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テイラー=ゴダードはレノン=マッカートニーに並ぶ2人組

――これまでの話を聞いて、ダンサブルな要素は常にあるけれど、根本的にホット・チップは〈ソング〉の人たちだという印象を強めました。

「だからこそ生き残ったと思うんです。若さゆえの勢いは失われていくじゃないですか? そもそも彼らはアレクシスとジョーのフォーク・デュオとしてはじまっているんです。僕は何よりも2人の組み合わせこそがホット・チップだと思っていて」

――もともと2人は学友だったんですよね?

「そうですね。2人がギターの弾き語りで作った最初の作品が『Mexico EP』(2000年)。アコギで歌っていると思ったら急にノイズを出したり、ファンとしてはそのしょうもなさが可愛いと思えるんですけど(笑)。根がフォークというか内気でナイーヴな人たちなんだと伝わってくるんです。アレクシスはニック・ドレイクを聴きながら育って、なおかつティム・バックリーに影響を受けていると自覚してますし」

2000年作『Mexico EP』収録曲“Beeting”
 

――だからこそピーター・ガブリエルと共作したり、ロバート・ワイアットやチャールズ・ヘイワードといったカンタベリー派のミュージシャンと親交が深かったりするんでしょうね。

「アレクシスはチャールズ・ヘイワードと即興バンド、アバウト・グループも組んでいましたからね。ホット・チップの構成要素をざっくりいうとアレクシスのソングライティングとジョーの作るダンス・ビートのふたつだと思います。それらが合わさったときにホット・チップになる。そして、アレクシスの声とジョーの声が重なったら完璧。それは言ってみたらブライアン・ウィルソンとマイク・ラヴが合わさったときのマジックみたいな(笑)。

今回の収録曲でいうと“Positive”のサビでの二人の掛け合いは、ホントにたまらないですね。歌詞も友情のことを歌ってますし、特にジョーの〈アーウ~~~~〉のコーラス――あれを聴くとめちゃくちゃキュンキュンしちゃうんですよ! やばいです。エクスタシーです。そういう感じですね。そういう歌心を感じるグループはなかなかいなかったと思います」

2019年作『A Bath Full Of Ecstasy』収録曲“Positive”
 

――ジョー・ゴダードはソロの作品ではよりテクノ/ハウス寄りのサウンドを作っていますよね。彼が主宰するグレコ・ローマンもダンス・ミュージック・レーベルと言えますし。

「ジョーのダンス方面はそんなに熱心に追ってないんですけど、彼が最初に出した『Gabriel EP』(2011年)はジョーのいいところがすごく出ているんです。新作の“Hungry Child”で歌っているヴァレンティナがタイトル曲で参加しています。カップリングの“All I Know”もホット・チップのファースト・アルバムみたいに暗くて、胸がくっとなるような切ない曲なんです。

もしかしたらジョーはアレクシス以上に暗いというか、内向的な人なのかもしれません。なんかブライアン・ウィルソンがちょっとポケっとしているときに近い表情をしてたり。ジョーがリードを歌っていて、おそらく主に作詞・作曲をしたであろう曲が『One Life Stand』以降のアルバムには毎回入っているんですけど、歌詞がちょっとダークで、独りで別の世界とか別の場所に行きそうだったり思いを馳せたりしている内容なんですよ。寂寞感と言いましょうか。今回のアルバムで言うと“Clear Blue Skies”がそれにあたりますね。

それに比べるとアレクシスは素直に考えや感情をあらわす曲を書いて歌っている印象があります。アレクシスとジョーは、レノン=マッカートニーといったら大袈裟だけど、そういうコンビなんですよ」

――ポップ史に輝く2人を引き合いに出してしまうほどの黄金コンビだと。

「テイラー=ゴダードのコンビがバンドの核ですから。ホット・チップの初期の作品を聴くと、もう二度と戻ってこない青春の1ページを見ているような気持ちになります。若い頃のライヴ映像とかを観ると涙が出てきますからね。彼ら5人が横一列になってキーボードやサンプラーとかマラカスとか演奏しながら歌っている画にもう感動します。若さゆえの攻撃性や反逆精神を感じさせるのもまたよくて」

