クラシックとユーロ・ジャズからの影響をもとに国内外で活躍中のジャズ・ピアニスト、西山瞳。ジャズ界に身を置きながら、HR/HMをジャズ・カヴァーするプロジェクト・NHORHMでは現在までに4枚のアルバムをリリースするなど、メタル愛好家としても知られており、〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉は、そんな西山さんに〈メタラーのジャズ・ピアニスト〉の視点からHR/HMのおもしろさを綴っていただく連載です。毎度高アクセスをいただいており、西山さん、そして読者の方々に大感謝です。

今回は、〈いつか自然の中で演奏してみたい〉……という願望を起点に、屋外で演奏しているものが多いという北欧メタル/ジャズのミュージック・ビデオのご紹介をしていただきました。こんな記事は他にない。今回も西山節に唸らせられました。 *Mikiki編集部

★西山瞳の“鋼鉄のジャズ女”記事一覧

 


突然ですが、いつか森で演奏してみたいという夢があります。
森じゃなくても、砂漠、洞窟、なんでもいいんです、自然の中で演奏してみたい。

当たり前ですが、ピアノは屋内で演奏するために作られているので、演奏の99%は屋内。
ピアノもそうですが、基本的にどの楽器でもプレイヤーの耳の位置では客席に聴こえている音はわかりません。そして、基本的にPAを通さず生音で演奏するジャズだと、建物の反射音を聴いて、あるいは客席での音を想像して演奏しています。会場も楽器の一つなんですね。
屋外で演奏する機会は、フェスティヴァルなどのステージ上で、必ずPAが入っていますので、また別の話になってきます。

自然の中で演奏してみたいのは、〈常に自分が人工的なもの(建築物)の反射音という情報から音楽をしているので、その情報がない状態で演奏してみたい〉ということと、〈単に変わったシチュエーションのところで演奏してみたい〉という、その2点です。
単に〈変わったシチュエーション〉ということであれば、ジャズ・ミュージシャンはわりといろいろ経験しているかもしれません。
私もいま思いつくだけで、岸和田の餃子屋(油で鍵盤がツルツル滑る)、大阪の漫才小屋(楽屋に〈ここでネタ合わせ禁止〉と書いてある)、土建屋の砂利の駐車場にベニヤ板を引いた上、演奏中に停電して真っ暗闇で演奏、宝塚歌劇団ファンの仮装大会(ものすごく衣装がかさばる)、オリヴィア・ニュートン・ジョンの〈フィジカル〉だけを延々演奏しないといけないイヴェント、屋外で青空カラオケをやっている横でイヴェント演奏(向こうも対抗して音量上げてくる)、etc……あかん、クラクラしてきました。これ全部大阪でした、大阪のせいです。

 

話を戻しまして、屋外での演奏ですが、メタルは屋外演奏のミュージック・ビデオがとても多いです。主に北欧系でしょうか。世界観を伝えるために、MVは必須です。

ジャズはプロモーションのためにビデオを作るほど大きな産業ではないので、昔からMV自体が少なく、現代でもプロモーションとして上げる動画はライヴ映像が多いです。ですが、時折屋外で演奏しているMVが発表されることがあり、それって結構な確率で北欧系なんですよ。

ということで、今回は、屋外で演奏している北欧発のMVを並べてみたいと思います。

〈いいなあ、こういうところで演奏してみたいなあ〉と思ったり、〈なんでこんな場所で演奏してるの〉〈いやいや、無理でしょ〉とと突っ込んだりもする屋外演奏MV。合成の映像ではなく、その場に楽器を置いて演奏されているものを、並べていきます。

(以前この連載で、メタルのヨハンソン兄弟とジャズ・ピアニストのヤン・ヨハンソンの話を書きましたので、そちらもご参照下さい)

 

ボボ・ステンソン・トリオ「Live In The Forest, 2009」

まずは、北欧ジャズ・ファンは皆見ているであろう、定番の〈森でピアノ・トリオ〉映像です。スウェーデンの巨匠、ボボ・ステンソンのトリオ。こちらはTVプログラムですね。森にピアノ入れちゃってますが、湿気は大丈夫なんでしょうか。日の高さで変わる明るさも、即興演奏に絶対影響するはずですね。日が落ちるとステンドライトを付けているのも綺麗です。

