写真提供/COTTON CLUB 撮影/ 米田泰久

 

初心者にもジャズの面白さを知ってもらうためにも大事なのはメロディー!

 マックスウェルからキース・リチャーズまで100枚を超える作品に参加し、ツアーではコモン、ビヨンセ、ジェイ・Z、エミネム、ディアンジェロらと共演してきたトランぺッター、キーヨン・ハロルド。最新作『The Mugician』も素晴らしかった彼が来日公演を行ったので、話を聞いてきた。まずは、ロバート・グラスパー、クリス・デイヴ、テラス・マーティンらがキーヨンの元に集結した『The Mugician』の話から。

KEYON HARROLD The Mugician Legacy/ソニー(2017)

 「前作から『The Mugician』まで8年かかったけど、それは自分らしい音楽を表現するために必要な時間だった。僕はストレートアヘッドなジャズも大好きで、ビリー・ハーパーやチャールズ・トリヴァー、エリック・ホワイトとかとプレイするのも楽しいんだけど、一方でジャズだけの人間ではないと思っている。ヒップホップもR&Bもゴスペルもソウルも好きだし、レディオヘッドやビョークも聴くから、そういう自分を反映した作品を作ろうと思った。トランスフォーマーみたいに色々な部品が合わさってひとつの作品ができあがる。『The Mugician』はそういう作品なんだ」

 確かに『The Mugician』はレゲエ/ダブやヒップホップからの影響も滲ませる、雑多で乱脈な音楽性が特徴だ。キーヨン自身がトラック・メイキングを行い、ヴォーカルも披露。そして、人懐っこいメロディーが中心にあるのも特色と言える。彼の音楽は、初めてジャズを聴く人にも自信をもって薦めたくなるような親しみやすい響きがあるのだ。

 「その通りだと思うね。僕は小難しくない音楽が好きなんだ。なによりもメロディーを大事にしているしね。もちろんジャズならではのインプロヴィゼーションというのも面白いんだけど、やたらと弾きまくってお客さんが置いて行かれるのは好きじゃない。どんな人が聴いても分かるメロディーのある音楽がやりたいんだ。かといって、スムース・ジャズみたいなものともまったく違っていて、あくまでも深みや奥行きはあるものを作りたい。コルトレーンやファッツ・ナヴァロ、スコット・ジョプリンなどが築き上げたジャズの威厳や品格を損なうことなく、初めてジャズを聴く人が〈ジャズって面白いんだ!〉って思ってもらえるような音楽を作りたいなと思うよ」

 来日公演には一部で話題のギタリスト、ニア・フェルダーも帯同し、アグレッシヴなサウンドを聴かせてくれた。次回作でニアとレコーディングすることはあり得るか?と尋ねると、「そうなるかもね。ニアは素晴らしい。グランジやロックの要素を僕のバンドに持ち込んでくれる貴重な存在なんだ」という答えが返ってきた。早くも次作が楽しみである。