2007年のライヴ映像
 

――確かに、初期のホット・チップにはナードの逆襲感がありましたよね。

「〈誰にいじめらてたんだよ〉って感じですけど(笑)。そういえば、新作の国内盤にはスーパーオーガニズムが手掛けた“Spell”のリミックスが収録されていて、それを聴いて感動したんです。そのリミックスは『The Warning』のタイトル曲の歌詞をさらっと引用して歌を追加しているんですよ。〈ホット・チップはお前の脚を砕いて頭を引っぱたく〉みたいな威嚇的ないきった歌詞なんですけど、それをわざわざ引っ張り出して歌っていることにすごくリスペクトを感じたんですよね」

――スーパーオーガニズムにホット・チップの感性や精神が受け継がれているというのはすごくいい話ですね。

「やっぱりホット・チップはイギリスならではのポップですよね。歌心があって、いろんな音楽が混ざったような感じで、古いものと新しいものが同時に鳴っている。過去から大事なものを引き継いでそれを背負っていると自覚していることがすごく尊敬できるし、そういう過去の音楽をミックステープとか記事で紹介するだけじゃなく、彼ら自身の音楽からもその姿勢が聴こえるのがすごくいいと思っています。

ビーチ・ボーイズとスティーヴィー・ワンダーとクラフトワークとR・ケリーと……彼らの音楽には先人から学んだものがミックスされているんですよね。ホット・チップをきっかけに、聴く音楽の幅が広がったという人は少なくないのではないでしょうか」

 

ついに日本でワンマン。生きててよかった……

――ようやく久しぶりの来日公演も決まりました。どんなパフォーマンスを期待したいですか?

「ツアーのセットリストはなるべくチェックしないようにしてますが、新作のラスト3曲――“Why Does My Mind”と“Clear Blue Skies”、そして最後の“No God”という最高のメドレーをやるかどうか。バンドのインスタをのぞいたら“Clear Blue Skies”のリハーサル映像があったので楽しみにしています。まあ3曲まとめてはやらないだろうとは思ってますけど(笑)、できればやってほしいと思っています。

あとはジョーの〈アーウ~~~~〉が聴けるかどうか(笑)。やらないかなあ。サービス精神が旺盛な人たちなんで、過去の曲もセットリストに結構入ってくるんだろうな。バンドの最後の来日は2012年の〈HOSTESS CLUB WEEKENDER〉で、そのときのライヴはアゲアゲの曲ばかりで爆盛り上がりしていたんですよ。ele-kingの野田(努)さんも〈まるでパンクのコンサートみたいだった〉と書いていたけど、大袈裟じゃなくて本当にすごい縦ノリだったんです。周りの人が跳ねるのにつられて身体が浮いちゃうし。さすがに疲れちゃいました」

――最近のライヴではビースティ・ボーイズの“Sabotage”のカヴァーをやっていますし、今回も盛り上がる感じにはなりそうですね。ポップ・マエストロ的な側面と、めちゃくちゃに踊れるライヴ・バンドとしての側面。その両面を持っていることもホット・チップがポップ・シーンを生き抜くことができた理由のひとつだと思います。

「ライヴに関しては、音源のままやろうとは初期の頃からすでに考えていないですよね。ツアーの度にアレンジを変えてますから。いまのライヴ・ドラマー(レオ・テイラー)がホット・チップのサポート・ドラム史上いちばん上手いひとなので、ベストな編成で来てくれるのが楽しみです。なんにせよ、7年ぶりの来日、なおかつ日本で初のワンマンですからね。それだけで感慨深いです。追いかけ続けてきてよかった……」

2019年のライヴ映像

 


Live Information
HOT CHIP ―Bath Full of Ecstasy Japan Tour―

10月9日(水) 大阪・心斎橋BIG CAT
10月11日(金)東京 マイナビBLITZ赤坂
開場 18:00/開演 19:00
前売:¥7,000(税込・1ドリンク別途)
協力:Beatink
お問合わせ:SMASH 03-3444-6751
★ツアーの詳細はこちら

〈朝霧JAM 2019〉
2017年10月12日(土) ~ 10月13日(日)
富士山麓 朝霧アリーナ・ふもとっぱら
http://asagirijam.jp/

 


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定価:2,300円
発売日:2019年7月3日

1. Intro
2. PS8
3. 川
4. LOVE
5. どうする
6. あるく
7. 水槽
8. 鉄道
9. ショットガンキス
10. 泡 feat. 城戸あき子
11. 空
12. 白夜
13. お風呂