、アーティストが制作したサントラが気になるんです。その人のカラーが自然と音に出てるから。映画音楽は、ジャンルで言えばオール・ジャンルを求められるので、プロの作曲家の方々は血の滲むような努力をして、いろんな表現方法を身に付ける。彼らがたくさんの蔵書を持つ図書館みたいな存在だとしたら、僕は個人営業の、SF専門の書店みたいなもの(笑)。できることとできないことがあるけど、自分のカラーを出しながらサントラを作っていけたらと思ってます」。

 「リズと青い鳥」のサントラは、牛尾書店に並べられた愛すべき一冊。ページをめくれば、そこには音で綴られた映画の世界が広がっている。

★Homecomings“Songbirds”二人の少女の一瞬の季節をそっと見守るエヴァーグリーンな主題歌について、福富優樹が語る

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