INTERVIEW

山下洋輔『30光年の浮遊』 30年の時を超えた、魂の浮遊

山下洋輔『30光年の浮遊』 30年の時を超えた、魂の浮遊

30年の時を超えた、魂の浮遊

 山下洋輔のニューヨーク・トリオが結成30周年を迎えた。山下の長いキャリアの中で、もっとも継続したパーマネント・グループで、山下は「仲間であり、家族も同様。彼らがいるから、自分は、クラシック、ビッグバンドといろいろなことにチャレンジできる」と語る。1985年のニューオリンズからニューヨークまで、ジャズの進化の道程をたどるツアーの最終地点だったニューヨークのジャズ・クラブ “スウィート・ベイジル”での好評を博したソロ・ピアノ・ライヴから3年後、山下へ、ギル・エヴァンス(p,kb,arr)の急逝で空いた月曜日の夜、2晩の出演オファーがあった。1983年に長年行動を共にした、レギュラー・トリオを解散した山下は、ソロ・ピアノ、日本からメンバーを招集ということも考えたが、アメリカで1から挑戦してみようと決意。ニューヨークのミュージシャンと組んだ、オーソドックスなピアノ・トリオで勝負をかけた。当時、山下のニューヨークでのコーディネーターを務めていたリチャード・オコンの推薦で、ヴェテラン・ベーシスト、セシル・マクビーと、若手ながらセシル・テイラー(p)と共演しているフェローン・アクラフ(ds)を起用する。2人ともヨーロッパ・ツアーのフェスティバルで顔を合わせたことはあったが、初めての共演だった。意気投合した3人の2日間4ステージの客席は埋まり、辛口で知られるニューヨーク・タイムス紙からも高い評価を受けた。そしてスウィート・ベイジルのオーナー、ホルスト・レオポルトから、翌年の5月の1週目の火曜から日曜の夜までのレギュラー枠の出演を依頼された。以来、90年代は5月に6日間のスウィート・ベイジル出演の後、新作をレコーディングし、秋にアルバム・リリースとトリオの日本ツアーがルーティーンとなった。1988年9月からニューヨークに住んでいた筆者も、毎年の山下トリオのパフォーマンスを楽しみにし、撮影やインタヴューのチャンスをいただいた。

 1988年当時、山下はこのトリオが30年も続くとは思いもしなかったようだ。最初は、オーソドックスなスタイルで演奏していた山下だが、得意の肘打ちや、ワイルドなプレイを盛り込むと、2人も共鳴してさらにプレイが過激になっていったという。「毎回ギグとレコーディングが終わると、3人でニコニコできた。だからこんなに長く続いているのだと思う」と山下は振り返る。チャールス・ロイド(ts,fl)・クァルテットの一員として60年代にデビューし、70年代のスピリチュアル・ジャズの重要アーティストであるセシル・マクビーは「洋輔のプレイには、ソウルが込められている」と絶賛した。山下も2人のサウンドを聴くのが、この上なく気持ちいいと言う。ジョー・ロバーノ(ts)や、ラヴィ・コルトレーン(ts,ss)らのゲスト参加のあとは、3人の結束が固くなり演奏の自由度がさらに拡大した。

 2001年にスウィート・ベイジルが閉店すると、春にニューヨーク、秋は日本というペースは終焉した。山下の活動は、さらに多彩に広がりながら、二年に一度は必ずニューヨーク・トリオでツアーを行い、アルバムをリリースして来た。山下にとってニューヨーク・トリオは、演奏活動の核であり、帰るべきホームのようなかけがえのない存在だ。

山下洋輔 30光年の浮遊 ユニバーサル(2018)

 25周年の記念アルバムである『グランディオーソ』から5年ぶりのアルバムである本作『30光年の浮遊』には、《ドバラダ2018》、《チャタリング》、《ワン・フォー・T》といった山下のセルフ・カヴァーも含まれる。愛してやまない猫に取り憑かれて作曲した《ブルー・キャット》も秀逸だ。余裕しゃくしゃくの円熟の境地と、30年前と変わらないスリリングさが混在するアルバムである。10月下旬からは、3年ぶりのニューヨーク・トリオの日本ツアーが始まる。「常に覚悟を持ってその時々に浮遊している」と山下は、このトリオを表現する。山下と、マクビー、アクラフの確信を持った浮遊は、まだまだ終わらない。

 


山下洋輔 (Yosuke Yamashita)
1942年東京生まれ。ジャズ・ピアニスト。1969年山下洋輔トリオを結成し、フリー・フォームのエネルギッシュな演奏でジャズ界に衝撃を与える。 国内外のジャズ・ミュージシャンはもとより、和太鼓やオーケストラとの共演などを積極的に行ない、88年にはセシル・マクビー(b)フェローン・アクラフ(ds)と山下洋輔ニューヨーク・トリオを結成。99年芸術選奨文部大臣賞、03年紫綬褒章、12年旭日小綬章受章。国立音楽大学招聘教授。多数の著書を持つエッセイストとしても知られる。

 


LIVE INFORMATION

山下洋輔スペシャル・ビッグバンド・コンサート2018
○7/13(金)18:30開演 赤坂・サントリーホール
○7/22(日)16:00開演 所沢・ミューズ アークホール

霧島国際音楽祭
○7/27(金)19:00開演 鹿児島・宝山ホール

ニューヨーク・トリオCD発売記念ツアー
○11/2(金)18:30開演 東京文化会館小ホール

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