〈朝霧JAM 2019〉への出演を含む、新作『A Bath Full Of Ecstasy』を引っ提げての来日ツアーを10月に控えるホット・チップ。ニュー・エレクトロやニュー・レイヴの時代に登場し、それらとダンサブルなビートを共有しながらも、美しいハーモニーと流麗なメロディーを武器に一線を画した存在感を放ってきた。多くのバンドが消えゆくなかで、彼らが生き残ってきたのはひとえにソングライティングの傑出した才ゆえだろう。

新作『A Bath Full Of Ecstasy』でも、グルーヴィーで艶やかなポップソングは健在。奇しくもリリースの直前に不慮の事故で亡くなったフィリップ・ズダールと、XXやサンファなどの作品で知られるロンドンのロディ・マクドナルドをプロデュースに迎え、バンドは煌びやかに飛翔するさまを見せてくれる。

今回はラップ・ユニット、パブリック娘。のメンバーであり、日本一のホット・チップ狂として知られる斎藤辰也氏を招き、バンドの魅力を徹底解説してもらった。ホット・チップの最新情報を紹介するTwitterアカウント〈ホット・チップくん〉の中の人でもある氏はメンバーとの親交も深く、先日公開された“Bath Full Of Ecstasy”のミュージック・ビデオにもカメオ出演している。これを読めば、あなたもホット・チップの虜になること請け合いだ。

 『A Bath Full Of Ecstasy』収録曲“Bath Full Of Ecstasy”。斎藤氏は2分55秒付近に出演

 

ホット・チップはUKのRIP SLYME?

――まず斎藤さんがホット・チップを知ったきっかけは?

「ちょうど10年前の2009年にmixiをやっていて、その頃遠くに住んでいた女の子……いまPLASTICMAIという名前でラップをやっている子とマイミクだったんです。彼女の友達が書いていた日記にホット・チップ“One Pure Thought”のミュージック・ビデオが貼られていて、それで観てみたのがはじまりでしたね」

2008年作『Made In The Dark』収録曲“One Pure Thought”
 

――“One Pure Thought”を聴いてどう思いましたか?

「うーん、なんかいろいろな音楽が入っているなーって(笑)。当時の僕が聴いていたのはヒップホップと60~70年代のロックとか……くらいだったんですけど、“One Pure Thought”にはビーチ・ボーイズとヒップホップ、さらにその頃はまったく聴いていなかったテクノとかも含めて、なにやら多彩なジャンルが混ざっているような印象を受けたんです」

――当時、ヒップホップは同時代のものを聴いていたんですか?

「いや、むしろ90年代のものを掘り下げていましたね。いわゆるニュースクールと言われているようなネイティヴ・タン周辺のグループやファーサイド、あとはDJプレミアとか……。そうそう、〈ホット・チップってほかのグループに喩えるとなんだろう?〉と考えたときに、僕がイメージするのはヒップホップだとファーサイドなんです。なので、日本のグループだとRIP SLYME。メンバーのキャラ立ち具合が近い気がして。ロック・バンドならビーチ・ボーイズとかホリーズとか」

――RIP SLYMEというのはわかる気がします。ポップなキャラ立ち感に加えて、ちょっと渋谷系の匂いもするんですよね。

「見た目がポップで可愛らしい人たちでもありますからね。先の“One Pure Thought”のMVもお洒落で可愛いアニメが音楽と相性ぴったりで好きになりましたし、ファッションもお洒落なんですよね。特にリーダーのアレクシス・テイラーのファッションは、自分なりに真似しようと頑張ったりしました」

――“One Pure Thought”を収録しているのはサード・アルバムの『Made In The Dark』(2008年)。あの作品は、エレクトロ・ポップ調の曲だけではなく、泣きのバラードも印象的ですよね。

