INTERVIEW

すばらしかインタヴュー―東京ハードボイルド・ヒッピーの美学

すばらしかインタヴュー―東京ハードボイルド・ヒッピーの美学

有象無象を孕んだ孤独と哀愁入り混じる日本語ロック・バンド、すばらしか。昨年リリースした初の全国流通盤『灰になろう』からわずか8か月。俺たちに明日はないとばかりに早くも初のフル・アルバムとなる2作目が届いた。その名も『二枚目』。なんて素っ気なくって思い切りのいいタイトルだろう。かつての〈シティ・ポップ〉の盛り上がりが沈静化し再びトレンドなき現在のインディー・シーン、中でも多様な芽吹きに混沌とする東京のライヴハウス・シーンに、ふてぶてしく登場した彼ら。73年にURCからリリースされたブルース・ロックの隠れた名盤と言われれば素直に納得してしまうし、2010年代の後半を象徴するニューカマーと言われればその大器を予感させてしまう時代不詳のサウンド。同時代で言えば台風クラブや本日休演、Wanna-Gonnaらと共に原典から今現在に一本筋を通す日本語ロック・ルネッサンスの胎動と言える存在だ。

Mikikiでは昨年『灰になろう』での登場時にレヴューにて彼らがシーンに与えた衝撃についてを紐解いたが、本作では福田喜充(ギター/ヴォーカル)、加藤寛之(ベース)へのインタヴューでついに全貌公開といこうじゃないか。あれこれ説明するのは野暮だと言わんばかりでありながら、大事にしている部分には丁寧に言葉を尽くすところに垣間見える彼らの美学。東京ハードボイルド・ヒッピー、すばらしか。さぁ、明日に向って撃て!

すばらしか 二枚目 Pヴァイン(2018)

(左から)福田喜充、加藤寛之

 

やりたかったのは〈音楽〉で、強いて言うならブルースやレゲエとか色んな要素をロックをベースにやるイメージ

――まず、すばらしかはどういう経緯で結成したのでしょうか?

加藤寛之「自分と喜充は大学が一緒なんですけど、彼がバンドをやるということで集まったメンバーです。それで2015年の末頃に初めてライヴをしました」

福田喜充「元々やっていたバンドが活動休止してしまって、自分の作った曲を演奏するためのバンドを新しく組もうと、まずナカジ(中嶋優樹、ドラムス)、と加藤に声をかけて3人で始まりました」

――福田さんはその時どんな音楽をやろうと思っていたのでしょうか?

福田「とにかく自分の演奏したい曲を作って、みんなでやろうというノリです。まぁやりたかったのは〈音楽〉で、強いて言うならブルース、レゲエ、ファンク、ソウル、ジャズ、そういう色んな要素をロックをベースにやるイメージ」

――加藤さんは福田さんの作った曲を初めて聴いた時の印象はどうでした?

加藤「最初は前作に収録されている“灰になろう”を喜充が宅録で作ったものを聴かせてもらったんです。ドラムだけ違う人でそれ以外は全部喜充が演奏していて、まずミックスが今っぽくなくていいなぁって思いました。もちろんサウンドとか歌詞も変な部分があってすごくよかった」

2017年作『灰になろう』タイトル・トラック
 

――では、林祐輔さん(キーボード)を呼んだのは?

加藤「林は元々ソロでライヴをやっていて、そのギターを弾いてたのが喜充だったんですよ」

福田「自分がギターでナカジがドラムで。そのバンド形式では次第にやらなくなったんですけど、林はその後も一人でずっとやってて、自分がギターをたまに手伝っていました。その頃すばらしかのほうではキーボードを入れたいなと思っていて、色んな人とセッションしていたんです。今はBullsxxtの沼澤成毅くんとかWanna-Gonnaの小口健太郎くんともやったりして。でもそれぞれバンドがあって忙しいからだめになったんですが、林は仕事もしてないし暇そうだったんで」

(真ん中左から)林祐輔、中嶋優樹
 

――そこから2017年2月に自主制作音源として『High Ni Na Low EP』を作って、それが新録のカヴァー曲とライヴ音源を追加した『灰になろう』として同年の7月に全国流通されました。その反響や手応えはありました?

福田「〈フジロック〉に呼ばれたりとかはなかったし……ラジオとかどっかで聴いてくれる人がいるかと思うとちょっとウルっとはしますけど、実感はないですね」

――ライヴに来る人が増えたり、交友が広がったわけでもない。

福田「ライヴもまだまだその時々でだいぶムラがあるし。加藤は色んな人と喋っているほうだけど、なかなかとっつきづらい、話しかけづらいバンドだと思うので(笑)。まぁ仲間と遊んでるって感覚は変わりませんね」

――加藤さんはJappersのサポートもしていたり他の活動もありますもんね。

加藤「自分も前から知り合いのバンドマンがたくさんいるので、その人たちと喋るくらいです。だから親が一番大きな反響かもしれません。CDを出すなんて、親世代となると突拍子のないことってイメージがあるので。親も音楽が好きなので嬉しかったと思います」

福田「確かに。完全に諦めてくれたみたいな感じはあるね」

 

世界観のベースになっているものはあしたのジョー。それですべて言えちゃう

――『灰になろう』から本作『二枚目』のリリースまでは8か月となりますが、ハイペースですよね。

福田「いや、自分の中ではすごく長かった。『灰になろう』はライヴでやっていた曲の集まりだったけど、ほかにライヴでは再現できない、レコーディングで光るだろうと思っていた曲もあって。“試してみたい”“いい人どまりの俺と僕”“嘘は魔法”“悲しみなんてしょせん”とか、入っている曲の半分くらいはそういう前からあったもので、それを早く形にしたかった」

加藤「“悲しみなんてしょせん”なんてライヴでやったことないし、レコーディング用に練っていって構成も体に馴染みきっていないまま、一発で録るっていうのは初めてでした」

――全体のトータル性を意識したりコンセプトを設けたりはしましたか?

