COLUMN

同時代性と不変の鋭さを併せ持つガレージ・デュオ、キルズ―新たな黄金期迎えつつある比類なき2人の15年を振り返る

2017年冬の〈HCW〉総力特集:第5回

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  • 2017.02.17
Photo by Kenneth Cappello

 

2017年冬の〈Hostess Club Weekender〉(以下、HCW)総力特集、第5回は2月26日(日)のヘッドライナーを務める男女デュオ、キルズを解説。今年でデビュー15周年というヴェテラン・バンドの域に達しつつも、いまなおソリッドな攻撃性を緩めることなく不穏なガレージ・ロックを探求し続ける彼らのキャリアを、音楽ライターの天井潤之介が紐解いた。 *Mikiki編集部

2016年のライヴ映像

 

NYエクスペリメンタルからエレクトロまでを横断する同時代性

2000年代初頭にデビューを飾り、結成から数えるとすでに20年近いキャリアを誇るキルズ。プライマル・スクリームボビー・ギレスピーが見初めた〈血統書〉付きのロック・バンドである彼らは、ジャック・ホワイトアークティック・モンキーズのメンバーら錚々たる同業者からの信頼も厚い。また、ビッグ・ピンクケイジ・ジ・エレファントといった後続の世代からも慕われており、ガール・バンドファット・ホワイト・ファミリーらに代表される、昨今のノイジーでダンサブルな新鋭たちもまた、系譜を辿ればキルズと無縁ではないのかもしれない。

2016年にリリースされた5年ぶりのアルバム『Ash & Ice』は、そんな彼らの集大成にして、どこか初心に立ち返ったようなフレッシュさに溢れるアルバムだった。近年は個々の活動に注力していた2人、ジェイミー・ヒンス(ギター)とアリソン・モシャート(ヴォーカル)がしばしのブランクを経てふたたび集い、キルズとして音楽をやることと改めて向かい合う。特に、同作の収録曲“Heart Of A Dog”はミッド・キャリアを迎えた彼らの円熟を伝えるナンバーで、長年のファンにとってはキルズと出会い直し、また新たなリスナーにとってはキルズを発見できる1曲として推したい。無駄のないスタイリッシュなサウンドは健在で、最近の成熟しきったポップ・ミュージックに慣れた耳にはきっと新鮮に響くはずだ。

2016年作『Ash & Ice』収録曲“ Heart Of A Dog”
 

ストロークスリバティーンズなどと同時期に登場したロックンロール・リヴァイヴァル勢の例に漏れず、ブルースや60年代のガレージ・ロック、NYパンクなどが音楽的なルーツだったキルズ。彼らの存在を際立たせていたのが、ギターとドラム・マシーンというミニマルな編成、そしてライヴではインプロやジャムに没頭してみせるというノイジーでサイケデリックな感覚だった。男女デュオという形態からホワイト・ストライプス、あるいはアリソンのハードボイルドな歌唱から『Rid Of Me』(93年)期のPJハーヴェイと比較されることが多かったが、スーサイドラ・モンテ・ヤング(!)からの影響を公言して憚らなかったその実態は、当時のシーンにおいてかなり異質。むしろ音楽志向的にはブラック・ダイスライアーズといったブルックリンのエクスペリメンタルポスト・パンク勢と近しいものがあった。そういったスタイルはファースト・アルバム『Keep On Your Mean Side』(2003年)で早くも確立され、続く第2作『No Wow』(2005年)では、ダイナソーJrカート・ヴァイルらの作品で知られるエンジニア、ジョン・アグネロの貢献もあり、さらに削ぎ落とされたソリッドで骨太なサウンドを獲得する。

2002年のライヴ映像
2005年作『No Wow』収録曲“Love Is A Deserter”
 

一方で、例えば『No Wow』の際には、ティガシミアン・モバイル・ディスコらが参加した同アルバムのリミックス音源も併せて発表するなど、同時代のダンス・ミュージックやDJカルチャーに対する関心も高かった。サード・アルバム『Midnight Boom』(2008年)では、当時スパンク・ロックの片割れとしてボルティモア・ブレイクスバイレ・ファンキと呼ばれる最新のエレクトロ/ビート・ミュージックを牽引していたトリプルエクスチェンジを共同プロデューサーに迎えている。現在はXLのハウス・プロデューサー/エンジニアとして、ジェイミーXXFKAツイッグススケプタらの制作にも携わる彼とのコラボレーションによって、キルズは低音部やリズム・プロダクションをビルドアップ。ヒップホップやディスコ・パンクのマナーを採り入れたエクレクティックでクロスオーヴァーしたサウンドは、フォールズレイト・オブ・ザ・ピアなど当時台頭していたニュー・エキセントリック/ニューレイヴ勢との共振を窺わせるものだった。

2008年作『Midnight Boom』収録曲“Sour Cherry”

 

デッド・ウェザーでの経験がスケールアップを導き、リニューアルされた感覚へ

続く4作目の『Blood Pressures』(2011年)は、一言で形容するとブルージーなガレージ・パンクのスタイルに回帰した一枚だ。ちなみに、前作『Midnight Boom』の翌年に、アリソンはジャック・ホワイト、ディーン・フェルティータクイーン・オブ・ザ・ストーン・エイジ)、ジャック・ローレンスラカンターズ)とデッド・ウェザーを結成して、2枚のアルバム制作とツアーを経験。そこで殻を破ったかのように力強さを増した彼女の存在感が、『Blood Pressures』では、以前と異なるロックンロール・バンドらしいスケール感を引き出している。

デッド・ウェザーの2009年作『Horehound』収録曲“Treat Me Like Your Mother”
2011年作『Blood Pressures』 収録曲“Future Starts Slow”
 

そして最新作の『Ash & Ice』には、彼らが歩んできた音楽的な軌跡が凝縮。制作前にはジェイミーが手を負傷するアクシデントに見舞われたが(さらにモデルのケイト・モスとの離婚もあった)、それを機に演奏やソングライティングを見つめ直し、そこで改めてキルズの〈ハードコア〉が浮き彫りになっている。ダーティーでロウ、ミニマルでグルーヴィー――まぎれもなくキルズのサウンドながら、同時にデッド・ウェザーをはじめ課外活動からのフィードバックを通じてもたらされた開放感や、キャリアが一巡してリニューアルされたような感覚こそ、現在の彼らを満たしているモードと言っていいだろう。

2016年作『Ash & Ice』収録曲“Whirling Eye”
2016年作『Ash & Ice』収録曲“Impossible Tracks”
 

〈HCW〉でのステージでは、そんな新たなピークを迎えているキルズのパフォーマンスを体験できる絶好のタイミングだ。ニュー・アルバムの『Ash & Ice』からはもちろん、最近のセットリストを見ると初期作からも演奏しているようなので、当日はまさにオールタイム・ベストと言える内容になるだろう。個人的には、サード・アルバム『Midnight Boom』を象徴するバウンシーな“Cheap & Chherful”が聴きたいところだが、果たして……。いずれにせよ、〈HCW〉の直後にはデビュー15周年ツアーを控えているだけに、バンドの状態は相当に仕上がっているはず。くれぐれもお観逃しなきよう。

2008年作『Midnight Boom』収録曲“Cheap & Cheerful”のライヴ映像
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