「まさにそのアルバムを最初に買ったんですけど、ハーモニーがすごく綺麗に聴こえて、それが耳に残りました。ハーモニーの重ね方は、いま振り返ってもほかのグループがまずやらないような感じ。古き良きポップスの作り方を下敷きにしつつ、僕が知らないいろんな音楽が入っている――そういうところに惹かれたんだと思います」

――ホット・チップを知ることによって、ほかのエレクトロ系のバンドも聴くようになったんですか? LCDサウンドシステムやソウルワックスとか。

「えーと……よく並んで語られていたエレクトロ勢とかLCDやクラクソンズなんかはまったくハマらなかったんですよ。ホット・チップと近しいバンドだと、ギャング・ギャング・ダンスや、彼らと同じレーベル、ソーシャル・レジスティからリリースしていたショーン・アリス・グループなんかを好きで聴いてました。ショーン・アリス・グループのメンバー――ルパート・クレボーはアレクシスのソロでドラムを叩いていたり、ベン・クルックは新作の“Bath Full Of Ecstasy ”のMVを編集していたり、このへんはみんな繋がっているんです」

ショーン・アリス・グループの2009年作『Troubled, Shaken Etc.』収録曲“Close To The Ground”
 

――2000年代中盤から後半にかけてはジャスティスやDFA界隈が牽引したニュー・エレクトロの盛り上がりもあって、ホット・チップもそうしたシーンの周縁にいるという印象がありましたよね。なので、斎藤さんがそこにはハマらなかったというのはおもしろい。

「例えば、最近閉店したTRUMP ROOMって、東京のエレクトロ・シーンのある種の象徴みたいではありましたよね。ああいうとこに出演していたDJに知り合いはいたけど、彼らもホット・チップという名前は知っていても、実際DJでかけていたのはオリジナルよりむしろ“Ready For The Floor”のソウルワックス・リミックスとかだったんです。だから、ホット・チップというバンドそのものが親しまれていたわけではなかったように思います」

2008年作『Made In The Dark』収録曲“Ready For The Floor”のソウルワックスによるリミックス

 

愛ゆえの厳しい近作評

――『Made In The Dark』の次作『One Life Stand』(2010年)は、リアルタイムで聴かれたんですよね?

「はい。初めてのリアルタイムのリリースだったので、狂喜乱舞しました(笑)。いまでもこのアルバムがいちばん好きで、最高傑作だと思っています。その前の『Made In The Dark』って、すごくダンサブルでアグレッシヴな曲とピアノ・バラードがある意味では水と油というか、ちょっと無理があるくらいの感じで一緒にアルバムに収められていたと思うんです。躁と鬱の双極を行き来させられるというか。

それが、『One Life Stand』ではいろいろな気分や感情が自然なグラデーションで描かれていると感じました。一枚を通してのムードが無理なく保たれていて、なおかつスティール・パンやピアノやドラムなどの生楽器がすごく気が利いているんですよね。メンバーに子供が出来たりとかそういう過程の……アレクシスは〈ハッピー・ノイズ〉って言っていたかな、そういう私生活の変化が制作にいい影響を与えたそうで、その感じが音から伝わってきます。

ホット・チップって根本的には弱そうというか、はっちゃけられない内向的なギークの集団として見られていたし、本人たちもそのことには自覚的だったけど、彼らも子供が出来てハッピーな状況になった。でも、家庭的な責任とかにシリアスになる手前、それをしょいこむ手前の状態というか。子から父……一家の主になっていく手前というか、境界線の上に立って前を向いているような。若いときのナイーヴさと父になって逞しくならきゃいけないという、その過渡期にいる作品だったと思うんです。自分たちを強いとも思ってないけど、もう弱くも思っていられない、みたいな。

アルバムを締める曲“Take It In”の最後のピアノの残響には、人生がこれから変わる予感みたいなロマンティックなニュアンスがあって、それはたぶん、そのときだからこそ出せたサウンドのように聴こえます」

2010年作『One Life Stand』収録曲“Take It In”
 

――なるほど。とすれば次の『In Our Heads』(2012年)には、メンバーがさらに大人になった姿を垣間見た?

