mature R&B cells
【特集】R&Bの品格
ブームやトレンドの趨勢はともかく、注目すべき作品は次々にリリース中! この季節がよく似合う、成熟したアーバン・ミュージックの真髄を、あなたに

 冬がいよいよやってきた!ということで、季節の深まりにピッタリ合うR&B作品が出揃ってきました。一口にR&Bといっても、近年はさまざまなフィールドにおいてキーワードとしての〈ソウル〉〈R&B〉〈ブラック・ミュージック〉といった言葉(を用いること自体)が流行っているようなので、単にR&Bといっても人によっては捉える印象はさまざまになっていると思われます(というか、いわゆるブラック・ミュージックの影響下にないポップスなんてそもそもほとんどないわけですが……)。そのぶん、表向きは〈R&B〉として喧伝されていても、いわゆるR&Bファンが失望しそうな出来のものも少なくない状況になってきました(内容の良し悪しの話ではありません)。つまりは、いわゆる正統派のR&Bとされてきたもののほうがオルタナティヴな存在になっているのです。

 何が正統派かどうかというのはともかく、ここ数年でアトモスフェリック系やEDMレトロ・ポップ路線などが入り乱れてきたサウンド面の変化を挙げる向きもあるでしょうが、本来R&Bはさまざまな流行や音意匠を呑み込みながら進化してきた〈変わりゆく、変わらないもの〉です。ここではそういったサウンドの区分を問うよりも、多種多様なトレンドに乗りながらも、根源的な歌唱とヴォーカル・アレンジの力点がR&Bそのものに置かれた作品を紹介しています。

 ……と、もっともらしいことはどうでもよく、単純にこの豊作な状況からR&Bならではの品格に溢れた歌の魅力を堪能してください! *bounce編集部

 


Avant
時代に目配せしながら〈本気を〉届ける新作!

 

 2000年から2~3年に1枚のペースでアルバムを出してきたアヴァントの2年半ぶりとなる新作『VIII』は、表題が示すように通算8作目。〈クリーンなR・ケリー〉といったイメージの正統派R&Bシンガーぶりは今回もルックス同様変わることがなく、先行披露した“Special”もテナー・ヴォイスで誠実に歌う彼らしいバラードで、まずはファンを安心させた。とはいえ、レトロ・ソウル風の楽曲も歌っていた前作からは時流への対応もより明確になり、そうした目配りは前作収録曲の続編となるアンビエント系のスロウ“Best Friend(Part II)”を収めた今作にも受け継がれている。

AVANT VIII Mo-B/Caroline(2015)

 ほぼ全編でプロデュースを手掛けたのは、ジャスティン・ビーバーアリアナ・グランデなどの仕事で知られるダークチャイルド一派のトラヴィス・セイルズ。特に今回は、冒頭のアップ“Find A Way”やミッド・スロウ“Come Get It”などでのクリス・ブラウントレイ・ソングスあたりを視野に入れた若返りがキモか。「アメリカン・アイドル」の挑戦者でシリーナ・ジョンソンに寵愛を受けたシカゴの男性シンガー、マローンとの“You Know Better”にもそんな気配が漂う。終盤のスロウではバラディアーの本気をふたたび。安定の一枚だ。 *林 剛