INTERVIEW

ベン・ワット、『North Marine Drive』から33年後に何を思う? メランコリーを探し求めた日々と新しいキャリアの幕開けを語る

ベン・ワット『Fever Dream』

Photo by Edward Bishop

 

2014年、名作『North Marine Drive』以来31年ぶりのソロ・アルバム『Hendra』をリリースして話題を呼んだベン・ワット。『North Marine Drive』発表後、公私共にパートナーのトレイシー・ソーンエヴリシング・バット・ザ・ガール(以下EBTG)を結成したワットは、99年に活動休止するまでEBTGに専念。活動休止後は、ディープ・ハウスを主体とした自身のレーベル=バズィン・フライを主宰しながらDJとして活動したが、その間は一枚もソロ・アルバムを出さなかった。そんなワットが、『Hendra』をリリースした意味は大きい。彼は気まぐれでアルバムを出したわけではなく、ふたたび歌うことを決意したのだ。そして、今年4月にリリースされた新作『Fever Dream』はセルフ・プロデュースによって制作され、、前作に続いてバーナード・バトラーが参加。新しいキャリアの幕開けを確信させる素晴らしい内容だ。そんななか、ワットはバンドを伴って来日し、4月10日に開催された〈HOSTESS CLUB Presents SUNDAY SPECIAL〉に参加。そのステージが始まる3時間前に話を訊くことができたが、キャップを目深にかぶった彼は、リラックスした雰囲気のなかで胸の内を率直に語ってくれた。

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BEN WATT Fever Dream Unmade Road/HOSTESS(2016)

 

10年間コンピューターに夢中になって、いまは木や金属の音色、人の声に興味がある 

――『Hendra』が出るまで30年以上待ちましたが、今回はたった2年しか掛かりませんでしたね。

「そうだね(笑)」

――それはいま、あなたのなかで歌いたい欲求が高まっているということでしょうか。

「前作をリリースするにあたっては、いろいろと考えたんだ。また曲を書いて自分で歌うというのは、とても大きな決断だった。DJとして成功していたし、レーベルの運営も上手くいってたからね。でも、歌うと決意したからにはDJは辞めるつもりで、いまオファーはすべて断っているんだ。で、久しぶりに曲を書いて歌ってみたら、自分の核に触れたような気がした。自分が10代の頃に夢中だった音楽を思い出して、その音楽に触れた時の感情が甦ってきたんだ。そしていまは、もっと歌い続けたい、曲を書きたいっていう気持ちが、どんどん湧き上がってきているところさ」

ベン・ワットによる2006年のDJセット

 

――とはいえ、前作は久々のレコーディングということでナーヴァスになったりはしませんでした?

「確かに手探りだったし不安もあった。でも、リリースしてから60公演くらいライヴをこなしてバンドとの信頼関係を築くことができたし、『Hendra』がファンや評論家から高い評価を受けたことで自信がついたよ。そういったことが背中を押してくれて、新作に挑戦する意欲が湧いてきた。だから今回のアルバムは自信を持って挑むことができたんだ」

――そういえばバンドで演奏するのも、あなたにとっては久しぶりのことですね。

「『Hendra』のツアーの時に、バンドのパワーの源が強くなって広がっていくのを感じたんだ。初めは僕とバーナード(・バトラー)の2本のギターでどこまで可能性を拡げられるか、ということを探求していた。そこにドラムとベースが加わって、〈このシンプルな編成で、どれだけドラマティックな世界観を作り上げられるのか〉ということを、この2年間で探求してきたんだ。僕は10年間、ずっとコンピューター、サンプル、プラグインに夢中になって音楽を作ってきた。でも、いま興味があるのは、木や金属(で出来た楽器)の音色や人の声。そういった生の素材を組み合わせるとどういう音が生まれるか、ということなんだ」

――そんななかで、バーナードのギターが果たす役割は大きいですね。バーナードが弾くディストーション・ギターのエモーショナルな響きは、あなたの過去の作品にはなかったものです。いまバーナードのギターを必要としている理由は?

「僕がやることはハッキリしている。それは自分なりの方法でギターを使って曲を書く、ということ。僕の作風は叙情的で、サウンドはとてもクリーンだ。でも、歌詞は容赦なく、ありのままを語り、時としてダークだったりする。そういう歌詞の世界をしっかりドラマ化するために、バーナードのギターが必要なんだ」

『Hendra』収録曲“Spring”

 

いつも美しいメロディーを探しながら、同時にメランコリーやペーソスも探している

――その歌詞についてですが、今回のアルバムで共通するテーマはありますか?

「『Hendra』のツアー中に友人たちと出会って、いろんな人生を知った。離婚をした者もいるし、幸せな結婚を続けている者もいる。あるいは、長い結婚生活を送っていたのに浮気した者もいた。年齢的に両親を亡くした者も多くて、両親の死に対して上手く対処してる者もいれば、乗り越えられない者もいたり。そういう話を訊いて、それが自分のなかで短編小説のような物語に育っていったんだ。だから、ツアーが終って家に戻ってから、そういった話からストーリーを書いてみて、それが今回のアルバム収録曲の半分ぐらいの元になっている。さらに、そういった友人たちの話に触発されて自分の人生も振り返ってみたんだ。最近、僕の両親が2人とも亡くなっていて、義姉も突然他界した。そういう別れがあった一方で、トレイシーとは35年も一緒にいていまでもお互い愛し合っている。子供はなんと18歳になった! もう立派な大人だ。そういった驚きもあって、改めて人と人との関係というものに興味を持った。それで新作の収録曲は、さまざまな人間関係を綴った曲になっているんだ」

トレイシー・ソーンの2010年作『Love And Its Opposite』収録曲“Oh, The Divorces!”。曲名通り離婚(Divorce)をテーマにしたナンバー