「なんですが、『In Our Heads』を最初聴いたとき、僕はとても受け容れられなかったんです(笑)。それはele-kingのレヴューにも書いたんですけど、なんか自信満々になっちゃっていて、〈ああしろ、こうしろ〉と聴き手に言っているかのような説教くさい印象を受けたんですよね。一家の主の態度が出すぎちゃっていた。〈こうすればいいんだよ〉と言われてるみたいな。ホット・チップでさえ父になるとこんなにわかりやすく変わってしまうのか、って面食らいました。エディプス・コンプレックスでしょうか(笑)」

――音楽的にもさほど惹かれなかった?

「1曲目の“Motion Sickness”が、もうイントロからイヤだった(笑)。ホーンがやたら力強く鳴ってて、〈ダメだこりゃ〉〈謙虚さがなくなったな〉って。変わってしまったな……と感じました。でも、時間を置いて冷静に聴いてみるといい曲がいいアレンジで鳴っていて、楽しめるようになりました。よく練られて構築されているファンキーなリズムとか、美しいメロディー・ラインとか、ポップでキャッチーな瞬間がたくさん詰まってますよね。そのあたりは間違いなく前作よりも進化している。“Flutes”はワンループの抜き差しとシリアスな歌詞で曲がどんどん展開されていくのが気持ちいい名曲で、いまでもライヴで演奏していますね。

あと、前作の“Take It In”をさらに発展させたようなコーラスに加えて、サイケデリックなサウンドも挿入される“Let Me Be Him”のトリップしているような気分とか、それに続く“Always Been Your Love”のアンセム感あたりは、新作の後半にも繋がる重要なポイントだと思います。とくに“Let Me Be Him”はホット・チップのなかではだいぶ浮いた感じの曲でしたが、バンドとして、特にリードを歌っていたジョー(・ゴダード)はだいぶ手ごたえを感じたのではないかと思います」

2012年作『In Our Heads』収録曲“Let Me Be Him”のライヴ映像
 

――続く『Why Make Sense』(2015年)はいかがでしょうか?

「『Why Make Sense』はホントにいまでも失敗作だと……いやこれは言い方が難しい。『Why Make Sense』は初めてホット・チップのアルバムで進化がなかったんです。アレクシス自身が昔のインタヴューで〈僕たちはアルバム一枚ごとに急激な変化はしなくとも、前作を引き継ぎながら着実に進歩している〉と言っていて、僕も確かにそこがホット・チップのいいところだと思って追いかけていました。

なのに『Why Make Sense』は『In Our Heads』のアウトテイク集みたいな印象で。〈これこそホット・チップだ〉と言えるような出来の曲がなかった。アレクシスのバラードもソロのアレンジのほうが全然よかったり、タイトル曲なんてかなり投げやりな出来で、それでアルバムを締めているのがけっこうつらかった。“Need You Now”は“Flutes”とか“Boy From School”系統のいい曲でしたが、それら過去作を超えているとは思えませんでした。

『Why Make Sense』収録曲“Need You Now”
 

“Love Is The Future”でデ・ラ・ソウルのラップが唐突に挟まれるのなんか全然意味わかんなくて、何かっぽく仕立てることがゴールになっちゃっているというか。曲自体はよくてもアイデアもアレンジも練りきれてないし、アルバムとしての展開もなくまとまりも欠けてて、まさにアウトテイク集……。

しかも前作からリリースまで間が3年くらい空いていたんですよ。それまでは2年に1枚のペースで出していたのに、ここで結構待たされて、ソロでの動きはあったけど、ようやくバンドとしてリリースされたアルバムがそんな出来だったので、アレ~みたいな。それから今回の新作が出るまでにさらに4年空きましたからね。多少動きがあればバンドは続いているとわかるけど、インスタとか見てもバンドは出てこなくて、アレクシスのソロ活動の宣伝が出るだけだったんです。〈もうホット・チップは終わっちゃったのかな〉と半ば諦めてました」

 

新作『A Bath Full Of Ecstasy』を語りまくる

HOT CHIP A Bath Full Of Ecstasy Domino/BEAT(2019)

――そんななか無事に新作の『A Bath Full Of Ecstasy』が届けられたわけですけど、これは起死回生のホームランとなった?

