INTERVIEW

北園みなみ、石若駿ら若手ジャズ・ミュージシャン招いた〈ひさん〉ではないウィンター・ソング集『Never Let Me Go』を語る

 

今年7月に2枚目のミニ作『lumiere』を発表し、さらにカラフルなポップ・ワールドを見せてくれた北園みなみ。Mikikiでは今夏から彼が好きな名曲のお気に入りフレーズをみずから採譜し、その〈ツボ〉を解説する連載〈北園みなみのあの曲の名場面〉もスタートし、ミュージシャンでありコアな音楽リスナーである彼ならではの視点が好評を得ている……ものの、今年もアーティスト写真は公開されず、変わらずその素顔は謎に包まれたままだが、そんなファンタジーな一面も作品にいっそうのチャームを与えているのもまた事実。自身が作詞・作曲・アレンジから歌唱、各種楽器の演奏をこなす一方、ブラス・セクションやストリングスをはじめ数多くの腕利きプレイヤー陣がサポートした魅惑の音世界に、リスナーそれぞれのイマジネーションが重なって、多様な北園みなみの音楽の楽しみ方があるはずだ。

そして、その魅惑の音世界に新たなインスピレーションを与える3枚目のミニ・アルバム『Never Let Me Go』がこのたびリリースされた。本作はウィンター・ソングを中心に編まれた一枚で、クリスマスを控えるいまの季節に聴きたい温かく豊潤なナンバーが5曲揃っている。レコーディングにはまた新たな演奏家たちが加わり、ドラムスの石若駿やベースの楠井五月&森田悠介、ピアノの魚返明未ら気鋭の若手ジャズ・ミュージシャンが参加しているのも特徴だろう。ブライトなサウンドとは対照的な内容のリリックも興味深い新作について、本人にメール・インタヴューを行った。

北園みなみ Never Let Me Go P.S.C.(2015)

 

――今回、初めてのシーズン・アルバムになりますが、こういったコンセプト作を制作することになった経緯は?

「冬を題材とした曲をいろいろと書き貯めていたので、そろそろ形にしようと思って作りはじめました」

――新たに作ったのではなく、ストックしていた曲をレコーディングされたんですね。では制作にあたって、〈冬〉ということ以外に今回意識した点はありますか?

「振り返ってみると、こだわりは捨てて無意識に制作するということが念頭にあったように思います。新しい何かを探ることが難しい時期もあるのだと、楽器の音色であれば以前使って効果があったものを、たとえ使いすぎていてもそれを使用しました。書き方についても同じで、特に音楽に望まれない不自然さを避けるために、シンプルで無難なものを選んでいます。あまり企てない、ということが意識されたと思います」

――〈冬らしいサウンド〉というのは言葉で説明するのは難しいですが、どれも見事にさまざまな〈冬らしさ〉が感じられる温かい楽曲が揃っていますよね。個人的には“冬を数えて”の冬らしさがいいなと思いました。

「“冬を数えて”のピアノは、しばしば密集した和音が演奏されていて、そこにギターが加わることで音の密度をより高めています。僕の場合は密集した響きから冬の寒空が連想されるのですが、この曲もそれが冬らしさを感じさせる理由のひとつかもしれません」

――なるほど、音色もそうですが、そういった響きの部分でも冬らしさを出すコツがあるんですね。ちなみに、他のアーティストの楽曲で、好きなウィンター・ソングはありますか?

「ウィンター・ソングだったら、NRBQの“Christmas Wish”は聴いていてツライほどに良いと思います。NRBQの他の曲にも言えますが、洗練されているのかそうじゃないのか、いったい何なんだという感じが魅力になっていると思います」

――間違いないですね、本当に素晴らしい楽曲です。では、各収録曲について伺いたいのですが、1曲目の“Contrition”はファンファーレのようなオープニングのホーンや榊原香保里Lamp)さんとのデュエットも印象的な、賑やかな仕上がりですね。これまでの作品も冒頭曲はインパクトの強いナンバーを持ってきているイメージがありますが、今回“Contrition”で意識したことは?

