田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野がこの一週間に海外シーンで発表された楽曲のなかから必聴の5曲を紹介する連載〈Pop Style Now〉。二プシー・ハッスルの訃報は先週お伝えしましたが、その後も多くのアーティストが哀悼の意を示しましたね」

天野龍太郎「ドレイクやファレル、チャンス・ザ・ラッパー、リアーナ、ブルーノ・マーズ……YGはニップの死を受け、新作のリリースを延期しました。実はこれほどリスペクトされてると思ってなかったんですが、ラッパーとしての実力や地元のコミュニティーに根付いた活動が尊敬されてたんでしょうね。僕も遺作となってしまった2018年の『Victory Lap』を聴いてました」

田中「改めてRIP……。明るいニュースをお伝えすると、ミック・ジャガーの心臓手術が成功。順調に快方へと向かっているようです。手術のためストーンズのツアーが延期になって心配していたんですが、よかった」

天野「まだまだ長生きしてほしいですね。それと、ビッグ・タイトルのリリースも発表されました。カーリー・レイ・ジェプセンの『Dedicated』が5月17日(金)、ジャック・ホワイト率いるラカンターズの『Help Us Stranger』が6月21日(金)にリリースされます」

田中亮太「ラカンターズはなんと11年ぶりの新作! どちらも楽しみですね。さて、それでは今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

Hatchie “Stay With Me”
Song Of The Week

天野「今週の〈SOTW〉はハッチーの新曲“Stay With Me”です。2月に〈PSN〉でも紹介したように、ハッチーことハリエット・ピルビームはオーストラリアのバンド、バブガニューシュのベースシスト/ヴォーカリストです」

田中「この“Stay With Me”は6月21日(金)にリリースされるデビュー・アルバム『Keepsake』からのシングル。この曲と前の“Without A Blush”を聴くと、アルバムへの期待がいやがうえにも高まりますね」

天野「ホントに。すごくメロディー・オリエンテッドで、なおかつシューゲイジングでドリーミー。ダンサブルというところも個人的にはポイントで、『Keepsake』はシューゲイズ/ドリーム・ポップの次を指し示す重要作になるのではと思います」

田中「ジョージ・クラントンやネガティヴ・ジェミニといった最近の100%エレクトロニカ諸作にも通じる90sヴァイブスもたまりません。ハッチー自身は〈クラブで泣いている曲(crying-in-the-club tracks)が好き〉と語ってますが、“Stay With Me”はまさしく〈クラブで泣く〉一曲。去っていく相手に〈私と一緒にいて/どうして一緒にいられないの〉と呼びかける歌詞が切ないです」

天野「〈もしあなたと別のタイミングで出会っていたら〉という歌詞から始まるブリッジを聴いて、こみ上げるものがありましたね。思わず自分自身と重ねてしまって……。〈Consequence Of Sound〉がロビンの名曲“Dancing On My Own”を引き合いに出しながらあなたの〈クラブ泣きプレイリスト〉に加わる一曲なんて書いてておもしろかったな。みんなで〈クラブ泣きプレイリスト〉を作りましょう!」

田中「そうですね……(苦笑)。ニュー・オーダーの“Krafty”とか? ともあれハッチーはドリーム・ポップというジャンルのなかでもすごくエモーショナルなところがいいですよね。そんなけで、彼女のデビュー・アルバムは〈PSN〉的にも注目作です」

 

BLACKPINK “Kill This Love”

天野「続いてはBLACKPINKの新曲“Kill This Love”。彼女たちはアメリカとヨーロッパも巻き込んで、世界的に注目されているK-Popグループです」

田中「カッコイイ曲ですよね! まず耳に飛び込んでくるのがシンセ・ブラスの勇壮なリフとマーチング・ドラム。まるで去年〈コーチェラ・フェスティヴァル〉でライヴをしたときのビヨンセのようです」

天野「確かに。K-Popの楽曲らしく構造はEDM的で、ブリッジでめちゃくちゃ盛り上げた後にドロップ、つまりサビで一気に音の数を少なくしてます。そして、歌がパーカッシヴに変化。〈Let's kill this love!〉という掛け声から始まり、ジェニーが巻き舌で歌う〈Rum, pum, pum, pum, pum, pum, pum〉というフレーズに痺れます!」

田中「リサのラップも超パワフルでキマってますよね。BLACKPINKは〈BTS(防弾少年団)に続き、世界の音楽マーケットを制覇しようとしている〉なんて〈Forbes JAPAN〉が書いてますけど、まさに破竹の勢いで進んでます」

天野アリアナ・グランデも〈BLINK(ファン)〉らしいですから。楽曲、パフォーマンス、影響力とどれも超一級で、現在のK-Popにおけるトップ・グループのひとつであることは間違いありません。今月は〈コーチェラ〉への出演と北米ツアーがありますから、それ以降にどこまでBLACKPINK旋風が広がっていくのか、ちょっと予想もつかないですね」

 

J. Balvin “La Rebelión”

天野「3曲目はJ・バルヴィンの新曲“La Rebelión”。先週もロザリアとの共演曲で〈PSN〉に登場したので、2週連続の選出ですね」

田中「勢いに乗ってるミュージシャンは何をやってもおもしろいですから。先週と同じ紹介になりますが、去年〈SUMMER SONIC〉にも出演したJ・バルヴィンはコロンビア出身のシンガーで、いまやレゲトン/ラテン・トラップ界のスターです」