「いや、でもいきなり好きにはならなかったです。最初は〈なんじゃこりゃ〉と(笑)。シンセもバキバキ鳴っていてドラムもやたら強調されていて、エコー感も強いし。1曲目の“Melody Of Love”はいまだにあんまり好きじゃないですね。アレンジもそうだし、曲自体も優等生すぎるというか。ホット・チップってアルバムの1曲目は毎回〈いきり〉の曲を置くんですよね。力強くてアップリフティングなリズムの曲を」

2019年作『A Bath Full Of Ecstasy』収録曲“Melody Of Love”
 

――アルバムを聴き進めていくうちにだんだん好印象になったんですか?

「そうですね。”Hungry Child“は〈フェイドアウトかよ〉とか突っ込みどころもなくはないんですけど(笑)、間違いなく前作や前々作より進歩しています。“Spell”の長い長いジャムのアウトロなんかはサウンドとメロディーのミックスがめちゃめちゃ快楽的で癖になりますし、“Echo”のキメフレーズとバウンス・ビートもキャッチーで楽しいですよね。

アルバム後半の口開け“Positive”のサビでのジョーとアレクシスの掛け合いは〈これぞホット・チップだろ〉って感じで最高です。ジョーの〈アーウ~~~~〉ってハーモニーが可愛すぎて、最高としか言いようがないですね。そこから続く“Why Does My Mind”、“Clear Blue Skies”、“No God”までの終盤3曲は、メドレーというか、まとめて1曲と言えるほどサウンドと歌詞に流麗な展開があって感動しました。先に挙げた“Let Me Be Him”の高揚感のその先を描いている感じがあります。

自分の内面で起こっている戸惑い。自分は埃の夢のようなちっぽけな存在で宇宙に浮かんでいて、青空に落ちていく。落ちた先、地上には神も光も虚無も夢も意味を成さず、ただ君と夢中になってくるくる回っている、と。そういうだいぶ悟りを開いたような展開でして、青空を眺めながら聴き、歌詞の意味を考えていたらマジで泣きそうになりました……! これは国内盤のライナーにも書いたんですけど、“Clear Blue Skies”の歌詞に出てくる〈埃の夢〉という言葉は、まさにホット・チップというバンドの美しさを表していると思うんです」

2019年作『A Bath Full Of Ecstasy』収録曲“Clear Blue Skies”
 

――さすが日本一のホット・チップ狂……。読み解きますねー。

「6曲目の“Positive”からは天国みたいな展開ですが、今回のアルバムで僕が特に感動したのは、7曲目の“Why Does My Mind”と8曲目の“Clear Blue Skies”の繋ぎ。アレクシス自身、この2曲はセルフ・プロデュースだと言っていたんです。ただクレジットを見ると“Clear Blue Skies”はフィリップ・ズダールのプロデュースなんですけど(笑)。

それでもアレクシスの発言がなんとなく納得できるのは、この2曲ってすごくバンド初期の頃を思い出すんですよ。僕が今作のライナーで〈どこまでループしていくのかわからないあくびのような間合い。キュートな生楽器。これこそまさにホット・チップ印である〉と書いたのは、“Why Does My Mind”の打楽器とかミキシングの柔らかさ、“Clear Blue Skies”で鳴っているグロッケンの音が念頭にあったんです。

グロッケンの音ってこの人たちはファースト・アルバム『Coming On Strong』(2004年)の頃に印象的に使っていたんです。それもあってすごく感動しました。あの頃の感じをまたちょっと思い出して使ったというよりは、自然にその音を出してきた印象で。歌詞だけでなく、サウンドにもなんかナイーヴさが出ているなと思ったんですよね。特に初期のホット・チップはナイーヴさと繊細さがなによりも魅力でした。そのニュアンスが今回のアルバム終盤にはあると思います」

2004年作『Coming On Strong』収録曲“One One One”
 

――ちなみに前半部分で、ノリきれなかったポイントは?