「“Contrition”はそれ自体が短い前奏曲を持っているので、最初から1曲目にするつもりでした。試しに次の曲を“ひさんなクリスマス”として聴いてみると、ミュージカルで聴けそうなフレーズを最後にアウトロが終わり、そしてシリアスな2曲目に繋がる、というところがおもしろかったので採用しました」

――ほうほう、確かにそうですね(笑)。ではその次の“ひさんなクリスマス”についてもその流れでお訊きしたいです。非常にインパクトの強いタイトルがまず目を引きますね。バック・ヴォーカルの〈私を離さないで〉というリリックがアルバムのタイトルに通じるという意味でも本作において重要な一曲なのかなと思いました。

「この曲のサビは小学生の頃に夢のなかで聴いた曲と詞で、ずっと覚えていたものを曲にしたんです。決してカッコイイ曲ではなく、他の部分の詞も自然と情けない感じに書き上がりました。タイトルはいまの自分を取り巻いているさまざまなものに対して、〈私を離さないで〉と訴えるイメージです。“冬を数えて”の詞とも繋がっています」

――えー! 小学生の頃に夢のなかですでに出来上がっていたということに驚きですが、それをずっと覚えたというのもまたスゴイですね……。歌詞については、あくまでも私の印象ですが、“Contrition”のやりきれなさ、“ひさんなクリスマス”の情けなさを経て“冬を数えて”でちょっと救われたような気持ちに――という一連の流れを感じたのですが、歌もの3曲に通底するテーマのようなものはあったのでしょうか?

「どの曲も、失敗談や未来への不安が歌われています。まったくツイてないことばかりだけど、いまより落ちぶれていることもあったし、思えばツイていたことなんか一度でもあっただろうか、とか、そういった人生への諦観がテーマになっています」

――また、ちょうど中間にあたる3曲目、井上仁一郎さんが弾くアコギとガット・ギターのみによるインスト曲“Gelatin”が、短いながらとても素敵ですね!

「もともとアルバムのためではなく、ちょっと珍しいことをしてみようと、実験的に書いた曲でした。“ひさんなクリスマス”から少し熱を冷ますための間奏曲として、あるいは“冬を数えて”の前奏曲としてちょうど良さそうだったので、アルバムに加えました」

――もうひとつのインスト曲“街の宝石”はシンセのさまざまな音が耳に残るナンバーです。歌ものとしても成立しそうですよね。

「まだ『Never Let Me Go』がミニ・アルバムとなるか、シングルとなるか決定しない時期に様子を見ながら作りはじめた曲で、ボブ・ジェイムズとかが好きだし、そんな感じで……という思いで作りました。このメロディーは、軽く歌い慣れた雰囲気を出せるなら自分で歌っただろうなと思います。例えば、ピエール・バルーボリス・ヴィアンみたいなイメージです。今回は無難な線として、インストにしました」

ボブ・ジェイムズの78年作『Touchdown』収録曲“Angela”

 

――ほ~、ではいずれ北園さんのヴォーカル入りが聴ける時が来るかもしれませんね! それで、今回は石若駿さんをはじめ若手のジャズ・ミュージシャンが多く参加されていますが、このような布陣でレコーディングを行った理由は?

「全体的にアレンジがかっちりしているので、リズムの縦線をガチガチに固めないほうが力も抜けて良さそうだと思い、普段はインプロヴィゼーションを中心に演奏しているジャズ・ミュージシャンを集めたんです。思惑通り、全体におもしろいグルーヴ感が溢れる仕上がりとなりました」

――なるほど、そういう意図があったんですね。ではそれ以外に今回こだわった部分はありますか?

「これまでにリリースした2作を踏まえると、現状で成果を上げるにはスコアにすべてを書いて仕上げるしかないと考え、今回はより書き譜のパートを増やしたことで、編曲は前回よりも時間と作業の密度を要するものになりました。僕が肉体的な作曲法と呼んでいる、演奏したり歌いながら生み出していく方法が抑えられたことで、全体に抑制された感じに仕上がっています」

――『lumiere』のインタヴューで同作収録の“夕霧”について〈できる限り自分の音楽にしようと試みた〉とおっしゃっていましたが、こういった試みは本作にも活きていますか?

「いたずらに引用したり、聴いたことがあるようなフレーズの継ぎ接ぎにせず、そうしたとしても素材をより根本から捉えて、その周囲を自分のアイデアで形作った、という意味では少しは自分の音楽になっていると思います」

――『Never Let Me Go』というタイトルはカズオ・イシグロの小説(邦題は「わたしを離さないで」)と同名ということもあって、何か関連があるのかな……と思ったのですが、この表題に込められた思いを教えてください。

「カズオ・イシグロは夏の頃にハマっていろいろと読んでいました。タイトルは同名の長編小説と、物語に登場するジャズ・スタンダード曲から拝借したようなものです。字面が良いからジャケットに映えそうだとか、〈私を離さないで〉の響きがなんとも良い感じだとか、そんな理由でこのタイトルにしました」