INTERVIEW

ネットラップ・シーンから現れた17歳のシンガー/MC、ぼくのりりっくのぼうよみが初アルバム『hollow world』を語る

写真/神藤 剛

 

 平熱ながらも甘いメロウネスを漂わせる歌声、まろやかな発語を伴ってラップ~歌唱の間をスムースにスイッチするフロウ、抽象性のなかから聴き手にズバリと斬り込んでくるキャッチーなフック……そのスキルはどれも、17歳という年齢に似合うものではない。初アルバム『hollow world』を携えて、ネットラップ・シーンから現れたぼくのりりっくのぼうよみ。もともとは〈紫外線〉としてニコニコ動画の〈歌ってみた〉に投稿していた彼は、VACONとの出会いを契機にラップを始めた。

ぼくのりりっくのぼうよみ hollow world CONNECTONE(2015)

 「最初はホントに棒読みで、アーティスト名もそこからきてるんです(苦笑)。自分のスタイルが定まってきたのは、“sub/objective”が出来た頃。それまではメロディーを使っちゃダメで、韻を踏まなきゃダメで、リリックの意味もちゃんとわからないとダメで……っていう思い込み(笑)があったんですけど、僕はそもそも歌うことから始まってるのもあって、フックは普通に歌いたい。良い曲を成立させるために使う道具のひとつとしてラップを見るようになったのが大きいですね」。

 そうして自分だけのシンギング・ラップを手にした彼の音楽の原体験は、母親の影響で聴いていたというEGO-WRAPPIN’MONDO GROSSO。「ジャズ寄りのものが好き」と、さらにSOIL &“PIMP”SESSIONSホセ・ジェイムズロバート・グラスパーらの名を挙げる。ヒップホップであればSALUAKLO小林大吾がフェイヴァリットだそうだが、そうした嗜好を思えば、先行曲“パッチワーク”が哀愁のトランペットに先導された90年代R&B風の洒脱なミディアムであることにも納得がいく。他にもメランコリックに沈む現時点での代表曲“sub/objective”、ドラムン調のビートと共に速射砲のようなラップを繰り出す“A prisoner in the glasses”、切迫感のあるピアノ/ストリングスと呼応して混沌とした心情を畳み掛ける“Collapse”、ネット上の口さがない住人に向けてリズミカルに毒づく“CITI”(=Creature In The Internet)、スピリチュアルなポエトリーを披露する“Venus”など、彼のアイデアに沿ってFAKE TYPE.DYES IWASAKIsasanomalyMonkey_sequence.19らが寄せたトラックもぼくりりの美点。そんな全9曲を収めた一枚に、彼は〈空虚な世界〉というタイトルを与えている。

 「(ジャケットを指して)これは鏡なんです。インターネットに置き換えるとわかりやすいんですけど、自分の実像と、鏡に映ってる自分――インターネットの向こう側の自分は結局存在しないというか……存在はするんですけど、結局0と1の集合体のなかにいるっていうだけだから、それって空虚、虚構なんじゃないかなって」。

 ぼくりりが存在する〈虚構〉の世界。そこに登場する彼の分身は、〈いつしかすり替わる一人称から三人称へ/二元論でしか世界を観れないのは哀しい〉(“sub/objective”)、〈全部のパーツがすり替えられてもぼくらは/それでもぼくらだと言えるのかな〉(“パッチワーク”)といったセンシティヴな言葉遣いで自身のアイデンティティーと対峙し、受け入れようともがく。

 「表記はされてないですけど、1曲目の“Black Bird”は〈お前ら全員バカばっか〉っていうのが第一声で。今回は、自分のひねくれてる部分が前に出てる感じです。リリックはネガティヴな題材のほうが原動力になりますね。受け入れがたい、理不尽なことは〈外〉だけじゃなく自分の中にも存在してて、そういう自己嫌悪が顕著に出てるのが“sub/objective”。理不尽さも自分の一部だって理解して、〈そんなことないよ〉って少し俯瞰した自分もいるのが“パッチワーク”。ちょっとずつ成長してます、みたいな感じですかね(笑)」。

 クールな振る舞いの狭間からこぼれ落ちるエモーション。〈もしかして、実際の自分よりもぼくのりりっくのぼうよみとしてのほうが素の感情を出せる?〉と最後に質問したところ、「そうかもしれないです……うん、そうだと思います」と彼は答えた。〈鏡の向こう側〉の虚像が口ずさむニュー・タイプのリアル。そのリリシズムは多くのリスナーの実像とシンクロしながら、より広いフィールドへと伝播していくに違いない。

 


ぼくのりりっくのぼうよみ
横浜出身、現在17歳・高校3年生のシンガー/MC。中学時代よりニコニコ動画の〈歌ってみた〉に紫外線の名で投稿しはじめ、その後、ラップを始めたことを機に現名義へ移行。“sub/objective”や、ねこぼーろsasanomaly)“戯言スピーカー”のラップ・ヴァージョンが口コミで話題となり、認知を広める。2014年には電波少女ハシシが主宰するidlerよりフリーのEP『Parrot's Paranoia』を送り出し、日本最大級の10代向けオーディション〈閃光ライオット〉ではファイナリストに選出。“パッチワーク”の先行配信、一部店舗限定シングル“sub/objective”を経て、このたびファースト・アルバム『hollow world』(CONNECTONE)をリリース。