「まあ、今回一聴していきなり〈いい!〉となれなかったのは、アルバムの最初にシンセがバキバキに鳴っていたり、リズム・トラックがやたら前面に押し出されたりしているところですね。そこでクレジットを確認すると〈プロデューサー:フィリップ・ズダール〉、あー……って」

――ズダールはアタック感の強いサウンドが特徴ですもんね。

「まぁ外部のプロデューサーを入れたってことは、〈この人たちも変わりたかったんだな〉と思いました。やっぱり前作でどんづまりにはなったんだろうなって。タイトルに〈Why〉って入っちゃってましたからね」

――新しい血を入れるタイミングではあったと。

「アレクシス自身もそれは言ってましたね。〈自分たちだけの力ではなくやろうとした〉って。シンセをこれまでよりも使ったのは意識的だったみたいです。そうだ、あと最初に僕が気になったのは、とくに前半でアレクシスの声ばかり聴こえるところだったんです。それまでだったらジョーやほかのメンバーがハーモニーをつけていたのに、アレクシスの声がやたら多重録音で入っている。

今回のアルバム、僕があんまり前半にハマれていないのは、それが理由のひとつでもあります。だってブライアン・ウィルソンが1人で声を重ねて、ほかのメンバーの声が聴こえないとなるとビーチ・ボーイズじゃないですよね? アルバムの途中からジョーの声も聴こえてきて、そっから〈これこそホット・チップだよな〉と」

――ちなみにプロデューサーはもうひとり参加しています。XXやサンファなどの作品を手掛けてきたロディ・マクドナルド。彼の貢献も感じますか?

「アレックスは〈ズダールは曲を延ばす方向でジャムっぽくなったけど、ロディは曲をがんがん縮めていった〉と言っていました。なので彼はキャッチーさを強める方向だったんでしょうね。XXは確か同じ大学の後輩なんですよね。ゆえに起用も納得できるし、ロンドンならではの人選という気がします。しかしまぁ、ホット・チップもこれまでよくセルフでやってきたなぁと思いますよ。初の外部プロデューサー云々というより、むしろ〈ずっと自分たちだけでやってきてたんだ!〉ということが驚きじゃないですか?」 

 

テイラー=ゴダードはレノン=マッカートニーに並ぶ2人組

――これまでの話を聞いて、ダンサブルな要素は常にあるけれど、根本的にホット・チップは〈ソング〉の人たちだという印象を強めました。

「だからこそ生き残ったと思うんです。若さゆえの勢いは失われていくじゃないですか? そもそも彼らはアレクシスとジョーのフォーク・デュオとしてはじまっているんです。僕は何よりも2人の組み合わせこそがホット・チップだと思っていて」

――もともと2人は学友だったんですよね?

「そうですね。2人がギターの弾き語りで作った最初の作品が『Mexico EP』(2000年)。アコギで歌っていると思ったら急にノイズを出したり、ファンとしてはそのしょうもなさが可愛いと思えるんですけど(笑)。根がフォークというか内気でナイーヴな人たちなんだと伝わってくるんです。アレクシスはニック・ドレイクを聴きながら育って、なおかつティム・バックリーに影響を受けていると自覚してますし」

2000年作『Mexico EP』収録曲“Beeting”
 

