建築×オーケストラ×エレクトロニクス⇒ダンスミュージックという新境地を開拓!

 R&Bコンクレートを標榜し、ローファイな質感とベースを抜いたエクスペリメンタルな音像を描いた 『Splazsh』で2010年The Wire紙年間1位を獲得し、シーンに衝撃をもたらして以来、彼の音楽は様々な形容と共に語られて来たが、アクトレスの音楽は他の誰にも似ておらず、アクトレスにしか成し得ない表現を獲得している。

 クラブミュージックにその音楽のルーツはあり、上記『Splazsh』では実際その片鱗が聴こえてもくるが、『R.I.P.』以降は様々なジャンルにおけるリズム、ビートをどろどろに溶かした様な作品に発展し、接する者は音そのものの現象を追う体験を迫られる。ここでもローファイな質感が全体を覆っているがそのローファイの中で蠢く音への偏執的なまでの拘りは聴けば聴くほど驚かされる。ことごとくリスナーを翻弄して来たアクトレスの音楽は、トム・ヨークもその才能を絶賛している。

ACTRESS,LONDON CONTEMPORARY ORCHESTRA Lageos Ninja Tune(2018)

 この度ライヒ、ライリーやレディオヘッドらとも共演を行うロンドン・コンテンポラリー・オーケストラ(以降LCO)とのコラボとなる最新作が発表された。これまでアクトレスが素材として来たものとはかなり異質なオーケストラ演奏を扱う事で、全く予測も付かない音楽が生み出されている。LCOの演奏をアクトレスが再構築する一方で、LCOもアクトレスの『Splazsh』『R.I.P.』のトラックをリエディットを施し、エレクトロニクスとアコースティックの関係性に化学変化を起こす事で、またも新境地へと足を踏み入れた。

 これまでの音の質感に対する圧倒的な拘りはLCOによる演奏という新たなファクターが加わる事で、その危険なバランス感覚が現出している。最初の公演を行なったバービカン・センターの建造物そのものから着想を得てそれをサウンド・プロダクションにも反映させたという。ダンス・ミュージックに立脚しながらコンテンポラリー・ミュージックの視点でも唯一無二の音響を楽しむ事が出来る。