アフロの血をインドのソウルがカウントするジャズ

 《Blood Count(=血球数)》は、食道癌で亡くなった作編曲家ビリー・ストレイホーンの遺作である。パートナーだったデューク・エリントンによるトリビュート・アルバムに収録されたこの作品の演奏が好きだったと、最新作『Break Stuff』の7曲目に取り上げ、しみじみとしたピアノ・ソロを披露するヴィジェイ・アイヤーは、語っている(ECMのHP)。ジャズ・ファンならエリントンやセロニアス・モンクアンドリュー・ヒルあるいはハービー・ニコルスを好んで取り上げるピアニストという印象を、このピアニストに持つ人も多いのではないだろうか。しかしユニークな演奏家であると同時に作曲家への好みを本人自身は“尊敬”という言葉以上に説明したことはないようだ。

VIJAY IYER TRIO Break Stuff ECM/ユニバーサル(2015)

 即興演奏こそがジャズのエッセンスであるに違いないがジャズがジャズであるために、ジャズの演奏家たちは作品を書き続けてきた。ヴィジェイ、あるいはN.Y.のスティーヴ・コールマン周辺の音楽家たちが、目指してきたものの一つがまさに、集団即興を発生させるための仕掛けとしての作品、作曲法の研究・開発だった。スティーヴやヴィジェイの作品は、集団即興という空間においてジャズを発生させること、その音がジャズになることを方向づけるためのプラットフォームであり、今回のこのヴィジェイのピアノ・トリオのアルバムは、最高の結果のひとつだろう。

 あらゆるリズムへの関心が、彼らの音楽をジャズへシェイプシフトしていく演奏の記録、というまさにこれはジャズのアルバムだと思う。6連譜のメロディにヒップホップのリズムがからむ《Break Stuff》、後半ダウンビートの位置が徐々にクラーヴェへと変化していく《Geese》、様々なミニマルフレーズが絡み合う《Hood》、7/8拍子のリフレインするフレーズをベースに変化していく《Mystery Woman》など、かつて5+8の複合拍子で《Human Nature》のグルーヴの再設定を試みたヴィジェイのエッセンスはさらに濃くなるばかり。