――だからこそピーター・ガブリエルと共作したり、ロバート・ワイアットやチャールズ・ヘイワードといったカンタベリー派のミュージシャンと親交が深かったりするんでしょうね。

「アレクシスはチャールズ・ヘイワードと即興バンド、アバウト・グループも組んでいましたからね。ホット・チップの構成要素をざっくりいうとアレクシスのソングライティングとジョーの作るダンス・ビートのふたつだと思います。それらが合わさったときにホット・チップになる。そして、アレクシスの声とジョーの声が重なったら完璧。それは言ってみたらブライアン・ウィルソンとマイク・ラヴが合わさったときのマジックみたいな(笑)。

今回の収録曲でいうと“Positive”のサビでの二人の掛け合いは、ホントにたまらないですね。歌詞も友情のことを歌ってますし、特にジョーの〈アーウ~~~~〉のコーラス――あれを聴くとめちゃくちゃキュンキュンしちゃうんですよ! やばいです。エクスタシーです。そういう感じですね。そういう歌心を感じるグループはなかなかいなかったと思います」

2019年作『A Bath Full Of Ecstasy』収録曲“Positive”
 

――ジョー・ゴダードはソロの作品ではよりテクノ/ハウス寄りのサウンドを作っていますよね。彼が主宰するグレコ・ローマンもダンス・ミュージック・レーベルと言えますし。

「ジョーのダンス方面はそんなに熱心に追ってないんですけど、彼が最初に出した『Gabriel EP』(2011年)はジョーのいいところがすごく出ているんです。新作の“Hungry Child”で歌っているヴァレンティナがタイトル曲で参加しています。カップリングの“All I Know”もホット・チップのファースト・アルバムみたいに暗くて、胸がくっとなるような切ない曲なんです。

もしかしたらジョーはアレクシス以上に暗いというか、内向的な人なのかもしれません。なんかブライアン・ウィルソンがちょっとポケっとしているときに近い表情をしてたり。ジョーがリードを歌っていて、おそらく主に作詞・作曲をしたであろう曲が『One Life Stand』以降のアルバムには毎回入っているんですけど、歌詞がちょっとダークで、独りで別の世界とか別の場所に行きそうだったり思いを馳せたりしている内容なんですよ。寂寞感と言いましょうか。今回のアルバムで言うと“Clear Blue Skies”がそれにあたりますね。

それに比べるとアレクシスは素直に考えや感情をあらわす曲を書いて歌っている印象があります。アレクシスとジョーは、レノン=マッカートニーといったら大袈裟だけど、そういうコンビなんですよ」

――ポップ史に輝く2人を引き合いに出してしまうほどの黄金コンビだと。

「テイラー=ゴダードのコンビがバンドの核ですから。ホット・チップの初期の作品を聴くと、もう二度と戻ってこない青春の1ページを見ているような気持ちになります。若い頃のライヴ映像とかを観ると涙が出てきますからね。彼ら5人が横一列になってキーボードやサンプラーとかマラカスとか演奏しながら歌っている画にもう感動します。若さゆえの攻撃性や反逆精神を感じさせるのもまたよくて」

2007年のライヴ映像
 

――確かに、初期のホット・チップにはナードの逆襲感がありましたよね。

「〈誰にいじめらてたんだよ〉って感じですけど(笑)。そういえば、新作の国内盤にはスーパーオーガニズムが手掛けた“Spell”のリミックスが収録されていて、それを聴いて感動したんです。そのリミックスは『The Warning』のタイトル曲の歌詞をさらっと引用して歌を追加しているんですよ。〈ホット・チップはお前の脚を砕いて頭を引っぱたく〉みたいな威嚇的ないきった歌詞なんですけど、それをわざわざ引っ張り出して歌っていることにすごくリスペクトを感じたんですよね」

