撮影:衣斐 誠

ジャズとヒップホップの新しい関係を作り出す、注目のドラマー

 写真を見ると強面の感もあるが、今話題のジャズ・ドラマー/プロデューサーは実際に会うとつぶらな瞳が印象的な好漢だった。そんな彼の父親のスティーブン・マクレイヴンはアーチー・シェップやユセフ・ラティーフら鬼才ジャズ・マンの表現に貢 献した、やはり辣腕のドラマー。そして、マカヤは父親が住むパリで生まれた。

 「黒人のジャズ・ミュージシャンが(差別から逃れ)欧州に流れていた時代で、パリに住む人も多かった。母は東欧のフォークやジプシーの音楽をやるハンガリー人で、二人はフランスで出会ったんだ。そういう複数の属性を受け継いでいることや、パリ生まれであることは、僕の強みだと思う。だって、米国生まれの人よりも様々な見聞を小さな頃から受けて、それが何かを与えないはずがない。だから、環境にはオープンでいたいな。シカゴに住んで12年経つけど、それは奥さんがシカゴの大学で教鞭を取っているからなんだ。でも、家族でなんら不満のない生活ができているし、引っ越す理由はない。僕が出しているアルバムはシカゴの音楽仲間との交流ありきだし、NYに住んでいたらああはならないだろうね」

 彼を一躍注目の存在にしたのが、2015年に同地の好ジャズ・レーベル〈インターナショナル・アンセム〉からリリースした『イン・ザ・モーメント』。同作は在シカゴの好奏者たちとセッションしたものに、自らポスト・プロダクションを施した内容を持つ。そこにはリアルなジャズの丁々発止と今のヒップホップ期ならではの編集感覚がクールに綱引きしていた。

 「即興がベースとなっているし、ジャズのミュージシャンを起用しているので、ジャズということは否定はしないが、いい音楽を求めただけ。何も考えずに化学反応を持てる仲間と即興し、それをアレンジし直すという感じでポスト・プロダクションを施した。ライヴを録ったものをPC に入れて、もっと曲っぽくするというか。たとえば、ある箇所をループさせたり、パートを入れ替えたり。僕にとってポスト・プロダクションというのは即興でできているものを並べ替え、整える作業なんだ」

 その所作はヒップホップ愛好から来ていると、彼は明言する。

 「ヒップホップのサンプリングと同じ感覚で、僕は作業をしている。レコードの音をサンプリングするのは法的許諾を得るのが難しかったりもするし、それだったら、自分たちで演奏するものを使ってしまうほうが早いんじゃないかという発想もあり、今に至っている」

 好きなヒップホップの担い手はという問いには、次のとおり。

 「DJプレミア、J・ディラ、マッドリブ、いろいろいるね。そういう90年代のアーティストが好みなんだ。皆サンプリングで曲を作っている人たちで、僕はそれらに影響を得ている。それと、父親がアヴァンギャルドのジャズをやっていて、やはり彼には多大な影響を受けている。まさに、生まれる前からね(笑い)。当時のヒップホップはジャズを換骨奪胎している感じもあって、まさに僕はヒップホップの担い手とジャズ・ミュージシャンとの間にいると言えるんじゃないかな」

 『イン・ザ・モーメント』はさらに『In The Moment Remix Tape』という派生作品を生み、また新作『ハイリー・レア』も同様の手法が取られている。

 「僕のリミックスしたものを別のプロデューサーがまたリミックスし、それがまた自分の元に戻り、僕がまたリミックスする。『Remix Tape』は、そういう円環が新しい音楽を作り続けるというのがコンセプトだ。『ハイリー・レア』は一晩のライヴがソースとなっているんだけど、あの時の空間は特別だった。魔法の連鎖が起こり、あの場にいた者がみんな興奮しまくっていた。僕にとって、すごいスペシャルな作品だね」

 ヒップホップ時代のジャズ表現とは? そりゃ、やり方はいろいろあるだろう。だが、そうしたなか、マカヤ・マクレイヴンは今トップ級にヒップホップの発想を介したプロダクションを送り出すリアル・ジャズマンであると言うしかない。

 


マカヤ・マクレイヴン(MAKAYA McCRAVEN)
スピリチュアル・ジャズの巨星アーチー・シェップのバンドで活動したドラマーのスティーヴン・マクレイヴンを父に持ち、少年時代から音楽活動を開始。2007年からシカゴに拠点を移して数々のジャズ/ヒップホップ系ユニットに在籍し、2015年リリースの『イン・ザ・ モーメント』はニューヨーク・タイムズやナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)など主要米国メディアから絶賛を博した。