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2018年のソウル復刻&発掘タイトル、私的ベスト10はこれだ! 選・文/出嶌孝次

THE FOUR TOPS The Complete ABC/Dunhill Singles Real Gone(2018)

テンプテーションズの新作が素晴らしい収穫だった2018年……というところから繋げるのは強引だとしても、彼らと並ぶ60年代モータウンの看板グループがABC/ダンヒルに移籍してからのシングル集もまた大きな収穫であった。ロッキッシュなファンク感を纏った移籍ヒット“Keeper Of The Castle”(72年)をはじめ、エレガントな成熟味を湛えたこの時代最大のヒット“Ain't No Woman(Like The One I've Got)”など、72~79年のシングルA/B面を網羅した2枚組で、13曲は初CD化。後世から見た全盛期でなくても、その時代ごとの魅力が発見できるという好例。

 

THE O'JAYS Serious EMI America/Expansion(1989)

2018年のソウル界における大ニュースといえば……エディ・リヴァートが示唆したオージェイズの2020年での引退。このタイミングでリイシューされたのが息子のジェラルドらを制作陣に起用してリフレッシュを図った80年代最後のアルバムだった。現時点で最後のNo.1ヒット“Have You Had Your Love Today”を含む意欲作で、ヴェテランなりに当時のストリート色を導入した熱い内容は、ニュー・ジャック・スウィング再評価の文脈でも楽しめるはず。そうでなくてもグループ結成60周年という節目ではあったわけで、新年に控えるラスト・アルバム『The Last Word』も楽しみでならない。

 

VARIOUS ARTISTS Westbound Disco Westbound(2018)

「サタデー・ナイト・フィーバー」上陸40周年に絡めて日本でも往年のディスコ関連リイシューは凄まじかったが、いろんな意味でのディスコ発掘は世界中で進行している。こちらは着々と復刻を進めるウエストバウンドのディスコ音源集で、その道の開祖となるトム・モウルトンのディスコ・ミックスを中心にコンパイルされたものだ。〈Studio 54〉で最初にプレイされたと言われるCJ &カンパニーの“Devil's Gun”をはじめ、デトロイト・エメラルズの“Feel The Need”、キング・エリソン“Manhattan Love Song”などが長尺で収録された強力な一枚となっている。

 

VARIOUS ARTISTS Baby I've Got It: More Motown Girls Ace(2018)

もはや聴ききれないほどの量が積み上がっているモータウンの蔵出しだが、エイスによる女性シンガー/女性グループの未発表音源を集めた〈Motown Girls〉シリーズ第3弾はやはり外せない内容になっていた。グラディス・ナイト&ザ・ピップスが66年にモータウンで初録音したという“In My Heart I Know It's Right”など数曲はかつて配信で蔵出しの済んでいる音源ながら、すべて初CD化となる大半の楽曲は完全未発表だったものだ。録音年代の幅が61~69年と広いだけに曲調もさまざまで、運のなかった面々も多くいるとはいえ一定以上のクォリティーなのは流石。

 

CARRIE LUCAS Dance With Me: The Solar & Constellation Albums SoulMusic(2018)

ソーラー音源の何度目かの復刻キャンペーンが英国と日本で別個に始まった2018年。その動きはまだ続いている最中だが、ひとまずの収穫となったのはレーベルきってのディスコ・クイーンが系列レーベルに残した全アルバムを含む6in3のセットで、すべて単体で20年近く前にCD化されて以来の復刻となる。ウィスパーズやレイクサイド、シルヴァーズ、フェンデレラら各時代の人気者たちが裏方となって手掛けた華やかな佳曲揃い。“I Gotta Keep Dancin'”(77年)や“Dance With You”(79年)を筆頭に、これまたディスコ再評価の流れで聴かれてほしいタイトルだ。

 

NEW EDITION Candy Girl Streetwise/OCTAVE(1983)

ボビー・ブラウン久々の新曲も届いた2018年……その原点にあたるバブルガム・グループの金字塔もリイシュー。アーサー・ベイカーが主宰するストリートワイズの復刻シリーズの一環で、スタイリスティックスのモーリス・スター制作盤『Some Things Never Change』『A Special Style』と並んでの登場となった。当時のヒップホップ(エレクトロ)を大胆に導入した瑞々しいポップさはいまも変わらない。10年前の25周年時にもリイシューはあったが、これは言うなれば35周年記念盤と言ったところで、表題曲の〈Sing-A-Long Version〉などシングル音源も追加収録されている。

 

IKE WHITE Changin’ Times LAX/Trio/OCTAVE(1976)

世界初CD化もまだまだ出てきた2018年。これは〈Ultimate Breaks & Beats〉収録の“Love And Affection”で知られるレアなニュー・ソウル盤で、収監中だった主役が刑務所内で5年かけて制作したという唯一のアルバムだ。ジェリー・ゴールドスタインの指揮下でグレッグ・エリコ(元スライ&ザ・ファミリー・ストーン)がプロデュースとドラムスを担当し、ダグ・ラウチ(元サンタナ)がベースを弾いた演奏は相当タイト。現代にも通用する長尺メロウ・ナンバー“Changin' Times”やストーン・ローゼズを連想させるリズミックな“Comin' Home”など、いま聴いても新鮮な閃きでいっぱいだ。

 

THE SPINNERS While The City Sleeps -Their Second Motown Album Plus Bonus Tracks Real Gone(2018)

このあたりは時流と関係なくマストと言っておきたい、モータウン傘下のVIPに残された名盤『2nd Time Around』(70年)に初出の10曲+初CD化の3曲という蔵出し音源をプラスした増補盤。60年代的なスタイリングで整えられた未発表音源の数々を聴けば、スティーヴィー・ワンダー作の“It's A Shame”がいかに画期的だったかもわからんではない。初作の同形態によるリイシュー『Truly Yours - Their First Motown Album With Bonus Tracks 1963-1967』(2012年)と比べれば驚きは小さいものの、ケント・ソウルらしい明快な解説もあって毎度の発掘ロマンが広がる。

 

CHIC The Chic Organization 1977-1979 Rhino(2018)

シック名義で久々にアルバムを発表したタイミングに合わせてナイル・ロジャーズが監修した決定盤。シックの1~3作目とシスター・スレッジのブレイク作『We Are Family』に、別エディットや12インチ・ミックス音源集〈Original '77-'79 Remixes & Edits〉を加えた5枚組ボックスで、英アビー・ロード・スタジオでのリマスタリングも話題になった。オリジナル作品の価値そのものについては言うまでもないが、この機会にもう一歩進んで『Real People』(80年)以降のアルバムも含めた単体のリマスターやノーマ・ジーンのソロ作なども再復刻を願いたいところではある。

 

PRINCE Piano & A Microphone 1983 NPG/Warner Bros./ワーナー(2018)

よく考えれば生誕60周年だったプリンス。そんな年に届いたニュー・タイトルは、83年にカセットテープに収められたピアノ弾き語りの楽曲たちを作品の形に整えてきたもの。完成型に近い蔵出し音源なら他にもあるのでは……という気もしなくもないが、プロトタイプ状態の“Purple Rain”やジョニ・ミッチェルらのカヴァー、完全な初出の未発表曲も含むスケッチやデッサンが殿下のプライヴェートに近い姿を記録した歴史的な資料として価値があるのは確かだ。入手困難だったNPG時代も含む過去音源の配信もスタート済みで、順次フィジカル化が始まる新年の展開にも期待したい。