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レックス・オレンジ・カウンティを知るための5項目。ベニー・シングスからフランク・オーシャンまで虜にする神童の秘密とは?

レックス・オレンジ・カウンティ『Apricot Princess』

レックス・オレンジ・カウンティを知るための5項目。ベニー・シングスからフランク・オーシャンまで虜にする神童の秘密とは?

20歳を迎えたばかりの神童、レックス・オレンジ・カウンティ

2016年の11月。レックス・オレンジ・カウンティことアレックス・オコナーによるシングル“UNO”をSoundCloudで偶然耳にして、〈いい曲だなー〉と惚れ惚れしたのが思い出される。2分52秒の短いポップ・ソングには、ありったけの可能性が詰まっていた。

 

渋い声色と歌い回しはジェイミー・カラムやソンドレ・ラルケ、ヒップホップを消化したソングライティングはベニー・シングスを想起させるもの。一見レトロな音作りのなかには瑞々しいアイデアが内包されており、端的にいえば出来過ぎだった。何者かと調べたら、98年生まれのイギリス人だという(当時18歳!)。ヒップホップ/グライム全盛のご時世に、同国では久しく途絶えていた本格派シンガー・ソングライターの台頭は、随分フレッシュに感じられたものだ。

しかし、彼はそんな第一印象すら上回るほどの〈何か〉を秘めていたのだろう。翌年にはタイラー・ザ・クリエイターとのコラボレーションで脚光を浴びると、同年の夏にはフランク・オーシャンがライヴ・バンドのメンバーに大抜擢し、新人リスト〈BBC Sound Of 2018〉では2位に選出された。こうして若手アーティストの筆頭株となった彼は、理想的すぎるタイミングで〈SUMMER SONIC〉での初来日が決定。それに伴い、昨年発表されたセカンド・アルバム『Apricot Princess』の日本盤がリリースされた。

ロック〜ジャズ〜ラップと地殻変動が進むロンドン・シーンの活況ぶりが認知されだした2018年のいま、レックス・オレンジ・カウンティについて語るべきことは以前より多くなったはず。SSWとしての歩み、ロンドン・シーンとの繋がり、数々のコラボを軸に、20歳を迎えたばかりの神童を掘り下げてみたい。

REX ORANGE COUNTY Apricot Princess Rex Orange County/BEAT(2018)

1. 圧倒的に自由で、なおかつオーセンティックなソングライティング

米Fader誌が〈ポスト・ジャンル〉と形容するように、レックス・オレンジ・カウンティの音楽性は古き良きブルー・アイド・ソウルをベースとしながら、その枠に留まらないハイブリッドなものだ。スティーヴィー・ワンダーが持つ多様性を意識し、各曲に個性を持たせたかったという『Apricot Princess』では、奔放かつジェントルなミュージシャンシップが遺憾なく発揮されている。

アレックスはきっと、ストーリー性に富んだソングライティングを得意にしているのだろう。オープナーのタイトル曲からして、劇伴風のオーケストラが鳴り響いたかと思えば、中盤では軽妙なピアノ・ソウルとなり、そこから女性コーラスを挟んで、サルソウル風にドライヴしていく三段仕掛け。続く“Television / So Far So Good”も、鍵盤とギターが火花を散らすインディー・ロックから、後半ではシンセやコーラスを駆使したスロウな展開に突入する二部構成をとっている。

『Apricot Princess』収録曲“Apricot Princess”
 

かと思えば、“Nothing”と“Sycamore Girl”では、それぞれ男女シンガーを迎えて艶やかでソウルフルなバラードを披露。こういったメロウな楽曲もお手の物で、“Waiting Room”では、フランク・オーシャンが好んで使いそうな音声処理したコーラスが配置されている(実際、この曲にはフランク・オーシャンのプロデュースも手掛けたジェフ・クレインマンとマイケル・ウザウウルが参加している)。

