INTERVIEW

「新しい自分が見てみたい」 南波志帆が梅林太郎(milk)と語る、ゲンスブール〜フレンチ・ポップな10周年の新作

南波志帆『Fille! Fille! Fille!』

(左から)南波志帆、梅林太郎
 

今年デビュー10周年を迎えた南波志帆が、自身のレーベル〈sparkjoy records〉より通算4枚目のフル・アルバム『Fille! Fille! Fille!』を11月17日(土)にリリースする。

前作『meets sparkjoy』から2年ぶりとなる本作は、 TVアニメ「ユーリ !!! on ICE」のサウンドトラックや、小泉今日子、原田知世などへの楽曲提供でも知られ、ソロ・プロジェクト、milkとしても活動する梅林太郎をプロデューサーに起用。梅林がフェイヴァリットに挙げるセルジュ・ゲンスブールとフレンチ・ポップへのオマージュたっぷりな、耽美かつポップなサウンドスケープを展開している。また、コンポーザーは彼以外にも多数参加。橋本竜樹(NAG AR JUNA)や鈴木一弘(Concert)、ハヤシベトモノリ(Plus Tech Squeeze Box)ら超個性的なメンツが脇を固め、10周年の節目に今回〈大人の女性〉をテーマに掲げた南波の新たな魅力を引き出すことに成功した。

ジェーン・バーキンやシャルロット・ゲンスブールにも通じるような、透明感あるウィスパー・ヴォイスがトレードマークの南波だが、意外にもセルジュ・ゲンスブール〜フレンチ・ポップは未体験だったという。果たして梅林との制作は彼女にどのような変化をもたらしたのだろうか。今回Mikikiでは、南波と、制作の鍵を握った梅林にも参加してもらい、アルバムの制作エピソードなどじっくりと訊いた。

南波志帆 Fille! Fille! Fille! sparkjoy(2018)

その人のパーソナリティーをどう活かすか?に重きを置く(梅林)

――まずは今回、南波さんが梅林さんにプロデュースを依頼した経緯を教えてください。

南波志帆「私は2008年11月18日にデビューしまして、今年で10周年を迎えるんですね。最初の頃はプロデューサーの矢野博康さんと一緒に作品を作っていたんですけど、2016年にsparkjoy recordsをタワーレコードさんから立ち上げて。

前作『meets sparkjoy』など、sparkjoyではチャームさん(THE CHARM PARK)をはじめ、長く続けることで出来た共鳴し合える仲間たち、わりと歳の近い人たちと一緒に音楽をやってきたんですけど、今回10年という節目もあって、〈声を活かす〉という原点に立ち戻りたくなったんですね。まっさらな状態で歌に向き合うことで、〈新しい南波志帆〉を自分でも見てみたくなって。そんな話をスタッフとしていたら、〈25歳になった『大人の南波志帆』を見せるのはどうだろう?〉と。それがキーワードとなって、〈誰かいい人(プロデューサー)いないかな〉と探している時に、梅林さんの名前が挙がったんです」

南波の2016年作『meets sparkjoy』収録曲、fifi leger作詞/THE CHARM PARK作編曲の“Good Morning Sunshine”
 

――当初の梅林さんの印象は?

南波「本人を横にして言うのも何ですけど(笑)、その打ち合わせで梅林さんの名前が出た時にみんなで検索したんですよ。それでアー写が出てきた時には〈うお、美しい!〉という声が上がりましたね。なんか、王子様感があるじゃないですか。ちょっと浮世離れしているというか……圧倒的な美しさだから、本当に実在しているのかなって思いましたね(笑)」

梅林太郎
 

梅林太郎「いやあ、僕の方こそ、普段会えないような方だし最初は緊張したんですけど……」

南波「え、ほんとですか!? 緊張しているようにはまったく見えなかったですけど(笑)」

梅林「そりゃ緊張しますって(笑)。僕は裏で曲を書くのが仕事ですから」

南波「うふふふ。でも、一緒に作業している中で、私が冗談とかいうと笑ってくださるし、レコーディング中にお腹が空いてみんなで〈ラーメン行こ!〉ってなった時、〈あ、梅林さんってラーメン食べるんだ〉みたいな。そういう不思議な感じでしたね」

――(笑)。梅林さんは、南波さんの作品は聴いていました?

