mature R&B cells
【特集】R&Bの品格
ブームやトレンドの趨勢はともかく、注目すべき作品はどんどんリリース中!  この季節がよく似合う、成熟したアーバン・ミュージックの真髄を、あなたに

 ということで……bounce2015年12月号の続きです。というか前号の時点で紹介予定だったものが延期してしまったため、ページごと今号に延期した格好になっています。ただ、そのおかげで、間に登場 した大粒の作品たちも併載することができました。自他共に認めるキングからキャリア20年の歌姫、シーンの看板を張るエースたち、それぞれの傑作(ホントに!)が揃ったこの冬のシーンを楽しみましょう! *bounce編集部

★Pt.1 アヴァントのコラムとディスクガイド(1)はこちら
★Pt.2 ブラクストンズのコラムとディスクガイド(2)はこちら
★Pt.3 ベイビーフェイスのコラムとディスクガイド(3)はこちら
★Pt.4 エリック・ベリンジャーのコラムはこちら
★Pt.5 アンジー・ストーンのコラムはこちら
★Pt.6 クリス・ブラウンのコラムはこちら
★Pt.7 R・ケリーのコラムはこちら

 


Monica
情熱的に帰還したモニカの『Code Red』はシーンの緊急事態を告げる!

 20年前、デビュー・シングル“Don't Take It Personal(Just One Of Dem Days)”(95年)と続く“Before You Walk Out Of My Life”が連続でR&Bチャート首位を奪い、弱冠14歳で華々しくシーンに登場したモニカ。当時TLCで一世を風靡していたダラス・オースティン(とクライヴ・デイヴィス)の後ろ盾も強力だったが、ティーンらしからぬディープな歌唱と、洗練されたヴィジュアルは彼女を一気に人気者にした。同世代の好敵手ブランディとのデュエット“The Boy Is Mine”(98年)からは3曲連続でポップ・チャートも制し、その地位を若くして盤石のものにしたのだ。以降も彼女は、主産などで何度かのブランクを設けつつ、マイペースに安定した人気を保ち続けている。

MONICA Code Red RCA/ソニー(2015)

 そんなふうにR&BがR&Bのまま世を席巻した時代を知る彼女だからなのか、このたび登場した3年ぶりのニュー・アルバム『Code Red』の表題には、R&Bや音楽の現状に〈緊急事態〉を告げる危険信号の意が込められているという。ニュアンスはともかく、90年代から2006年代半ばまでのR&Bにどっぷり親しんできたリスナーなら思いを同じくする人も多いのではないか。とはいえ、彼女が単純に業界やマーケットの変化を愚痴るような野暮を選ぶはずもない(そりゃそうだ)。彼女がやるのは、ただストレートに最高のR&Bを送り出すことだけだ。今回の『Code Red』はそんな気概で満たされている。

 リル・ウェインをフィーチャーした先行シングル“Just Right For Me”は、ミラクルズ“Much Better Off”のサンプリングとブーミンなサザン・バウンスを組み合わせた、懐かしくも新しいソウルフルな感触だ。プロデュースを手掛けたポロウ・ダ・ドン(モニカの従兄でもある)はアルバムの総監督も担当。クランクスナップトラップを生んだアトランタで生まれ育ち、ストリートなラッパーとの交流も深いモニカだけに、かねてからド南部バウンスの“Everytime Tha Beat Drop”(2006年)などはお手の物だったが、そのエッジーなビートにオールド・ソウルの甘いエッセンスを色濃く同居させているのが本作の特徴と言えるかもしれない。

 冒頭に置かれた表題曲にはミッシー・エリオットを迎え、シアラあたりを思わせるアトランタ・ベースで駆け抜ける。“Everything To Me”(2010年)や“So Gone”(2003年)とモニカにNo.1ヒットを献上してきたミッシーながら、今回はマイクでのサポートのみ。その代わりにモニカ作品には初登板となるティンバランドが3曲を手掛け、らしさも散りばめながら主役のソウルフルな歌唱に応えるスウィートな手捌きで奉仕している。デンジャとポロウの共同制作した“Deep”も然り、ポップ&オークブルー・ノーツ使いで仕立てた“Alone In Your Heart”も然り、美しく懐の深い歌声と甘く苦いソウルを纏った意匠の織り成す聴き心地は、オーセンティックにして進行形のR&Bそのものだ。後半にはエイコンとの雄大なコラボや余裕のディスコ・ファンク、カントリーなども披露してポテンシャルの高さを示してくれる。つまり彼女がやるのは、ただストレートに最高の作品を送り出すことだけ。そして、これまでのアルバム同様に、『Code Red』でもそれは達成されている。