 

――アルバムの前半はヘヴィーなタッチで、後半に行くにつれて軽やかになっていきますね。アルバムの流れにもストーリーがあるというか、少しずつ気持ちが解放されていくような構成です。

「アルバムの構成や流れは、僕にとってすごく大事なことなんだ。いまの時代だったら、曲単位で買ったり、アルバムも好きな曲しか聴かない人が多いけど、自分にとってアルバムは起承転結が重要で、最初から通して聴いてほしいものなんだ。だから、今回のアルバムもいろいろ曲順を試してみて、このアルバムの内容を伝えるのに一番良いと思った構成がこれだった。前半では困難を迎えていたり、答えの見つからない苦労を抱えている内容の曲を持ってきて、後半に行くに従って光や希望の要素を持った曲を持ってきた。これまでこういう構成でアルバムを作ったことはなかったけど、そのほうがドラマ性があると思ったんだ」

――確かに人生というドラマを感じました。『North Marine Drive』というアルバムは、とてもナイーヴで無垢なアルバムでしたが、『Hendra』や今回のアルバムはメロウでビターな作品ですね。

「なんといっても、『North Marine Drive』は19歳の時に作った作品で、前作と新作は50代で作ったアルバムだからね(笑)。世界観は大きく変わったと思う。これまで僕は〈自分が何者なのか〉〈いま、どういうことを考えているのか〉ってことを、音楽を通じてありのままに表現してきた。でも、ロック・ミュージシャンの多くは若いままでいたいらしくて、若いフリじゃないけど、若さを守ろうとする。それで20代の時みたいな音楽を作り続けている者もいるけれど、僕は正直に50代の自分が何を考えているのかを、自分の作品で表現したい。そうやって、ありのままの自分を表現することで、聴いてくれる人も共感してくれると思うんだ」

――過去より、いまを見つめていたいと。

「いまの時代って、ノスタルジーに囚われすぎているところがあるんじゃないかな。まるで毎週のように、いろんなバンドが再結成してコンサートを行う。そういうのって、正直言って悲しいよね。喜ぶべきことだと祭り上げられることもあるけど、コンサートの最初の3分ぐらいは〈すごい! まだやってるんだ〉と感動するかもしれないけど、改めて考えてみると、自分もバンドも10年、20年と歳を取ってるのに、昔と同じことをやってると思うと悲しいだろ? 僕はそういうことにまったく魅力を感じないし、トレイシーもそうだ。EBTGも〈再結成しないの?〉っていつも言われるけど、僕らはいまの自分を表現したいんだ。たとえそれを聴いてくれる人、評価してくれる人が少数であってもね。再結成して何千人も観客が来てくれることより、数百人の前でいまの自分を表現したいと思う」

――そんななかで、30年経っても変わらないあなたの歌のエッセンスもあります。メランコリックな叙情性というか……。

「それは僕の歌い方や、表現の仕方に依るところが大きいと思う。ちょうどこの間『North Marine Drive』について、〈Passionate Fragility(情熱的な危うさ)があるよね〉と言ってくれた人がいた。優雅な場面に美しさと悲哀が共存した、すごく日本的な表現だと思ったよ。僕はいつも、ペーソス(哀愁)と歓びが交わる瞬間に興味を持っている。自分がDJする時もそうで、ディープ・ハウスをよくかけていたのもペーソスと昂揚感とが混ざり合った音楽だったから。ギターを弾くときも同じ。僕が音楽を作ると、自然とそういうものが出てくる。いつも美しいコードやメロディーを探しながら、同時にメランコリーやペーソスも探しているんだ」

――〈Passionate Fragility〉ですか。あなたの音楽にぴったりの言葉ですね。ちなみに、前作や新作についてトレイシーさんはどんな感想を?

「〈好きだ〉と言ってくれてるよ。『Hendra』より今回のほうが好きなんだって(笑)」

――それは心強いですね(笑)。

「僕らはお互いを、自分の作品に対する編集者のような存在として尊重し合ってる。だから、作品を作る時、本を書く時でも、曲を書く時でもいいけど、それは各々一人でやる。で、それが出来上がりそうになったところで、相手に意見を求めるんだ。そういった関係性が出来ているから、相手の意見は大切に受け止めて参考にしているよ。だから今回もトレイシーに『Fever Dream』のデモを聴かせたら、2曲ぐらい〈私はどうかと思う〉と彼女が言ったものがあって、その一つは彼女の意見を参考にして変えてみたけど、もう一つは彼女の意見に賛同できなかったからそのまま活かした。というのも、2人はそれぞれ違う世界観を持っているのもわかっているから、決して自分の意見を押し付けたりはしないんだ」

――良い関係を保っているんですね。最後に個人的な質問なのですが、〈North Marine Drive〉という道は実在するのでしょうか。いつか行ってみたいと思っているのですが。

「スカボロー(イギリスのヨークシャー地方の街)に〈マリン・ドライヴ〉という道があって、曲はそこからインスパイアされたんだ。とってもロマンティックな道で、海の側の崖の上を道路が走っていて城もある。実はスカボローの近くの街に〈North Marine Drive〉という道があって、こっちは住宅街の退屈な道でね(笑)。でも、名前はこっちのほうが良いから曲名にしたんだ。だから、行くのなら〈マリン・ドライヴ〉のほうがおすすめだよ」

2014年に公開された“North Marine Drive”のソロ・パフォーマンス  

 

Hostess Club Presents Ben Watt Band feat. Bernard Butler
日時/会場:
2016年9月13日(火)、14日(水) 東京・渋谷WWW X
2016年9月16日(金) 大阪・心斎橋SOMA
2016年9月17日(土) 京都・京都メトロ
料金:7,000円(税込・1D別)
★詳細はこちら

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