mature R&B cells
【特集】R&Bの品格
ブームやトレンドの趨勢はともかく、注目すべき作品は次々にリリース中! この季節がよく似合う、成熟したアーバン・ミュージックの真髄を、あなたに

★Pt.1 アヴァントのコラムとディスクガイド(1)はこちら
★Pt.2 ブラクストンズのコラムとディスクガイド(2)はこちら
★Pt.3 ベイビーフェイスのコラムとディスクガイド(3)はこちら
★Pt.5 アンジー・ストーンのコラムはこちら

 


Eric Bellinger
名裏方から、いよいよ表舞台へ……シーズンの変わり目を伝える、絶好のニュー・アルバム!

 すでにスマッシュ・ヒット中の“Focused On You”をチェックして、期待をジワジワ高めていたというR&Bファンは多いことだろう。ソングライターとしての活躍は言うに及ばず、ここ1年ほどでフィーチャリング・シンガーとして名を見る機会もさらに増え、今年に入ってからは帝王リオ・コーエンデフ・ジャムアトランティックの元CEO)が主宰する300エンターテイメントとの契約も伝えられたエリック・ベリンジャー。およそ1年半ぶりとなる彼のセカンド・アルバム『Cuffing Season』は、そのように高まる周囲の期待に余裕で応える充実した作品となっている。

ERIC BELLINGER Cuffing Season YFS/300/Manhattan/LEXINGTON(2015)

 カリフォルニアの出身で、ドゥワップ~アーリー・ソウル時代の偉人であるボビー・デイを祖父に持つエリックは、教会のクワイアで歌い、子供の頃から楽器演奏にも習熟して育ってきた。ある種の音楽エリートといえるかもしれないが、少年時代にAKNUなるヴォーカル・グループでメジャー契約を掴みながらも飼い殺し状態に置かれた経験もあるだけに、ソロ活動を開始してしばらくはミックステープを主戦場に裏方として下積みを続けてきた苦労人でもあるのだ。

 その奮闘が認められて、2010年代に入るとエリックはソングライターやスタジオ・シンガーとして引っ張りだこになっていく。セレーナ・ゴメス&ザ・シーンジャネル・モネイJLSアシャンティジャスティン・ビーバーブランディデヴファンテイジアらとの仕事を重ね、なかでも全英2位の大ヒットを記録したチップマンクの“Champion”(2010年)やアッシャーの“Lemme See”(2012年)はエリックの評価を大きく高めることとなった。また、チップマンク仕事を契機に手合わせしたクリス・ブラウンとの信頼は厚く、2曲がグラミー受賞作『F.A.M.E.』(2011年)に採用されて以来、以降も“Fine China”や“Love More”(2013年)、“New Flame”(2014年)などを共作して、彼の作品には欠かせないソングライターのひとりとなっている。初のオリジナル・アルバム『The Rebirth』を発表した昨年あたりからはキッド・インクゲームセイジ・ザ・ジェミナイといったラッパーの曲でフックを歌う機会を裏方仕事よりも増やしているフシもあり、表舞台でエスタブリッシュされるという夢により近づいているようだ。ただ、例えばこの特集内だけで見てもタイリースイライジャ・ブレイクトレイ・ソングズの作品ではキッチリ仕事をしていたりもする。控えめに言っても、今回の『Cuffing Season』は絶好調なタイミングで登場した作品だということだ。

 前作『The Rebirth』はアンビエント作法に則ったビートを中心に、スクリュー式のメロウ・チューンやメロディックなダンス・ポップまで引き出しの多さをプレゼンするような内容になっていたものだが、今回はLA~ベイエリアの当世流サウンドとなるミニマルなハイフィースナップ系のビートを中心にし、自身の持ち味の一側面にあえてフォーカスしたような印象を受ける。前作リリース時に「今回は俺というアーティストを皆に紹介するという視点で曲を選んだけど、次のアルバムを出すときには、もっと俺自身を出した内容にすると思う」と語っていた通り、もはや自身の振り幅の広さをわざわざ開陳して見せる必要がなくなったのだろう。

 2チェインズマイアを迎えた先述の“Focused On You”はもちろん、ブーシー・バッドアズを迎えたDJマスタード製のソウルフルな“You Can Have The Hoes”、ドープな甘みに溢れた“Overrated”、アイアムスー!との“Viral”など、隙間を活かした今様のヒップホップ・ビートに運ばれるしなやかな歌声は快調そのもの。西海岸の先達モンテル・ジョーダンの“This Is How We Do It”を引用した“Text Threads”、さらに御本家T・ボズを招いたTLCネタの“Creep”といった大ネタ使いもミックステープ世代らしく堂に入ったもので、それでもネタに寄りかかったような作りじゃないのが頼もしい。他にもタンクと渡り合う“Turned Down For You”やスタイリッシュなトラッピン・スロウ“Love Made Me Do It”、チェイスなる女性シンガーと密やかに絡む“Share”など好曲だらけで、オーセンティックな地力も見せつけながらフィニッシュまで硬軟自在だ。輝ける前途を明るく照らす傑作!