©武藤章

2032年めがけベートーヴェン全曲に挑む

 「実は小さい頃、バッハからハイドン、モーツァルトと弾き進めるなか、ベートーヴェンだけは好きになれず、むしろシューベルト後期のソナタに心を奪われていたのです」――2002年のチャイコフスキー国際音楽コンクール・ピアノ部門で女性初&日本人初の優勝に輝いて以来、第一線の活動を続けてきた上原彩子が2032年のデビュー30周年に向け、全8回の〈ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全曲演奏会〉に挑む。初回は2024年3月9日。東京文化会館小ホールで、作品2の3曲(第1~3番)と作品49の2曲(第19 & 20番)を演奏する。

 〈心変わり〉のきっかけは?

 「13歳で弾いた第1番を別とすれば、30代に入ってから第5番“皇帝”→第4番の順に進んでピアノ協奏曲を5曲全部手がけ、シンフォニックな構造に目覚めたのです。同じようなフレーズの繰り返しでももっと長い単位、小節を超えた大きな呼吸や、大きく組み立てられた流れなど、若い時には理解できなかった〈変化しない良さ〉に気づきました。ソロで弾いているとわからない低音の支えの素晴らしさ、その上に中音が鳴り、メロディが流れる仕組みをオーケストラとの共演を通じて理解しました」

 小柄な上原はチャイコフスキーやラフマニノフのヴィルトゥオーゾ(名技)協奏曲の最強音を出す瞬間、ほとんど立ち上がって打鍵するなど、独自の奏法を究めてきた。バロックから古典派にかけてのレパートリーと向き合う際にはチェンバロ、フォルテピアノなどピリオド楽器にも触れながら、現代のフルコンサートグランドでの再現法を決める。ベートーヴェンは当時最新の楽器の発達を半ば先取りしつつ、ほぼ全生涯にわたって「ピアノ・ソナタ」を書き続けた。上原も「楽器の進歩を念頭に置きながら1つではない、様々な弾き方を試したい」といい、「初めて採り上げる作品もあるので〈正解〉にとらわれず、色々な可能性を探りながら自分のアプローチを見つけます」と意気込む。

 全曲シリーズは「ほぼ年に1回ずつ、作曲年代ごとの8回」と決めた。

 「全曲を終えたら再び、協奏曲に向き合おうとも考えています。できればピリオド楽器のアンサンブルと共演したいのですが、弾き振りは私があまりに小柄なので立ったり座ったりしなければならず、考えものです」

 マイペースで一歩ずつ、キャリアの新たなページを開いてきた上原なら、きっと素晴らしい解決策を見つけるはずだ。

 


LIVE INFORMATION
上原彩子 ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲演奏会 Vol.1

2024年3月9日(土)東京文化会館 小ホール
開場/開演:13:30/14:00
Vol.1 1番・2番・19番・20番・3番
https://www.japanarts.co.jp/

上原彩子 ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲演奏会 ~次なる十年、2032年の30周年に向けて~
Vol.2 5番・6番・7番・4番
Vol.3 8番(悲愴)・9番・10番・11番
Vol.4 12番(葬送)・13番・14番(月光)・15番(田園)
Vol.5 21番(ワルトシュタイン)・16番・17番(テンペスト)・18番
Vol.6 21番・23番(熱情)・24番(テレーゼ)・25番(かっこう)・28番
Vol.7 27番・26番(告別)・29番(ハンマークラヴィーア)
Vol.8 30番・31番・32番
*会場未定
*曲目、曲順が変更となる場合がございます。