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Luby Sparks×Say Sue Me――日韓インディー・ポップ両雄がいま東京で共演した、その大きな意味

Luby Sparks×Say Sue Me――日韓インディー・ポップ両雄がいま東京で共演した、その大きな意味

「ニュースとか見ていると、いま日本と韓国はあまり良い関係じゃないかのように思えるけど、そういったなかでも、こういう音楽やカルチャーはまったく別のところにある。いま、こうやって韓国のバンドと一緒に東京でやれているのは意味のあることだと思う」

2019年1月17日、東京・渋谷WWWで開催された、Luby Sparks企画のライヴ・イヴェント〈Thursday I don’t care about you〉。韓国・釜山から4人組バンド、Say Sue Meを招き行われたこの日のMCで、Luby Sparksのリーダー・Natsukiがそう話したことに少し驚いた。もちろん、この発言自体は別に社会的、政治的なメッセージというわけではない(そう捉えられることを彼らは嫌がるのではないか)。

だが、見た目を含めて活動のすべてがクールでスタイリッシュ、何事にも動じず何者にも媚びず、ひたすらに自身の美学を探究しているバンドが、意外なほどエモーショナルに胸中を明かしている――そう感じられたのだ。そもそも、彼らは基本的にMCをしないバンド。そうした普段の振る舞いもふまえて、会場に集まったファンにも静かなどよめきが広がっていたように思えた。

音楽性やバンドの醸す空気感という点では、Luby SparksとSay Sue Meという2バンドは、特に似ているバンドというわけではない。かたや、4ADや初期クリエイションなど独自の美学を貫くレーベルに触発され、特に新ヴォーカリストのErika加入後は耽美でデカダンな世界観を創造する前者。そして、USオルタナをルーツに、ドライヴィンなギター・サウンドと気怠さが漂う歌声を混ぜ、平熱のローファイ・ポップを鳴らす後者。音源を軽く聴いただけでは、いわゆる〈ギター・ポップ〉と一括りにしてしまうかもしれないが、バンドの志向性はかなり違っているのだ。

だからこそ、この日Luby Sparksを観に来たファンのなかには、Say Sue Meのライヴが始まると戸惑いを覚えた人もいるかもしれない。まず、メンバー4人の普段着のような装いと朴訥とした佇まいからして、Luby Sparksとは大違い。もし両バンドのメンバーが学校の同じクラスにいたとしても違うグループだったのではないか、と想像してしまう。

ところが、ひとたびギターをバーストさせ、フロントマンのチェ・スミがつぶやくように歌うと、冴えなかった(ように見えた)彼らが、とたんに輝き出した。どこかオールディーズ的なリズム・アンサンブルが気持ち良く、センチメンタルなメロディーは甘く優しい。特にロッカ・バラード調のスロウな楽曲が格別で、そうしたナンバーを演奏する際にスミの歌声が醸す色気は、プライマル・スクリームのボビー・ギレスビーのそれを彷彿とさせた。

その一方で、ビートの跳ねたナンバーはいたくゴキゲン。おまけにサーフ・ポップな楽曲はキュートきわまりない。つまり、Say Sue Meの音楽の中心には、ロックンロール・バンドならではのジョイな感覚があるように思う。当然それは、Luby Sparksの音楽が持つ、気軽に触れられることを拒絶するかのような尖った美しさとは、まったく異なっている。ゆえに、今回はこの2バンドが並ぶことで、お互いの個性がわかりやすく際立っていたように思う。Say Sue Meにとっては、この日〈はじめまして〉のお客さんが多かったと思うが、熱のある演奏と滋味深い歌心で好演。温かな拍手とともに演奏を終えた。

そして、オーディエンスがフロアを埋め尽くすと照明が暗転。登場SEとしてジュリー・クルーズの“The World Spins”が鳴り響き、Luby Sparksが登場した。Sunao、Tamio のギタリスト2人がサイドに並び、ドラマーのShinは奥、そしてベーシスト兼ヴォーカリストのNatsuki、ヴォーカリストのErikaが中央に並ぶ。黒ベースの服装でまとめた楽器隊の3人に対し、NatsukiとErikaのみ真っ白の装い。そのコントラストが、ステージ中央に置かれたバラの赤色を、いっそう引き立たせていた。

 

この日は、ゆったりとしたリズムの“Intro”からスタート。そのまま、轟音ギターが強烈な“Sparks”へと流れ込み、次いで力強い疾走感に溢れた“Still Awake”を披露した。彼らの演奏で何より耳を引くのは、2本のギターによる多彩なアンサンブルだ。ときにアルペジオを重ねたり、ときに片方は美麗なリフを弾き、もう片方は刺々しいフィードバック・ノイズを出したりと、さまざまに趣向を凝らしていて飽きさせない。

いま各々のギターがどんな音を出しているのか、その手元や足元を目で追うだけでも楽しく、ライドのマーク・ガードナー&アンディ・ベルやスーパーカーの中村弘二&石渡淳治といった先達の系譜に連なる、不世出のギター・コンビネーションと言えるだろう。

 

続いて、男女ヴォーカルの掛け合いとハーモニーに甘酸っぱさが漂う“Tangerine”、キュアーの“Pictures Of You”を思わすベースラインがグルーヴィーな“The Short Lived Girl”を演奏。そして、Natsukiが「MCは苦手なのでガンガン曲をやります」と聴衆に伝え、爽やかなギター・ポップ・ナンバー“Life of Misery“を披露した。前半最後の“Before You Dive”では、ギター・ノイズによるウォール・オブ・サウンドが圧巻。

