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【北園みなみの「あの曲の名場面」】第3回 ジェイムズ・ジェマーソン、ジャコ・パストリアスら個性溢れるベーシストの名演

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  • 2015.10.19

気鋭のシンガー・ソングライター、北園みなみが自身のお気に入りナンバーを採譜し、その〈ツボ〉を紹介する連載! 今回も本人直筆の楽譜と共に、 その楽曲の聴きどころをわかりやすく解説してもらいます。たとえ楽譜が読めなくても(編集部担当も読めません)、曲を聴きつつ彼の解説を読めば、楽曲がいかに緻密な構造をしているか、なぜそのような聴き心地になるのか……といった〈ツボ〉をより理解でき、いっそう楽しめますよ!

 


 

今回は番外編のベース・ライン特集として、
個性溢れるベーシストたちの名演を紹介したいと思います。

ジェイムズ・ジェマーソン

モータウンのレコードに名演を残し、70年代はクロスオーヴァーの作品にも多く参加しました。ジェイムズ・ジェマーソンの特徴は、弦高の高い楽器を一本指奏法で演奏するという独自な楽器のセッティングと奏法に表れています。こうして生み出される音色は、エレクトリックならではの立ち上がりの輪郭と、ウッド・ベースのような低音の太さを兼ね備えたものです。

マーヴィン・ゲイ “What’s Happening Brother” 0:30~

1小節目のコードはDm7(b5)ですが、開放のAが使われています。次小節でも、自然に当てはまるハーモニック・マイナーのスケールにはない、Aの開放弦が使用されています。これはジェマーソンの演奏を採譜しているとたびたび目にする、不思議な開放弦の使用例です。こういった音は大抵一瞬で消え去るように、かつゴーストノートチックに使用され、リズムに特徴を与えています。

やはりベース・ラインだけを聴くとメジャー・キーのII-Ⅴが暗示されます。

5小節目からのフレーズは、拍頭を避けてシンコペートしています。サス・コードのふわふわした響きをリズムの面からも強調しているようです。また拍裏で噛み合わせていることに注目です。

【参考動画】マーヴィン・ゲイの71年作『What's Going On』収録曲“What's Happening Brother”
上掲の動画では“What's Going On”の後に流れます

 

ジェイムズ・ジェマーソン(その2)

ジャクソン5 “Darling Dear” 0:33~

クレジットにはジェイムズ・ジェマーソンの名前が記載されていますが、これには諸説あるようです。前述のジェマーソンのベース・ラインと比較すると、なだらかな線を描いているようにも思われます。

ギターよりもピッキングするポイントの弦間隔が広いベース・ギターにおいて、ピック奏法は弦を跨ぐフレーズをあまり得意とはしません。こう考えると、譜例のように弦移動が控えめで、かつ弦を跨がずとも演奏できるベース・ラインは、ピックで演奏する奏者によるものとも考えられます。

特にコード進行とスケールに忠実である点から、果たしてジェマーソンによるものだろうかと、考えさせられます。一見演奏するのが難しそうなベース・ラインですが、開放弦を使用すればポジションを移動せずに1~3フレットだけを使って演奏することができます。

【参考音源】ジャクソン5の70年作『Third Album』収録曲“Darling Dear”

 

スティーヴ・スワロウ

ウッド・ベース奏者として60年代前期から活動を始めたスティーヴ・スワロウは、70年代中期になると、エレクトリック・ベースに持ち替えます。ジャズのベーシストとしては珍しくピックを用いる彼の演奏スタイルは、紡がれる音色の金属的でありながらアタックの柔らかいトーンも相まって独自のものでしょう。

カーリン・クローグ “The Meaning Of Love” 2:19~

フレーズには和音が多用され、中域に厚みを与えています。また、ルート、5度、12度を用いたフレーズは彼の他の演奏からもたびたび聴くことができます。

ツー・フィンガーで演奏することも可能ですが、ピックのアップとダウンでの音色の微妙な差から生まれるグルーヴには、他の奏法からは得難い魅力があります。

【参考音源】カーリン・クローグの74年作『We Could Be Flying』収録曲“The Meaning Of Love”

 

ウィル・リー

ブレッカー・ブラザーズから山下達郎ら日本のアーティストまで、これまで数多くのレコーディングに参加し、現在も参加作を増やし続けているウィル・リーの演奏からは、凡庸と奇抜さから同等に距離を置いたバランスの良さが感じられます。

マイケル・フランクス “Wrestle A Live Nude Girl” 2:28~

芯のはっきりとした繊細な音色が楽曲に気品を与えています。

Gマイナーのリフに続き、3小節目からAメロが始まり、このセクションの偶数小節でさまざまなフレーズが展開されます。これがヴォーカルと近い音域で重なったり交互に現れたりして、ゆったりした曲に緊張感を与えています。

4小節目、8小節目のフレーズは、前後に開放弦やゴーストノートが使用されることで演奏が容易になっています。

【参考音源】マイケル・フランクスの78年作『Burchfield Nines』収録曲“Wrestle A Live Nude Girl”

 

ジャコ・パストリアス

ジャコ・パストリアスのベースの独特な音色は、自身でフレットを除いて作ったというフレットレス・ベースを使用し、リア・ピックアップ上でピッキングすることで生み出されていました。奏者としては短命でしたが、いまもなお多くのミュージシャンに影響を与え続けています。

ウェザー・リポート “Teen Town” 0:09~

有名なオクターヴ・フレーズから始まり、音域の広いソロが始まります。コード進行はC (9,13)、A (9,13)、F (9,13)、D (9,13) が繰り返される。ジョー・ザヴィヌルはルートを省いたりさまざまなボイシングで演奏しているため、実際にはベース・ラインのルートに決して腰を据えない旋律のため、不確定でスリリングな響きが連続します。

パッセージのすべてが裏拍から開始しているのが特徴的です。運指はいろいろと考えられますが、ジャコは基本はロー・ポジションで、ある程度開放弦を使用して演奏していることがライヴの映像などから窺えます。

【参考音源】ウェザー・リポートの77年作『Heavy Weather』収録曲“Teen Town”

 

以上、先駆者である彼らの独自な音色と演奏内容を紹介しました。聴き馴染んだ音楽のベース・ラインに耳を傾けてみますと、おもしろい発見があるかもしれません。音楽の細部に耳を凝らすことで、新たな感動を味わえることがあるものです。

 

PROFILE:北園みなみ


 

 

90年生まれ、長野・松本在住のシンガー・ソングライター。2012年夏にSoundCloud上で発表した音源をきっかけに注目を集め、2014年にミニ・アルバム『promenade』でCDデビュー。Negiccoの2015年作『Rice & Snow』や花澤香菜の同年作『Blue Avenue』をはじめ、他アーティストの作品へアレンジャーやマニピュレーターなどさまざまな形で参加し、活動の幅を広げる。2015年7月に2枚目のミニ・アルバム『lumiere』(P.S.C.)を発表。

【参考動画】北園みなみの2015年のミニ・アルバム『lumiere』収録曲“夕霧”

 

そして! 12月2日に新ミニ・アルバム『Never Let Me Go』のリリースが決定! 〈北園みなみが送る冬のシーズンズ・グリーティングス〉と銘打たれた同作は、石若駿(ドラムス)をはじめ日本の新世代ジャズ・シーンを牽引する気鋭の面々など今回も多くのプレイヤー陣を迎えた5曲入りのウィンター・ソング集となっている。また北園らしい華やかでユーモア溢れるサウンドが詰まった一枚になりそうだ。乞うご期待!