 

アモン・アマース “Deceiver Of The Gods”

「ゲーム・オブ・スローンズ」と見紛うMVは、スウェーデンのアモン・アマース。このような、ドラマとバンドを交互に観せるという構成のMVは多いのですが、バンド演奏のシチュエーションは、ほとんどの場合屋内なんですよ。これは古城の芝生の上で実際に演奏していますね。

 

アーチ・エネミー “The Eagle Flies Alone”

スウェーデンのアーチ・エネミーは採石場です、仮面ライダーが戦うところ。リアルにシールドが見えているのがポイント高いです。ガチで演奏しているはずです。こういうところはどういう響きがするのでしょうか……。

 

アダム・バウデイヒ&ヘルゲ・リエン “Hallelujah”

日本でも人気のノルウェーのジャズ・ピアニスト、ヘルゲ・リエンとヴァイオリ二ストのアダム・バウデイヒの演奏です。朝靄の中での演奏、とても素敵ですが、朝露はピアノに良くありません。だからだと思いますが、ピアノはかなり古いものを使っていますね。これこそ、まったく反射音のないだだっ広い状態です。
ちなみに、私の周りのヴァイオリニストは、屋外で演奏する際はメイン楽器ではないものを使っています。楽器に湿気は大敵です。

 

イモータル “All Shall Fall”

ノルウェーといえば、イモータル。いつも寒そうなところでMVを作っているイメージですが、これ絶対メチャクチャ寒いですよね。

 

ソナタ・アークティカ “Paid In Full”

フィンランドの、ソナタ・アークティカ。これ最初はセットかなと思ってたんですが、見ていると、セットじゃないですよねこれ。しかも服装がガチで寒いところ仕様なので、本気で寒いところに行って撮影したんですね。

 

コルピクラーニ “Wooden Pints”

フィンランドで屋外演奏といえば、コルピクラーニ。メタラーには定番のMVですが、ジャズ・ファンの皆さんにも、この世界観はぜひ観てほしい。

 

エスペン・バルグ・トリオ “Climbing”

最後に、ノルウェーのエスペン・バルグ・トリオのMVをご紹介します。彼らは何度か来日したことがあり、横浜のホールで一緒にコンサートしたことがあるご縁で、今年3月にリリースされた『Free To Play』のライナーノートも書かせてもらっています。このMVは本当に素晴らしいロケーションで、演奏も素晴らしく、ノルウェーならではの映像と音楽の美しさに、うっとりします。

 

ということで、屋外での変わったシチュエーションでの演奏依頼、お待ちしております。(通常のジャズ・ピアノ・トリオでも、メタル・プロジェクトのNHORHMでも)

 


PROFILE:西山瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシック・ピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I'm Missing You』を発表。ヨーロッパ・ジャズ・ファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズ・プロムナード・ジャズ・コンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice Of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズ・フェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。

以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコード・ジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラー・トリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカヴァーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。

自己のプロジェクトの他に、東かおる(ヴォーカル)とのヴォーカル・プロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグ・バンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズ・プロムナードをはじめ、全国のジャズ・フェスティヴァルやイヴェント、ライヴハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。

 


LIVE INFORMATION

10月4日(金)兵庫・伊丹 STAGE(072‐777‐3818)
西山瞳(ピアノ)、橋爪亮督(テナー・サックス)、鈴木孝紀(クラリネット)
時間:19:30~22:00
チャージ:3,000円

10月5日(土)、6日(日)岡山・おかやまジャズストリート2019
橋爪亮督(テナー・サックス)、西山瞳(ピアノ)のデュオ
http://jazzokayama.com/

Travels Special Live
10月14日(月祝・昼)東京・中目黒 FJ's(03-6303-1214)
東かおる(ヴォーカル)、西山瞳(ピアノ)、市野元彦(ギター)、橋爪亮督(テナー・サックス)、西嶋徹(ベース)
開場/開演:12:30/13:00(90分1セットの公演の予定)
予約/当日:3,500円/4,000円(別途ドリンク代)

★ライヴ情報の詳細はこちら