福田「ないです。アルバムっていうフォーマットで出しただけの作品集って感覚ですね。曲の幅も広いし統一感は出せないんで、そこは考えずにやりました」

――前作は全曲が福田さんによる作詞・作曲でしたが、本作には林さんによる“嘘は魔法”が収録されていて、ヴォーカルも取られていますね。

加藤「この曲が一番新しい曲なんですよ。元々林はソングライターなので、ヴォーカルへの意識は異常に高くって、今もヴォーカル録りの時だけ気合が違うっていうか」

福田「自分は今作の中でも気に入っているほうですね。耳に残りやすくって、一度聴いたら口ずさんでしまう。林はこれまでもスタジオに入るときにめちゃめちゃ曲を出してきてたんですけど、今回、自分がパソコンを持っていないんで彼のMacを借りてミックスしてて。それでiTunesを見たら林のボイスメモが300個くらい入っていて(笑)。駅の雑踏の中で録ったらしい鼻歌がすごい数保存してあるんですよ。〈祭りだ 花見だ わっしょいわっしょい〉とかって歌が(笑)。まぁおもしろいやつですけど、気持ち悪い人ですね」

――これまで何曲もバンドに持ち込んでいた林さんにとって、“嘘が魔法”が入ったのは待望かもしれませんね。

加藤「確かに彼にとっては待望という言葉がぴったりかもしれません。でもこの曲は彼の癖がしっかり出ていて、ポップだし構成も練られているし、いい曲ですよ」

福田「シンプルだしね。またアルバムの中でもほかの曲とはちょっとテイストが違うんですよ。この曲だけギターの音がなくてキーボードを2つ入れている。またリズムボックスを入れてスライ&ザ・ファミリー・ストーンを意識したり、アルバムの中でも一番リズムに気を使った曲です」

――確かに〈嘘は魔法~〉と繰り返す中毒性のあるメロディーで、福田さんの曲とは少し位相が違ってアルバムの中でいいフックになっていますよね。福田さんの作った曲に話を移しますが、すばらしかは歌詞も印象的で。一言で言うならば〈ハードボイルド〉なんですよね。登場する男は孤高で、どこか哀愁がある。

福田「ハードボイルドというのは嬉しい言葉ですね。僕はブルースの要素は常に大事にしていたくって、そこに今の日本人の忘れてしまった心が絶対あると思うんです。70年代のドラマとかで描かれたマインド……その頃まではみんな持っていた〈夕陽感〉というか、負けの美学というとダサいけど、勝てない弱さの美しさ。そういうものが好きなのかもしれないです。アンチヒーロー的なイメージかな」

――具体的な映画やドラマ、音楽で影響を受けたものはありますか?

福田「アメリカン・ニューシネマとかそういう要素が多いじゃないですか。日本のドラマとかにしても、今tvk(テレビ神奈川)で『傷だらけの天使』の再放送をやってて。好きだな、ああいう世界観」

――前作『灰になろう』でカヴァーした曲は、正しくショーケン(萩原健一)の“お元気ですか”ですしね。

福田「あと音楽の歌詞で言うと、例えばスライの“If You Want Me To Stay”(73年作『Fresh』)。自分は詞の対訳も結構見るんですけど、まさにハートボイルドなんですよ。これは絶対書けねぇと思う。女を振る男の話なんですけど、男の中の男という雰囲気を感じちゃいますね」

加藤「喜充の詞は一人称か三人称なのかが曖昧な感じなんですよね。〈僕〉や〈君〉も出てきますけど、どっか他人行儀っぽいところもあって。今の音楽は結構過ぎ去りし日々を描いた、自分が主人公になっている詞が多いと思っているので、こんな冷めた目線とも少し違う、一枚フィルターを通したような歌詞はあんまりないと思います」

――確かに他人行儀な感じはするけど客観的に情景を描いているのに徹しているわけじゃなくって、どこかに熱を秘めている感じもする。そこがハードボイルドに感じるのかもしれません。

福田「そういう感情は今の人にとっては古臭いというかダサイと思うのかな。でもなんかそういう〈美学〉っていうものが今の時代、消えてしまっている気がします。そうだ、今思い出したけど、自分の世界観のベースになっているものは〈あしたのジョー〉なんですよ。それですべて言えちゃうと思います」

――〈あしたのジョー〉! それをインスピレーションに置いているバンドはそりゃ今いないですよ!

福田「〈あしたのジョー〉の世界観って、戦争が終わって日本が貧乏だった時代に生まれた世代に、学生運動や高度経済成長とか激動の時代を生き抜いていくんだという価値観を与えていたと思うんですよ。それでアメリカでも60~70年代以降にニューシネマとかそういう一種の文化が生まれていて、今の僕らの代まで伝わっている。そういうものに影響を受けていますね」

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