INTERVIEW

BEN WATT 『Hendra』(1)

初夏の柔らかな陽射しに誘われるがまま、31年ぶりのドライヴに出掛けよう。切ない感傷も、甘酸っぱい愛おしさも、すべて胸に抱きながら……

BEN WATT 『Hendra』(1)

 ベン・ワットによる31年ぶりのソロ・アルバムと聞いて、前作『North Marine Drive』のような作品を期待した人は多いだろう。僕もそうだ。しかし『Hendra』に収められた全10曲は、そのようでもあり、またそのようでもないと言える。美しくメランコリックでありながら、静かな怒りや強い意思を内に包み込んだロックな曲もあるなど、蒼さや孤独といった言葉だけでは語り尽くせない、さまざまな感情が渦巻く一枚となった。

BEN WATT Hendra Unmade Road/HOSTESS(2014)

 「まず、これはアコースティック・レコードではないんだ。エレキ・ギターもたくさん入っているし、フォーク・ロック・レコードって感じかな。そういう意味では『North Marine Drive』とは似ていない。でも、あの雰囲気、あのスピリットはいまも好きだよ。ライヴでも演奏しているしね。どちらのレコードも凄く素直で誠実。心から語りかけている点は変わりないんだ」。

 それは、ベンがここ10年近くに渡って主宰レーベルから送り出してきたハウス・トラックについても言えること。ジャンルやサウンドのタッチはまったく違うが、彼の音楽を長く聴いてきた人ならすっと馴染むというか、通じ合えるはずだ。

 「うん、通じ合っているっていうのは、正しいと思うよ。でも、ジャンルが違うとか、そういう考え方をするのはやめたほうがいい。音楽をアコースティックかエレクトロニックかと考えるのもそう。フォークダブステップか、とかね。それって、音楽の一般的なアイデアの省略表現みたいなものだから。音楽の本質は感情なんだ。アコースティックでもエレクトロニックでも、感情を通じてリスナーと繋がることができる。俺が好きな音楽は、そのクォリティーを持ったもの。だから俺はそういう音楽をスピンするし、演奏するんだ」。

 ベンの言う〈音楽の本質〉たる感情の起伏は音色や音の強弱、広がり、そして声の調子によって表現されている。そういう意味では正統派のシンガー・ソングライター然としたアルバムと言えるが、エヴリシング・バット・ザ・ガールをはじめ、長きに渡ってダンス・ミュージック界にも身を置いたキャリアと経験により、しっかりと現在の音楽としてフィット。

 「イワン・ピアソンのおかげだろうね。彼は曲を凄く美しくレコーディングしてくれるし、音に3Dのような空間や奥行きも加えてくれる。あと70年代のヴィンテージ・シンセのコレクションを持っていて、アルバムの背景で果てしなくエレクトロニックの雰囲気を漂わせているんだ。その背景が全体のランドスケープを作るのに役立っているんだよ。サブリミナルであり、レコードのテクスチャーを作るうえで大切な要素だね」。

 アルバムには、トレイシー・ソーンの近作にも参加したベルリンのDJ/プロデューサーのイワンに加え、元スウェードバーナード・バトラーピンク・フロイドデヴィッド・ギルモアもゲストに名を連ねている。

 「このアルバムには美しく無気力で漂う感じがある一方、ハードでエッジの効いたロックなテイストも持たせたかったんだ。だからバーナードに頼んで来てもらった。デヴィッド・ギルモアは本当にラッキーだったね(笑)。とあるパーティーで知り合って、彼が俺をスタジオに招いてくれたんだ。最初は冗談だと思っていたよ、だってピンク・フロイドのギタリストだぜ。でも、本当にナイスな人で、俺の作品のためにギターを弾いてくれないかと頼んでみたら快諾してくれたよ」。

 残念ながら妻であるトレイシーの参加はなかった。しかし何よりも、31年の時を経て届けられた『North Marine Drive』に続くアルバムが、またしてもかけがえのない作品となった喜びに、いまはただ浸っていたい。

 

▼関連作品を紹介

左から、ベン・ワットの83年作『North Marine Drive』(Cherry Red)、スウェードの93年作『Suede』(Nude)、デヴィッド・ギルモアの2006年作『On An Island』(Columbia)
※ジャケットをクリックするとTOWER RECORDS ONLINEにジャンプ

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