(左から)avengers in sci-fi・木幡太郎、Yasei Collective・斎藤拓郎

 

Mikikiブログ〈ヤセイの洋楽ハンティング〉でお馴染みのYasei Collectiveが、自身のレーベル=Thursday Clubからの初作品となるニュー・シングル“radiotooth”をリリース! Mikikiではこれを記念し、ヤセイブログのスピンオフ企画として各メンバーをフィーチャーした短期集中対談連載〈ヤセイの同業ハンティング〉をスタートしています。メンバーそれぞれがいまバンドマンとして&同じ楽器を演奏するミュージシャン(同業者)として尊敬する人たちを招き、あんなことやこんなことをディープに掘り下げていく全4回!

その第3弾は、Yasei Collectiveの斎藤拓郎と、avengers in sci-fi木幡太郎によるギタリスト対談です! ギターの他にもヴォーカルを取り、シンセサイザーも担当する両者は、揃って〈ギタリストっぽくないギタリスト〉と自称する似たもの同士。〈こういう話はお互いでしかできない〉という機材にまつわるディープな話や、プレイヤーとしての音楽観や今後の展望など、たっぷりと語ってもらいました!

〈ヤセイの同業ハンティング〉
★Vol.1 別所和洋(Yasei Collecitive)×芹澤優真(SPECIAL OTHERS)はこちら
★Vol.2 松下マサナオ(Yasei Collective)×伊藤大助(クラムボン)はこちら

Yasei Collective radiotooth Thursday Club(2015)



工夫のなかからおもしろいものが生まれる

――そもそものお2人の関係性は? また、斎藤さんは今回なぜ木幡さんと話してみたいと思ったのでしょうか?

斎藤拓郎(Yasei Collective)「avengers in sci-fiと初めて共演したのは、去年11月に大阪・BIGCATで行われた〈JAPAN CIRCUIT〉という、アべンズ(avengeres in sci-fi)とチャットモンチー、Yasei Collectiveが出演したイヴェントでした。その時初めてアべンズのライヴを生で観たんですけど、それ以前にスタジオ・ライヴの映像をYouTubeで観て。その時点で〈この人たちのこの機材の量はなんなんだろう〉と(笑)。当日もライヴのセッティングを見たらやっぱり〈なんだこりゃ(笑)〉って。ライヴも素晴らしくて、打ち上げでちょっと話をさせてもらいました。僕は普通のギタリストっぽいギタリストじゃないので、他のギタリストの先輩とかとは共通する話題があまりなかったんですが、太郎さんの場合は初めて〈まさしく同じスタイルの先輩だ!〉と思って(笑)」

――あのスタイルというか、ギターもやってシンセもやって、さらにヴォコーダーを使ってヴォーカルも取るという点で、合う人はまずなかなかいないですよね。

斎藤「見つけた!感がありましたね(笑)」

――木幡さんもその時初めてヤセイを知ったんですか?

木幡太郎(avengers in sci-fi)「一番最初に知ったのは、新宿MARZのトイレにヤセイのフライヤーが貼ってあって。すげえ名前だなと思って、気にはなっていたんです。それでさっき話に出た〈JAPAN CIRCUIT〉で一緒になって、そこで初めて観ました。もう、それはそれはえらいカッコ良かった。僕らがその時にちょうど今年から始めた〈Unknown Tokyo〉という自主企画イヴェントの準備をしていて、呼ぶバンドがまだ決まってなかったので、その日の打ち上げで声を掛けました」

――そこで観て即決したんですか(笑)。ある意味〈自分と似たような人がいる〉というのも、気に掛かったポイントですか?

木幡「そうですね、まあいろいろ苦労もわかるというか。やっぱりギターって、いわゆるロック・ギターを弾いてるほうが楽しいんですね、気持ちいいので。エフェクターのかかり具合などを気にしながら弾くわけでしょ。すごく神経を使っているだろうなと。でもそういう見方を、僕はもう最近はしていなくて。やっぱりバンドを始めた頃はそういうところばかり目が行くんですが、流石に長く続けてきたので、そういう弾き方もしばらくしていないんです。まあそういう面でも(ヤセイは)すごくおもしろいなと思ったし、単純にバンドの音楽が最高でした。近年稀に見るような」

斎藤「恐縮です」

――ではその打ち上げで盛り上がった時は、そういった機材などのマニアックな話で盛り上がったんですか?

