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【starRoのLos Angeles云々】Vol.10 And the Grammy goes to...グラミー賞候補になって見えた、世界的な音楽の祭典の光と影

皆さんこんにちは! またすっかりご無沙汰してしまいました(このセリフすでに常習化……)。

今年最初の投稿になりますが、まあ年明けからいろいろありました。1月はさっそく日本で〈electrox 2017〉などでプレイ。2月もまた日本に戻って、恒例のSOUND MUSEUM VISIONで行われた〈Trapsoul〉に出演、向井太一くんと作った新しいセレクト・ショップ〈STYLE & PLAY GREAT YARD〉のテーマソング“GREAT YARD”のミュージック・ビデオ撮影などもあって、すでに2回も日本へ。

〈electrox 2017〉でのライヴ
 

あと、日本では初めて地上波のTV番組で取り上げてもらったり(「スッキリ!!」「めざましテレビ」「NEWS ZERO」)、〈Beats by Dr. Dre〉のコマーシャルに出させていただいたりと、音楽以外のところで登場する機会も増えました。

 

音楽周りでは1月末にSoulectionの6周年記念でリリースされたコンピレーション 『Promise Once More』に、最近曲を一緒に作るようになったLAベースのシンガー・ソングライター、カイル・ディオン(Kyle Dion)くんとの共作曲“Time Off”で参加しました。

そ・し・て……2月の目玉イヴェントといえば、やっぱりグラミー賞授賞式でしたね。今回〈ベスト・リミックス・レコーディング〉部門にノミネートされ、もちろん授賞式にも参加してきました。 ということで、予定調和ではありますが、今回のテーマは〈Inside The Grammys 生々しいグラミー・レポート〉です!  僕の視点からグラミー賞の内側を日本の皆さんに暴露していきます(笑)!

さて、先にあんまり触れたくないことから言っておきます。受賞は逃しました(笑)。今回、僕はノミネートされた作品が選考に提出されたことも知らなかったぐらいですから、グラミーの候補になったこと自体、棚からぼた餅みたいな感じでした。なのでもともと期待はしていなかったんですが、授賞式が近付くにつれて〈俺イケんじゃねーの?〉と思ってしまう流れにドンドンなっていきまして、はっきり言って受賞を逃したのはものすごーく悔しかったです。でも今回の結果があったからこそ、自分がこの先音楽でもっと大きな規模で活躍していくために足りないものもはっきりしてきた次第です。

グラミー賞にノミネートされたシルヴァー・レイク・コーラス“Heavy Star Movin’”のstarRoリミックス
 

さて、今回のコラムの構成は、映画で言うと冒頭で自分が死ぬシーンが来て、その主人公の声で〈皆さんはなんで僕がこんな結末になったのか、疑問に思っているでしょう。そう、それは3年前のあの日から始まりました〉みたいなナレーションが入って、昔のシーンに遡る感じです。

さあ皆さん、まず授賞式で自分の名前が呼ばれずに茫然としている、ダサイ僕の顔を浮かべてください。〈あー、俺はなんで受賞なんて期待していたんだろう〉なんて思っています。人生で最大の上げて落とされる体験の始まりは、2016年12月6日の朝、友達の〈グラミーおめでとう〉のツイートからでした。青天の霹靂な状態だったためグラミー賞候補になった実感が湧かず、そのまま2017年に突入します。なにせグラミー協会から正式にお知らせが来たのは発表の2週間後ですから。

しかし2017年に入ると 、途端にグラミー周りがざわついてきました。LAの至るところにグラミー賞の広告が設置され、関連イヴェントがちょこちょこ開催されるようになりました。候補者のインタヴューやQ&Aセッションなども増え、次第にノミニーという実感は湧いてきました。また、これを機にそれまで相手にもされなかった音楽業界の人々が手の平を返したように食事に誘ってきたり、全然色の違うポップ・アーティストのプロデュース依頼が来たり――これまでは自分のやりたい方向に沿って歩いてきた感じがありましたが、気付くと車に乗せられて、運転手は僕のマネージャーなんだけど、分岐点が100mごとに来るので、2人ともどこを走ってるんだかよくわかんなくなってくる、みたいな状況になっていきました。

グラミーQ&Aセッション
 

で、さらに進むとどんどん道が綺麗になってきて、景色もキラキラしてくるんですね。そしてだんだんその景色に慣れて、それまでボコボコの道を走っていた自分が思い出せなくなります。でもそれはstarRoが調子こいてきたというわけではありません(笑)。LA在住のグラミー賞候補者(というか多くがLAに住んでいるので候補者の大部分といっても過言ではない)が集められて食事会が開催されたり、パーティーがあったりで、自分とは違う世界にいると思っていた人たちが普通に視界に入る場所に行くようになり、それまで自分が勝手に作り上げていたファンタシーが徐々に消えていきます。

