ユップ・ベヴィンの演奏を見たことがある。会場にはフルコンではなくアップライトのピアノが据えられて、座ってもそのピアノを覆ってしまうほどの巨体の彼が客席に背を向けてただただ演奏するのだ。少ない言葉で多様な世界を描き出す詩人の様な音楽家だと感じた。音楽はミニマルというより饒舌にならない工夫が凝らされたというべき佇まいだった。その彼の音楽が邦画『楽園』を伴奏するという。そのサントラがこのアルバムである。アップライトのピアノ響きにはある独特の近さがある。かつて無声映画を伴奏した音楽に感じられた映像、そして物語に寄り添う様な親密な響きを映画が必要としたのだろう。