さて、熱心なファンならばとっくに気づいているだろうが、この日のライヴ前半は初作『Luby Sparks』(2018年)からの楽曲でセットを固めていた。そして、以降のライヴ後半は、昨年11月にリリースした最新EP『(I’m)Lost in Sadness』収録曲のみで構成。

前半と後半でセットをくっきり分けたのは、2018年2月に起きたヴォーカリストの交代が大きいのだろう。アルバム『Luby Sparks』以降に前任のヴォーカリスト・Emilyが脱退、Erikaの加入によって、バンドは新たな方向性に舵を切った。『(I’m)Lost in Sadness』の耽美でゴシックな世界観には、Erikaの嗜好が大きく影響を与えたとリリース時のインタヴューで語っていたことが記憶に新しい。ちなみに、最初に引用したMCは、前半セットを終えたあと、「普段のライヴではMCを一切しないんですけど、さすがに自分たちの企画でなにも喋らないわけにはいけないと思うので」と前置きして、語ったもの。

後半の1曲目は、EPのオープニングを飾った“Perfect”。Erikaの歌い出しで、一気にダークなムードを作り出し、その暗闇のなかで甘美なギター・サウンドが瞬く。そして、コクトー・ツインズやディス・モータル・コイルを起点に、現在はシガレッツ・アフター・セックスやホーリー・モーターズに継承されているドリーム・ポップ・サウンドをLuby Sparks流に解釈した“Cherry Red Dress”が続く。

次の“(I'm)Lost in Sadness”は、Shinが生ドラムに加えてシンセ・パッドを使い、90年代初頭のインディー・ダンス的なグルーヴを紡ぐ。オーディエンスもユラユラと身体を揺らしていた。

本編ラストは、EPと同じくマジ―・スター“Look on Down from The Bridge”のカヴァー。歌い終わったErikaがステージを去ったあとも、残りのメンバー4人が叩きつけるように演奏し、この日いちばん攻撃的なノイズを放つ。あらんかぎりの大音量とフラッシュ・ライトの高速点滅が重なり、目を開けていられないほどだった。ノイズをループさせたままNatsukiが「ありがとうございました」と話し、バンドはステージを後にした。

最後の強烈な一撃に、オーディエンスは一瞬呆然となっていたが、次第に拍手が広がっていき、もちろんアンコールが巻き起こる。やがて、5人がステージに戻り、Natsukiの「うるさいなか待ってくれてありがとうございます」というMCが会場の空気をほぐした。

そして、アンコールの1曲目は、バンド初期の代表曲にして屈指のキラー・チューン“Thursday”。雲の上を滑空していくかのようなギター・リフが鳴り響くと、大きな歓声があがる。思えば、このイヴェントの名前は〈Thursday I don’t care about you〉。当然この“Thursday”からとったものだと想像できるが、加えてキュアーの〈ある名曲〉の歌詞を引用したものでもあり……。

本日の最終曲は、ポストパンク・レジェンドにあらためて敬意を示すかのごとく、イヴェント・タイトルの引用元である“Friday I’m In Love”をカヴァー。Say Sue Meからチェ・スミがゲストとして呼び出され、彼女を含めたトリプル・ヴォーカルで歌うという、この日だけの特別なパフォーマンスだ。原曲からコードも変えていたのだろうか、胸をキュンとさせるギター・ポップの名曲を、Luby Sparksはグルーミーなシューゲイザーへと変換。原曲においてもっともエモーショナルなCメロをバッサリ切るなど、あくまでLuby Sparksの流儀を貫いたアレンジに、彼らの美学を見た。

終演後、フロアを出ると、両バンドの物販には長蛇の列ができている。主役のLuby Sparksだけではなく、Say Sue Meのブースも賑わっていたことは、この企画が多くのリスナーにとって出会いをもたらしたという証左でもある。スタイルやムードが似た者同士でつるむのは、たやすい。だからこそ、決して〈韓国のLuby Sparks〉ではないSay Sue Meに惹かれ、この日のライヴのためだけに日本へと招致したLuby Sparksの振る舞いを、格好良いと思う。おそらくそれは、バンドにとって〈自分たちはこうだ〉と示すステイトメントでもあった。最後に、冒頭のMCを受ける形で、NatsukiがSay Sue Meへのリスペクト(とみずからの夢)を語った発言を引用し、このレポートを終えたい。

「Say Sue Meは世界で活躍していて、僕らもそうなれたらいいなと思っています。なので、これからもいい音楽を作っていきたいし、それを楽しみにしていてください」

 


〈Luby Sparks Presents「Thursday I don't care about you」 with Say Sue Me (Korea)〉
2019年1月17日 東京・渋谷 WWW

セットリスト
Say Sue me

1. 어떤 꿈 After Falling Asleep 
2. But I Like You 
3. My Problem 
4. Old Town 
5. One Week 
6. I Just Wanna Dance 
7. B Lover 
8. Let It Begin 
9. Bad Feeling 
10. Dreaming 
11. Just Joking Around 

Luby Sparks
1. Intro
2. Sparks
3. Still Awake
4. Tangerine
5. The Short Lived Girl
6. Life of Misery
7. Before You Dive
8. Perfect
9. Cherry Red Dress
10. (I'm)Lost in Sadness
11. Look on Down from The Bridge

アンコール
12. Thursday
13. Friday I'm In Love

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