未曾有の音楽的遺産を紐解くアジア系新世代

 近年、アメリカのジャズ・メディアの注目を常に浴び続けているピアニスト、ヴィジェイ・アイヤー。インド移民2世でアメリカ育ち、絶え間ない努力でアメリカのプログレッシヴな教育制度を縦横無尽に渡り歩いてきたこのピアニストの英知に富んだ見識とそのヴィジョンを凝縮した作品でのプレゼン能力の高さは、現行のシーンではやはり群を抜いた存在感を放つ。そんな彼の影響もあってか、アジア系音楽家達の躍進が現行のジャズ・シーンで近年注目されている。ヴィジェイの待望のトリオ新作のタイミングで、彼とも縁の深い2人の音楽家も相次いで新作をリリースした。

 

REZ ABBASI Intents And Purposes Enja(2015)

 パキスタンのカラチ生まれでロス育ちのギタリスト、レズ・アバシは、近年パット・メセニーがレコメンドしたことで、一気に注目を集めた。現在はアコースティックとエレクトリック、それぞれのプロジェクトで活動中で、新作『Intents and Purposes』はアコースティック編成でのリリース。ヴィジェイ・トリオのステファン・クランプ(b)、エリック・マクファーソン(ds)、ビル・ウェア(vib)という強力な布陣で、フレットレス・ギターなども使用し、ウェザー・リポートハンコックの70年代フュージョン・クラシックの数々のユニークな解釈が新鮮だ。

 

RUDRESH MAHANTHAPPA Bird Calls ACT Music-Vision(2015)

 イタリア生まれでアメリカ育ちのインド人2世アルトサックス奏者のルドレッシュ・マハンサッパは、幼少からブレッカー・ブラザースイエロージャケッツを聴き親しみ、シカゴの伝説的なサックス奏者バンキー・グリーンに憧れ、2010年の彼との共演作『Apex』から評価が急上昇。近年はジャック・デジョネットの新生スペシャル・エディションのフロントにも抜擢された。彼の新作『Bird Calls』は、チャーリー・パーカーへの単なるトリビュート作ではなく、彼が残したジャズの可能性を斬新なまでに押し広げてみせたアグレッシヴな一枚となっている。

 未曾有の音楽的遺産を蓄えたインド音楽から学んだアイデアを散りばめながら、ジャズの歴史に新章を生み出す逸材たちの活躍に今後も注目。