バリアフリーであり続けること。

 クロノス・カルテットをご存知だろうか? すでに結成45年目を迎え現在はシアトルに拠点活動を続ける弦楽四重奏団である。60枚を超えるディスコグラフィーを遡れば初期にはビル・エヴァンスやセロニアス・モンクといったジャズ作曲家の作品が並び、四重奏のレパートリーを未知の領域に広げることに主眼を置いたカルテットであることがわかる。ジョージ・クラムの《ブラック・エンジェル》を聴いてカルテットの結成に至ったというレパートリーの中心は、当然アメリカの現代音楽作品であるが、モンゴル、アフリカなど様々な国の音楽家に彼らの関心は向いている。ノンサッチからの二枚目『クロノス・カルテット』の最後に収録されたジミヘンの《パープル・ヘイズ》が空前絶後の世界的共感を呼び、弦楽四重奏団の最前線に彼らは踊りで出た。以来アストル・ピアソラ(タンゴ)への委嘱やカルロス・ペナーヴェス(ファド)作品の編曲など、ジャンルを問わず弦楽四重奏を聴き続けた。

KRONOS QUARTET TERRY RILEY:SUN RINGS Nonesuch(2019)

 クロノスは60~70年代にデビューし成長を遂げた米国の作曲家ジョン・アダムス、フィリップ・グラス、スティーヴ・ライヒ、そしてテリー・ライリー達の作品を精力的に取り上げてきた。こうした作曲家にとってアンサンブルは重要な表現媒体でありよき理解者であり続けてきた。特にライリーとは《Salome Dances for Peace》をはじめとする大作を初演、録音し続けてきた間柄であった。本作の「Sun Rings」はNASAから委嘱されてライリーが作曲、2002年に初演された。ヴォイジャー探査機の打ち上げから25年を記念し、探査機から地球に送信されてきたサウンドを使って音楽的なイヴェントはできないかというのがNASAからの依頼だったという。ヴェトナム戦争終結直後に打ち上げられた探査機へのオマージュは、クラムのサウンド・コラージュ仕立てのレクイエムに倣ったかのようなサウンドで構成された。この作品は四重奏団の始まりと今をつなぐとても感慨ぶかい作品だったのではないか。なお、クロノス・カルテットは、2020年9~10月に来日し、この作品の日本初演を行うことが決定している。