――スーパーオーガニズムにホット・チップの感性や精神が受け継がれているというのはすごくいい話ですね。

「やっぱりホット・チップはイギリスならではのポップですよね。歌心があって、いろんな音楽が混ざったような感じで、古いものと新しいものが同時に鳴っている。過去から大事なものを引き継いでそれを背負っていると自覚していることがすごく尊敬できるし、そういう過去の音楽をミックステープとか記事で紹介するだけじゃなく、彼ら自身の音楽からもその姿勢が聴こえるのがすごくいいと思っています。

ビーチ・ボーイズとスティーヴィー・ワンダーとクラフトワークとR・ケリーと……彼らの音楽には先人から学んだものがミックスされているんですよね。ホット・チップをきっかけに、聴く音楽の幅が広がったという人は少なくないのではないでしょうか」

 

ついに日本でワンマン。生きててよかった……

――ようやく久しぶりの来日公演も決まりました。どんなパフォーマンスを期待したいですか?

「ツアーのセットリストはなるべくチェックしないようにしてますが、新作のラスト3曲――“Why Does My Mind”と“Clear Blue Skies”、そして最後の“No God”という最高のメドレーをやるかどうか。バンドのインスタをのぞいたら“Clear Blue Skies”のリハーサル映像があったので楽しみにしています。まあ3曲まとめてはやらないだろうとは思ってますけど(笑)、できればやってほしいと思っています。

あとはジョーの〈アーウ~~~~〉が聴けるかどうか(笑)。やらないかなあ。サービス精神が旺盛な人たちなんで、過去の曲もセットリストに結構入ってくるんだろうな。バンドの最後の来日は2012年の〈HOSTESS CLUB WEEKENDER〉で、そのときのライヴはアゲアゲの曲ばかりで爆盛り上がりしていたんですよ。ele-kingの野田(努)さんも〈まるでパンクのコンサートみたいだった〉と書いていたけど、大袈裟じゃなくて本当にすごい縦ノリだったんです。周りの人が跳ねるのにつられて身体が浮いちゃうし。さすがに疲れちゃいました」

――最近のライヴではビースティ・ボーイズの“Sabotage”のカヴァーをやっていますし、今回も盛り上がる感じにはなりそうですね。ポップ・マエストロ的な側面と、めちゃくちゃに踊れるライヴ・バンドとしての側面。その両面を持っていることもホット・チップがポップ・シーンを生き抜くことができた理由のひとつだと思います。

「ライヴに関しては、音源のままやろうとは初期の頃からすでに考えていないですよね。ツアーの度にアレンジを変えてますから。いまのライヴ・ドラマー(レオ・テイラー)がホット・チップのサポート・ドラム史上いちばん上手いひとなので、ベストな編成で来てくれるのが楽しみです。なんにせよ、7年ぶりの来日、なおかつ日本で初のワンマンですからね。それだけで感慨深いです。追いかけ続けてきてよかった……」

2019年のライヴ映像

 


Live Information
HOT CHIP ―Bath Full of Ecstasy Japan Tour―

10月9日(水) 大阪・心斎橋BIG CAT
10月11日(金)東京 マイナビBLITZ赤坂
開場 18:00/開演 19:00
前売:¥7,000(税込・1ドリンク別途)
協力:Beatink
お問合わせ:SMASH 03-3444-6751
★ツアーの詳細はこちら

〈朝霧JAM 2019〉
2017年10月12日(土) ~ 10月13日(日)
富士山麓 朝霧アリーナ・ふもとっぱら
http://asagirijam.jp/

 


斎藤辰也氏のラップ・ユニット、パブリック娘。の新作『アクアノート・ホリデイ』発売中!

パブリック娘。 アクアノート・ホリデイ Pヴァイン(2019)

品番:PCD-83014
定価:2,300円
発売日:2019年7月3日

1. Intro
2. PS8
3. 川
4. LOVE
5. どうする
6. あるく
7. 水槽
8. 鉄道
9. ショットガンキス
10. 泡 feat. 城戸あき子
11. 空
12. 白夜
13. お風呂