そして、ラストを飾る“Happiness”は、ピアノ弾き語りでしっとり聞かせるナンバー。これでもかと多様性をアピールしてきたアルバムの最後に、彼はとびきりポップなメロディーで〈家族を愛するように僕を愛してほしい〉と普遍的な愛を歌う。ストレートにキレがあってこそ変化球が活きると言わんばかりに、極上のポップスを最後に用意してみせる懐の深さ。このアルバムを発表した時、彼はまだ10代だったわけだから恐れ入る。

『Apricot Princess』収録曲“Waiting Room”
 

このように、作曲/アレンジの両面で越境的なセンスを発揮し、アメリカの最新モードとも共振しているわけだが、どの曲でもメロディーの強度にこだわり、普遍的なポップスに昇華させているのは特筆すべき点だろう。圧倒的に自由で、なおかつオーセンティック。そのバランス感覚はどのように育まれたのか。

 

2. キング・クルールら鋭才たちを輩出するブリット・スクール出身

アレックス・オコナーは、ロンドンから電車で1時間ほど離れたハスルミアの出身。幼少期には歌のレッスンを受け、クイーンやアバ、ミュージカル音楽を通じてメロディーやハーモニーを学んだそうだが(彼のシンフォニックで凝った曲展開は、この辺りの影響もありそうだ)、その一方で夢中になったのがドラム。グリーン・デイやブリンク182を聴いては、ひたすら叩きまくっていたそうだ。

そうやってドラムの腕を磨くうち、16歳でアデルやエイミー・ワインハウスを輩出したブリット・スクールに入学。そこでは理論も含めた音楽の勉強をしながら、アフリカのジャズからアークティック・モンキーズの楽曲まで、学友とのセッションで引っ張りだことなる。しかし、彼の興味は曲作りへと移っていき、ピアノやギターを手に取り、Logicの扱い方も習得していった。

ソングライターとして大成したいまなら驚くほどの話でもないのだろうが、ドラムを学びにきたのに方針転換するとなったら、ひと悶着ぐらいありそうなものだ。そのあたりは、チャレンジに寛容な学校のムードも後押しになったらしい。「ブリット・スクールはカリキュラムが充実しているし、強制的に生徒をミュージシャンにさせようとするような学校ではなくて、生徒の意思を尊重してくれる」とアレックスは述懐している。

その言葉を裏付けるように、WIRED.jpに掲載された「やさしさのクリエイティヴ:アデルを育てた学校で、彼らが学ぶこと」の記事中で、ブリット・スクール校長のスチュワート・ワーデンはリベラルな校風について語っている。そういった風通しの良さが生徒たちの創作の後押しとなっているのは想像に難くない。

近年のブリット・スクールは、アレックスのほかにも、94年生まれのキング・クルールを筆頭に、ジェイミー・アイザック、ロイル・カーナー、コスモ・パイク、ピューマ・ブルーといった新鋭たちを次々と送り出している。2011年にキング・クルールが17歳でデビューしたときは、彼だけが別格でイレギュラーな存在のように映ったが、いまではそれぞれが記名性の強いサウンドを獲得。UKジャズ・シーンと隣り合わせに、新しい〈うた〉を提示するサウス・ロンドンの一大潮流となっている。

ジェイミー・アイザックの2018年作『(04:30)Idler』収録曲“Maybe”
 

とはいえ、生まれも育ちもサウス・ロンドンで、夜の空気感とエッジーな実験精神を備える彼らと、郊外のハスルミアで幼少期を過ごしたアレックスの音楽を、地域性だけで一括りにするのは強引すぎる気がしないでもない。その一方で、アレックスが後述するUS勢に求められている最大の要因は、ローファイを通過した歌心にあるのではないか、とも思うのだ。

 

3. マック・デマルコへのUKからの回答? US勢に求められるローファイを通過した歌心

2015年の夏、アレックスは最初のアルバム『bcos u will never b free』を発表している。宅録によるサウンドは、『Apricot Princess』に比べると実にチープなもの。しかし、ローファイゆえの危うさ、若さゆえの怒りと悲しみ、そして当時17歳とは思えぬ端正なソングライティングが、単なる習作以上のスペシャルを生み出している。

