オ・ヒョク
​Photo by ダソム・ハン

抑制されたエネルギーが音に光を与え、儚くもソウルフルな歌声がこのうえない叙情性を立ち上げる――大人との境界線上で彷徨する〈23歳〉の物語を携え、韓国の新鋭がいよいよ日本へ本格上陸!

過去の継承と新たな試み

 今にも壊れてしまいそうな繊細さとソウル・シンガー然とした渋みを併せ持つヴォーカリスト、オ・ヒョクの歌声。英米のインディー・ロックやR&B、ソウルなどさまざまなエッセンスが溶け合ったしなやかなバンド・アンサンブル。そして、不安や苦しみをそのまま内包した歌詞。2014年に結成され、ミニ・アルバム『20』でデビューを飾ったHYUKOH(ヒョゴ)は、そこからわずか数年のうちに韓国本国で社会現象も巻き起こすほどの人気を獲得した、韓国音楽界のブライテスト・ホープだ。

 その一方で、海外でもたびたびライヴを決行。2016年には〈SUMMER SONIC〉への出演も果たしたほか、これまでの来日公演も軒並みソールドアウトを記録するなど、今やインターナショナルなバンドへと成長しつつある。

HYUKOH 『23』 HIGHGRND/トイズファクトリー(2017)

 そんな彼らの全貌が、ファースト・フル・アルバム『23』でいよいよあきらかとなる。制作にあたってプレッシャーはありました?――そう尋ねると、4人は「ないですね(笑)」と即答。フロントマンであるオ・ヒョク(ヴォーカル/ギター)はこう続ける。

 「今回のアルバムを作るにあたって、どのような方向性を打ち出すか少し悩んだのは確かですね。でも、ヒョゴにとっては初めてのフル・アルバムだし、過去発表した2枚のミニ・アルバムのムードやエモーションを受け継いだ作品にしようと。そのうえで音楽的にはさまざまなアイデアにもトライしてみようと考えていました」(オ・ヒョク)。

イム・ドンゴン
Photo by ダソム・ハン

 もともとはヒョクのソロ・プロジェクトとして制作され、彼自身の内省的な一面が色濃く現れた『20』、初めて4人全員でレコーディングが行われた2枚目のミニ・アルバム『22』(2015年)という過去2作品に比べ、今作はよりバンドとしてのダイナミクスが打ち出されているところに特徴がある。

 「海外でライヴを重ねるなかで得られたフィードバックがいい形で作用しているのかも」(イム・ヒョンジェ、ギター)。

 「今回のアルバムは『22』を作ったときよりもたくさんの時間を費やしたんです。そのぶんトライできることも多かったし、楽器や音楽についての知識を蓄えることもできました。サウンドやダイナミクスについても前作以上に意識しましたね」(イム・ドンゴン、ベース)。

 ヒョゴのメンバーは全員93年生まれ。4人とも欧米のインディー・ロックとUSヒップホップ、70年代のヴィンテージ・ロックを同じように楽しみ、音楽に目覚めたときにはすでにYouTubeであらゆる音楽にアクセスできる環境が整っていた世代だ。そのため、「今回はとにかく自分たちが好きな音楽をやろう、特定のジャンルにこだわることなく、僕らがおもしろいと思っていることをやろう、そういう話はしましたね」(イ・インウ、ドラムス)という本作のなかにも多種多様な要素が花開いている。壮大なスケール感を持つ“Burning youth”や精神的に行き詰まったヒョクが息抜きのために訪れた東京での体験を綴った“Tokyo Inn”には、ライヴ映えしそうな骨太のグルーヴを搭載。叙情的な幕開けからドラマティックに展開していく壮大なバラード“TOMBOY”には後期ビートルズ的なアレンジが施されているほか(この曲はソフィー・マルソー主演のフランス映画『ラ・ブ-ム』を観て感銘を受けたヒョクが「僕も素敵なラヴソングを作りたくなって」書いたという)、やさぐれたブルース感が今までのヒョゴにはない味わいを醸し出す“Jesus lived in a motel room”はグレゴリオ聖歌を思わせるイントロで幕を開けるなど、さまざまなアイデアが形にされている。

 「やりたい音楽が多すぎて、ひとつに決めることができないんです。常にいろんな音楽をやっていきたいと思ってるし、ひとつの方向性だけでやっていくというのは僕らには無理かも(笑)」(オ・ヒョク)。