斎藤「何を話したかはそんなに覚えてないですね。チャットモンチーのサポートでツネさん(恒岡章)が来ていたので、〈Hi-STANDARDが好きなんです〉と伝えてツネさんと写真を撮ってもらったり」

Hi-STANDARDの99年作『MAKING THE ROAD』収録曲“Stay Gold”

 

木幡「ルーツの話をしたよね」

斎藤「〈普段どんな音楽聴いてるの?〉とか」

木幡「俺なんかてっきり、拓郎くんはジャズばっかり聴いてるのかなと思ってたけど」

斎藤「僕は中学生くらいからギターを始めたんですけど、その時はちょうどhideとハイスタの2つをコピーしていて。高校の時もずっとハイスタをやっていて、大学で初めてジャズとかを聴きはじめた感じですね」

――ジャズ研にいらしたんですよね。

斎藤「はい。僕が入っていたジャズ研はビッグバンド専門で、そこでフル・アコースティック・ギターで四つ切りをずっとやっていて……そんな人間がなぜかヤセイに入って、エフェクターを使いはじめたんです(笑)」

※ビッグバンドでの演奏でよく使われる、4ビートで〈ジャッジャッジャッジャッ〉と刻むギターの奏法。カウント・ベイシー・アンド・ヒズ・オーケストラで活躍したギタリスト、フレディ・グリーンが有名

――ではヤセイに入ったことがきっかけで、いまのスタイルになったと。

斎藤「そうですね。ヤセイに入る前に、エフェクターを買ってみたんですよ、マルチ・エフェクターを。それがたまたまいろんなギター・エフェクトが入っていて」

――LINE 6ですか。

斎藤「はい。で、それがおもしろいのでどんどん使っていこうという話になって。とはいえ、元はJ-Popが大好きでした。ハイスタあたりはいまも聴いたりしますね」

――もちろんジャズも聴いているけど、そういったいわゆるJ-Popやロック的なものも聴いてきたし、ヤセイに入ってからはさらにさまざまな音楽を聴いていると。

斎藤「そうですね」

――いまのスタイルに至るうえでのルーツは何ですか?

斎藤「僕が作る曲は、メロディーは日本的な感じなんです。でもコードがリズム的なのは、ウェイン・クランツマーク・ジュリアナ二ーボディといったNY周辺のアーティストのエッセンスを抽出して混ぜているからかなと。そこらへんのジャズ界隈の人たちからの影響は大きいですね」

ニーボディ×Yasei Collectiveの2013年のライヴ映像 

 

――Mikikiのヤセイのブログでもウェイン・クランツは挙げられていましたね。木幡さんはそのあたりのアーティストは通っていますか?

木幡「一番最初はやっぱりハイスタをコピーしていました。僕は結構オルタナがルーツというか。ニルヴァーナとか、そのへんは本当に大好きでしたね。そこから周りの友達の影響でハイスタを聴くようになったんです。高校を卒業してからはエレクトロニカやポスト・ロックを聴くようになったり、テクノ的なものも含めていろいろ広がっていった感じです。ジャズに関して言うと、マイルス・デイヴィスジョン・コルトレーンとか、そのあたりしかわからないですね」

――エフェクターや機材をたくさん扱ういまのスタイルは、どのあたりがルーツになりますか?

木幡アンダーワールドケミカル・ブラザーズ、ロック寄りのダンス・ミュージックなど、高校を卒業してからはそういうものがすごく好きだったので、シンセやシーケンサーのフレーズをギターでやりたかった。そういうところから機材が増えていった、というのはあるんですよね。もともと、いわゆるテクニカルなものは好きじゃなかったんです。テクニックを見せつけるというよりは、カート・コバーンのフレーズが好きだったので、サビでとにかく歪ませる、みたいな、そういうヴェクトルのことがしたかったというのがありました」

ケミカル・ブラザーズの2002年作『Come With Us』収録曲“The Test” 

 

――そこにダンス・ミュージックの要素も加わってきて、徐々にアベンズのスタイルになっていったと。そんな木幡さんから見て、ヤセイは特にどんなところが新鮮だったのでしょう?

