[ 不定期連載 ]プリンスの1995~2010年
LOVE 4EVER AND IT LIVES IN...

PRINCE 『Up All Nite With Prince: The One Nite Alone Collection』 NPG/Legacy/ソニー(2020)

 NPG時代のプリンス音源を復刻していく〈LOVE 4EVER〉シリーズも、4月17日のリイシューで折り返し。今回はアリスタ期に続くジャジーな21世紀初頭の音源がラインナップされ、2001年の『The Rainbow Children』が復刻されるほか、2002年のオリジナル作『One Nite Alone...』+当時ボックス仕様で限定リリースされたライヴ盤『One Nite Alone...Live!』+『One Nite Alone... The Aftershow: It Ain't Over!』の3作4CD+2002年12月のラスヴェガス公演の模様を収めたライヴDVD「Live At The Aladdin Las Vegas」は、『Up All Nite With Prince: The One Nite Alone Collection』なる5枚組セットでのリリースとなる。そのうちアルバム3作に関しては個別にLP化が実現するのもトピックだろう。ともかく円熟味を増した頃の殿下サウンドを存分に堪能したい。

 

PRINCE 『The Rainbow Children』 NPG/Legacy/ソニー(2001)

 シンボルマークからプリンス名義に回帰した最初の作品にして、2000年代最初のオリジナル・アルバム。もともとは会員制サイトの〈NPG Music Club〉で先行ダウンロードできた作品ということで本人的にそこまでコマーシャルに展開する意図もなかったのかもしれないが、ポップソングとして簡潔に一曲単位の輪郭を整えていたアリスタ発の前作『Rave Un2 The Joy Fantastic』(99年)に対し、ここでは全編がジャジーなムードで緩やかに結び付いていて、いわゆるシングル・カット的な発想ナシに編み上げられた作品なのは確かだろう。ほぼ全曲で起用されたジョン・ブラックウェルのドラムがタイトで、それ以上にホーンやフルートの創出する濃密な空気感が印象的だ。

 リリースに先駆けてペイズリー・パークで開催された連日のイヴェント〈Prince: A Celebration〉には副題で〈The Rainbow Children〉と冠され、そこにはエリカ・バドゥらも招かれていたから、こうした音像の変化は同時代のネオ・ソウルを意識したものでもあったはずだが、それ以上にプリンスの考える生の作法を突き詰めた結果、極めてスムース・ジャズ的になったというのが興味深い。もちろん楽曲単位で切り出して聴ける側面もあり、ラリー・グラハムのベースを従えてJB作法でカマす“The Work Pt.1”は後の“Musicology”にも繋がるファンク・ナンバー。感動的なコーラスを備えたホーリーな“Last December”も流石の迫力だ。

 

PRINCE 『One Nite Alone...』 NPG/Legacy/ソニー(2002)

 同年3月からスタートしたツアーと同じタイトルが冠されたアルバム。当時は一般の店頭流通ではなく〈NPG Music Club〉を通じてのみ配られたため、フィジカルでの一般流通はこのたびのリイシューが初めてとなる。制作にあたっては『The Rainbow Children』のマスタリング作業を並行しながら(!?)録音されたそうで、ピアノを中心とした演奏と歌はほぼすべてプリンス自身の独力によるもの。

 前年にアリシア・キーズが“How Come U Don't Call Me Anymore?”のカヴァーをヒットさせてもいるから、弾き語り欲(?)を触発されてこういう〈ピアノ&マイクロフォン〉寄りの作品が生まれた可能性もあるが、基本的には『The Rainbow Children』の延長線上にあるアダルトで洒脱なムードをよりアコースティックに、よりシンプルに突き詰めたような内省的な楽曲集になっている。“Here On Earth”と“A Case Of U”の2曲でのみジョン・ブラックウェルがドラムで参加しており、後者はもちろん敬愛するジョニ・ミッチェルの美しいカヴァーだ。流石にレギュラーなアルバムと真っ当に比べれば地味なのは否めないものの、後に『MPLSound』(2009年)で再録される“U're Gonna C Me”など繰り返し味わいたくなる高純度な内容なのは確かだ。

 

PRINCE 『One Nite Alone... Live!』 NPG/Legacy/ソニー(2002)

 この時点で20年以上に及んでいたキャリアにおいて初めてリリースされた公式のライヴ音源集。同名ツアーにおける複数箇所での録音を一本の流れに編集したもので、初出時は別掲の〈The Aftershow〉も含む3枚組ボックスとしてリリースされていた。バンドの陣容はジョン・ブラックウェル(ドラムス)とロンダ・スミス(ベース)をリズム隊に据え、さらにシーラEのE列車バンドにいたヘナート・ネト(キーボード)をリクルート。そんな簡素な編成にあって、重鎮メイシオ・パーカー(サックス)とグレッグ・ボイヤー(トロンボーン)、スムース・ジャズ系の大物ナジー(サックス)、80年代末からの縁を経てバンド入りしたキャンディ・ダルファー(サックス)と管楽器がゴージャスなのもこの時期の特徴だ。断片的に演奏を行き来するためトラックリストそのままの豪華さがあるわけではないが、敏腕揃いな〈アダルトNPG〉ならではの円熟したパフォーマンスが楽しめる。

 

PRINCE,THE NEW POWER GENERATION 『One Nite Alone... The Aftershow: It Ain’t Over!』 NPG/Legacy/ソニー(2002)

 初出時は『One Nite Alone... Live!』のボックスにDisc-3として同梱されていたもので、ライヴ本編後とは異なるアフターショウの模様を収めたという意味では、映像作品「Live! The Sacrifice Of Victor」(94年)にも通じる貴重な音源集だ。こちらも複数箇所での録音をコンパイルしたもので、ラリー・グラハムが駆けつけた“Joy In Repetition”、原形をとどめないファンク・ジャムと化していく“Peach(Xtended Jam)”、キャンディのソロが光る“Girls & Boys”など、夜中という時間帯も作用したセッション感が満載。ジョージ・クリントンや当時新人だったミュージック・ソウルチャイルドの飛び入り、スライのカヴァーも聴きどころだろう。