俺はこいつらと同じぐらいすごいんだということじゃなく、この人たちも同じ人間なんだなっていう。そこで初めて、グラミーの世界に入って見える景色が客観的に、フラットに捉えられるようになりました。言ってみれば、ある程度の才能と十分な努力、そして自分の可能性を閉ざさないためのオープンマインドがあれば、誰でも全然手に届く世界だと思います。

しかしそれと同時に、自分の立場から見て厳しいと言わざるを得ない部分も見えてきました。それはアジア人であるということです。以前の投稿でも触れましたが、クラシックやジャズの世界はテクニカルな部分をより評価するので、わりと人種に偏りがないような気がしますが、僕らのようなダンス・ミュージック、もっと大まかに言うとポップ・ミュージックはアーティストのイメージがより重視されるため、アジア人はびっくりするほどいないです。

前述の候補者食事会には、グラミー協会の人やレコード会社など業界の人々も多く参加しているのですが、そういった人たちも含めてアジア人は3人しかいませんでした(そのうちの一人はカメラマン、もう一人はグラミー協会の方)。白人が7割、黒人が3割、アジア人は数字にもならない感じで(笑)。しかし実際グラミー協会側も、もっとダンス・ミュージック、ポップス周辺でアジア人を増やしていきたいという意向があるようで、僕のような候補者が増えてほしいといろいろなところで言われました。この連載のVol.8でも触れましたが、韓国勢を中心にアメリカのチャートにアジア人がちらほら出てくるようになったので、これからはアジア人にもっとチャンスがあると思います。

候補者食事会にて、新人R&Bシンガー賞候補のギャラント
 

さて、授賞式まで1週間を切ると、いわゆるグラミー・ウィークと呼ばれる期間に突入します。もう街の至る所でグラミーと銘打った無数のパーティーが開催され、僕も毎晩パーティー漬けでした。というか、僕自身も僭越ながらThe Regentという素晴らしい会場でグラミー記念ライヴ・イヴェントを開催させてもらい、本当にたくさんの人にお越しいただきました。そういったイヴェントには、各メディアやレコード会社などのグラミー関連の担当者なんかも来るんですが、なかには僕のマネージャーに〈俺はもうstarRoが獲るってグラミー協会から情報をもらっている〉なんて勝手なことを耳打ちしてくる人が何人もいたんです。もちろん僕もマネージャーもその言葉を鵜呑みにはしませんでしたが、人間ですから、そこでちょっと受賞を意識してしまったのは確かです。

僕のグラミー記念イヴェント
 
某企業主催のグラミー記念パーティー。チェイン・スモーカーがDJ
 

そんな状態で臨んだ授賞式の前日。公式レセプション・パーティーが行われました。巨大なお屋敷のような場所で立食パーティーが開かれ、それまでの関連イヴェント以上に、明らかにミュージシャンじゃない感じの人が会場を占めていました。よく見ると、胸にグラミーの蓄音機マークのバッヂを着けている人がウジャウジャいて、彼らがグラミー協会員だったようです。そして候補者は、会場入りすると公式のメダルが授与され、オリンピックのメダリストのように首から下げて会場をうろちょろすることに。

レセプション・パーティーでメダルを授与
 
メダルはティファニー製、かなり重いです
 

なので会場内は候補者なのかグラミー協会員なのかハッキリとわかるようになっていて、グラミー協会員は候補者を見つけては話しかけるという、ちょっとお見合いパーティーみたいな状態になりました。僕も何十人と協会員に話しかけられたんですが、ご年配の方(おそらく60代ぐらいの方)も多く、会話をしていても音楽にあんまり興味があるように思えません。それもそのはず、グラミー協会員になるというのは、特にエンターテイメントの街・LAではちょっとしたステイタスで、音楽文化の普及に貢献したいという側面よりも、音楽業界に身を置きたいという社交的な側面が強いのです。

前夜のレセプション・パーティー。ご覧の通りご年配の方多し
 

でも、音楽産業はアメリカの一大ビジネス。グラミーのように音楽産業の象徴のような世界になればなるほど、音楽とは関係ない人間がそれを支えている構図を実感しました。基本的に音楽オタクである僕らアーティスト、そんなアーティストをひたすらおだてる社交協会員、そしてその周りに群がってひたすらネットワーキングに没頭するサメのような音楽ビジネスマン――このバラバラな人種が一つの場所に集まり、グラミーを祝っている絵面は、なんとも言えないシュールさです。そして、音楽が好きでたまらない人だけの集合体であるインディーズの世界でずっとやってきた自分は、そのパーティーですっかり疲弊してしまいました(笑)。

そして、なんだかもやもやとした気持ちのまま、いよいよ授賞式当日を迎えます。

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