木幡「第一印象は、現代のYMOだと思った(笑)。ジャズ寄りのアプローチをしていたことから、誤解があるかもしれないですけど知的なイメージを持ちましたね。そういう要素もありつつ、ヴォコーダーやシンセ・ベースを使ったポップさやカラフルな音色で楽しませてくれるバランス感。これを例えるならもうYMOしかいないなと思って」

――そういうものが混ざり合って、超越した存在になっているところがYMO的と。斎藤さんは、松下(マサナオ)さんら先輩のいるバンドに入ったわけですが、ヤセイはどうやって出来上がっていったのでしょう? 

斎藤「アメリカの音楽を〈これカッコイイよ〉といろいろ聴かされて。たぶん一番最初はラダーというキース・カーロック(ドラムス)やベースのティム(・ルフェーヴル)がやっている人力エレクトロ・バンドの影響を強く受けました。格好良いリズムの上にポップで、シンセを使ったメロディーが乗ってる曲を作りはじめたのがきっかけで、そこからジャズ寄りに行ったりロック寄りに行ったり。でも基本はシンセの曲が根本にあるので、いまはいろいろと寄り道してる感じです」

ラダーの2010年のライヴ映像

 

――ギターも演奏しつつ、シンセも担当するスタイルは初めから?

斎藤「そうですね、それは最初からそうだったと思います」

――ではヤセイの目から、アベンズはどのように見えているのでしょう?

斎藤「一番最初に目に付いたのは、やっぱり圧倒的な機材の量ですね。僕は普段、他のバンドが使っている機材をわざわざ見ないほうですが、アベンズの3人であの量は〈マジかよ〉って(笑)。そこから〈すげえなあ〉と思いはじめて、実際に音楽を聴かせてもらいました。“Citizen Song”はシーケンスを使っていますよね? あの曲は必要最低限のシーケンスで、サポートを入れるわけでもなく3人でできることをすべてやっているという姿勢がすごく格好良いですね」

――アベンズにとって、スリー・ピースというのはこだわりなのでしょうか?

木幡「バンドを始めた頃はありましたが、いまは特にないです。それにメンバーを増やすのが面倒臭いというのもあります(笑)。人数が増えたからといって何かが良くなるとは限らないし、逆に、何か工夫しなくても曲が成立したりもするんじゃないかと。3人だと、音の配置などある程度は試行錯誤しないといけないので、そういった工夫のなかからおもしろいものが生まれるのかな、と思ったりはします」
 


斉藤:うなづく

木幡「力強く〈うん〉と(笑)。ヤセイもそういうのはある?」

斎藤「そうですね。最終的には一人でいくつ音を出せるかという話になってくるので、4人で曲を作っていて、〈ここにもうひとつ何かが欲しい〉となれば、〈じゃあ誰ができる?〉となる。〈ここでは俺がこれをやってるから無理〉〈そこは君がそれをやってるから無理〉で、〈でもここをどうにか上手いことやればできるかも!〉みたいな。そこでまた新しいやり方を思いついたり」

木幡「シンセ・べースとベースを持ち替えたりね」

斎藤「そうですね」

木幡
「もし人数が10人いたら、そういった演奏スタイルにはならないというか」

――いる人数のなかで、配置や組み合わせをしていくと。

斎藤
「(その話には)共感しますよ」

木幡
「そうだね。苦しんでるな、楽しいだけじゃないだろうなと(笑)」

――先ほど言っていた、ギター・ソロをジャーン!と弾くのとはまた違う苦しみが(笑)。

木幡
「ギター・ソロを音を歪ませて弾くのは本当に気持ちいいんですよ。でもそれを良しとしない姿勢や変態性に共感します(笑)」