天野「この新曲“La Rebelión”は、聴いていただくとわかるとおりラテン・トラップなサウンドなんですが、そこにサルサの要素が入っているハイブリッド感がすごくカッコイイ。というのも、2011年に亡くなったコロンビアのサルサ歌手、ジョー・アロヨの同名曲をサンプリングしてるんです」

田中「〈アロヨのベスト・ヒットのトラップ・ヴァージョンなんだ〉とバルヴィンは言ってますね。ちなみに、ミュージック・ビデオの最後でバルヴィンが〈アギラ〉というセルベサ、つまりビールを手渡されるのですが、この曲はアギラのCMソングなんです」

天野「アギラ、コロンビア料理を出すお店に行ったら飲めるんでしょうか? 飲んでみたいなー。それはともかく、2018年の『Vibras』に続く新作は、ノリにノってるバルヴィンからもうすぐ届けられそうですね」

 

Vampire Weekend “This Life”

田中「4曲目はヴァンパイア・ウィークエンドの“This Life”です」

天野1月の〈PSN〉でも紹介した“Harmony Hall”と“2021”を公開した第1弾、スティーヴ・レイシーをフィーチャーした“Sunflower”と“Big Blue”の第2弾に続く、新作『Father Of The Bride』からのリード・ソング第3弾ですね。“This Life”と合わせて“Unbearably White”も発表されてます」

田中「今回の2曲はこれまで以上にフォーキー。この“This Life”は、スキップしているかのような軽快なリズムやトラッド感のあるストリングスの音色がヴァン・モリソンやホットハウス・フラワーズみたいです。ハイムのメンバー、ダニエル・ハイムのコーラスも華やかさを加えています。いや~、良い曲。でも、天野くんはこのレイドバックした雰囲気にはノリきれないそうで……」

天野「“Harmony Hall”から予感はしてましたが、ちょっとオーガニックすぎません? ヴァンパイア・ウィークエンドの音楽には〈うおっ!〉って驚かされたいんですよね」

田中「確かに前作『Modern Vampires Of The City』(2013年)はプロダクション面でも〈モダン〉なレコードでしたからね。とはいえ自分は、彼らのグルーヴィー・ソウル路線は現ライヴ編成以降のロジカルな発展だと捉えているので、好意的に受け止めています」

天野「なるほど。最近のライヴを観たか観てないかっていうところでしょうか。この曲にはマーク・ロンソンが参加してて話題なんですが、エレクトロ・ファンク・バンド、クロメオのデイヴ・1ことデイヴ・マクロヴィッチが参加してることもそこに繋がりますね。あと、ちょっと変わり者のラッパー、アイラヴマコーネンの“Tonight”からリリックを引用してて、これはエズラ・クーニグが彼と何度か共作してるからかなと。他にもアルバート・ハモンドのヒット曲“It Never Rains In Southern California(カリフォルニアの青い空)”を思わせるラインがあって、歌詞は相変わらずおもしろい」

田中「〈ベイビー、痛みは雨と同じくらい自然なもの〉〈愛って僕が考えていたものとは違うみたい〉という歌詞にはエズラの人生観がいつになくシリアスに表れている気がします。果たして5月3日(金)リリースのアルバムは、どんな内容なのか? 楽しみです!」

 

Priests “Jesus' Son

田中「最後はプリースツの”Jesus' Son“。彼女たちはワシントンDC出身の3人組ですね。2017年のデビュー・アルバム『Nothing Feels Natural』が高く評価されました」

天野「プリースツのファーストは僕も好きでよく聴きました。ポスト・パンクとライオット・ガールとガレージ・ロックがごちゃ混ぜになったようなサウンドは勢いがあって、ケイティ・アリス・グリアーの歌声には強烈な存在感があります。サヴェージズやパーフェクト・プッシーと志を同じくするバンドというか」

田中「プリースツはシスター・ポリゴンというレーベルも運営もしていて、スネイル・メイルやダウンタウン・ボーイズらを発掘しています。目利きですね」

天野「“Jesus' Son“は先週リリースされたセカンド・アルバム『The Seduction Of Kansas』のオープニング・ナンバー。曲名はルー・リードが歌詞を書いたヴェルヴェット・アンダーグラウンドの“Heroin”の一節から取ったと本人たちが語ってますね」

田中「〈私は神の息子、誰かを傷つけたい〉という歌詞は、聴き手に全能感を与えるとともに、宗教によって起こされる暴力への批判的な視点も入っているのかなと思わせられました。二面的で素晴らしいですね」

天野「この曲はミュージック・ビデオも話題になってますよね。ナイン・インチ・ネイルズの“March Of The Pigs”にオマージュを捧げてるっていう」

田中「〈ザ・ロック・バンド〉なエナジーに溢れたパフォーマンス映像なんですが、どこかユーモラスな雰囲気も漂っているのがすごくいいですね。ちなみに、新作はジョン・コングルトンがプロデュース。彼らしいドラムのアタックを強調したサウンドです」

天野「今年はシャロン・ヴァン・エッテンの『Remind Me Tomorrow』、ニルファー・ヤンヤの『Miss Universe』、そしてこのプリースツの新作と、ジョン・コングルトンが手掛けた作品がバンバン出てますね。しかも、どれも傑作。もともと人気プロデューサーではありますが、ここにきてインディー・ロックのサウンドを的確にブラッシュアップする超重要人物になりましたね」