Hunger Magazineは同作を〈エリオット・スミスとジャネット・ジャクソンの共演〉と喩えているが、個人的には〈マック・デマルコに対するUKからの回答〉とでも位置付けたいところだ。そんな『bcos u will never b free』を聴いて、いち早くラヴ・コールを送ったのがタイラー・ザ・クリエイターだった。

SoundCloud経由で惚れ込んだタイラーは、アレックスをLAまで招聘し、2017年作『Flower Boy』で2曲にフィーチャー。崩れ落ちそうな音像に支えられながら、アンニュイな声で少年のように歌い上げるアレックスは、かつてなくリリカルなタイラーの世界観ともマッチしていた。

タイラー・ザ・クリエイターの2017年作『Flower Boy』収録曲、レックス・オレンジ・カウンティをフィーチャーした“Boredom”
 

そして、盟友との共演も当然耳にしていたのであろう。同年の夏に、フランク・オーシャンが自身のライヴ・バンドにアレックスを招いたのは、ある意味で自然な流れだった。アレックスのほうも以前からファンだったらしく、フランク・オーシャンからの影響を、アレックスは『Apricot Princess』収録の“Untitled”で自分のものにしている。揺れ動くギターと寂しげな口笛、祈るような歌というミニマムな演奏で、行間から深い悲しみが滲み出ている。

 

4. ベニー・シングスやランディ・ニューマンらとの共演から見えるポップスへの矜持

その後は、スケプタやバッドバッドノットグッドとも同じステージに立ち、トゥー・インチ・パンチやベニー・ブランコといったヒット・プロデューサーも熱視線を送るなど、すっかり時の人となったアレックス。最近ではピーター・コットンテールの楽曲“Forever Always”を通じて、チャンス・ザ・ラッパーと共演したのも大きな話題となった。

ピーター・コットンテールの2018年のシングル“Forever Always”
 

しかし、極め付けはベニー・シングスやランディ・ニューマンとの共演曲だろう。知名度が上昇し、コラボ相手をある程度リクエストできる立場になったとき、真っ先に声を掛けたのがこの両者だったというのはグッとくる。

アレックスのロールモデルともいえるベニーとの共演曲“Loving Is Easy”は、〈愛することは簡単さ〉と繰り返すキャッチーなポップス。両者のキャリアを振り返っても、ここまでイージーゴーイングな楽曲はなかったはずで、軽快な曲調にもミラクルな相性が伝わってくる。

レックス・オレンジ・カウンティの2017年のシングル、ベニー・シングスをフィーチャーした“Loving Is Easy”
 

かたや、映画「トイストーリー」(95年)の主題歌を、公開当時まだ生まれてなかったアレックスと、作曲者のランディ・ニューマンとが55歳差でデュエットする“You've Got A Friend In Me”も味わい深い内容。それに、幅広い世代が親しんできた原曲を忠実にカヴァーする姿勢からは、アレックスが抱くポップスへの矜持と楽曲至上主義が見え隠れする。

 

5. 〈サマソニ〉の大本命はレックス・オレンジ・カウンティ!

新しいもの好きのリスナーにとって、今年の〈サマソニ〉は稀に見るレヴェルで大豊作だと思う。UK勢に限っても、トム・ミッシュ、ラムズ、ジョルジャ・スミス、ペール・ウェイヴス、ドリーム・ワイフ、IAMDDB、ビリー・アイリッシュといった旬のアクトが一挙来日するのだから、興奮せずにはいられない。

そのなかでも、大本命はレックス・オレンジ・カウンティで間違いないだろう。ライヴの腕前は未知数だが、キャッチーな楽曲がてんこ盛りだから楽しいに決まっている。ライヴ動画を観ると大合唱が起こっているようなので、『Apricot Princess』をしっかり聴き込んで臨みたいところだ。

レックス・オレンジ・カウンティの2018年のライヴ映像

 


Live Information
SUMMER SONIC 2018

8月18日(土) 大坂
8月19日(日) 東京

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