梅林「もちろん聴いてました。矢野さんとも以前から交流ありましたし。これまでの南波さんは、ベテランの方から新進気鋭の作家まで、本当に豪華な製作陣が脇を固めて、彼女の声をいろんなアプローチで活かしていたじゃないですか。同時代性を強く持った作品から、オーセンティックなポップスまで本当に多種多様で。なのでお話をいただいた時は、〈改めて僕にできることは、一体なんだろう?〉とは思いましたね。まずは熟考する時間が必要でした」

今年3月にリリースした10周年記念のベスト・アルバム『無色透明』トレイラー
 

――2人で実際に会って、ミーティングのようなことはしたのですか?

南波「昨年の11月くらいに初めてお会いして。ひたすら梅林さんにインタヴューされる感じでしたね。〈どういうものが好き?〉とか」

梅林「そうでしたね。いままでの彼女の作品は、矢野さんにしても作家性というか、コンポーザーのカラーが強く打ち出されていたように思うんです。でも、僕の場合は他のアーティストとやるときも、僕のサウンドを打ち出すというよりは、〈その人の持つパーソナリティーをどう活かすか?〉というところに重きを置いていて。自分自身もそういう音楽が好きなので。

なので南波さんの場合も、彼女がどういう人でどんなものに普段感動しているのか、どんな人生観を持っているのか。そういうところを反映させた作品にしたいなと思いました」

――アルバムのコンセプトに、60年代のセルジュ・ゲンスブールの影を色濃く感じます。

梅林「ゲンスブール的なことは、実は前々からやりたかったんです。ちょうど今年が日仏交流160周年であり、セルジュの生誕90周年なんですよ。それもあって日本とフランスは現在さまざまな文化交流を行なっているんですけど、そんな流れの中で、ひとつ大きなトピックになるんじゃないかという気持ちもありました。しかも、他のアーティストでいまゲンスブールを取り上げている人も、実はあんまりいないと思って」

『Fille! Fille! Fille!』表題曲
 

――そうなんですよね。

梅林「そのうえでアイデアを考えている時に、例えば昭和のポップスとかってフレンチだったりするし、もちろんレトロな感じで取り入れるつもりはいまさらないんですけど、それを例えばビート感を強く仕上げたら、いまの若い人が聴いても新鮮なんじゃないか?と思いました」

――ゲンスブール〜フレンチ・ポップは、南波さんとどう相性がいいと思いましたか?

梅林「例えばシャンソンなんかもそうですが、フレンチ・ポップは歌っている人のパーソナリティーみたいなものを色濃く反映させる曲が多いところですかね。〈その人らしさ〉が際立つというか。今回、南波さんのプロジェクトは〈大人の女性〉がキーワードですが、単にサウンドだけ大人っぽくしても、ちょっと難しいんじゃないかなと思ったんです。そこできちんと南波さんのパーソナリティーを出すには、フレンチ・ポップは合っているのかなと」

――ちなみに梅林さんは、ゲンスブールの作品ではどの時代が個人的にお好きですか?

梅林「難しい質問ですね(笑)! やっぱり『メロディ・ネルソンの肖像(Histoire de Melody Nelson)』(71年)かな。ジャン=クロード・ヴァニエのアレンジがとても好きで。クラシックをちゃんと勉強しようと思ったのも、彼のスコアを聴いたのがきっかけのひとつですし。あと『くたばれキャベツ野郎(L'Homme à tête de Chou)』(76年)なんかも大好きです」

『メロディ・ネルソンの肖像(Histoire de Melody Nelson)』収録曲“Ballade de Melody Nelson”
 

――南波さんは、セルジュ・ゲンスブールやフレンチ・ポップは聴いていましたか?

南波「実は、まったく通ってきてなかったんです。〈合いそうだよね〉みたいなことは、特にアーティストの方には以前からよく言われていたんですけど。今回フレンチ・ポップをやることになって、フランス・ギャルやシルヴィ・バルタンとか、いろんな楽曲を聴いてみたんです。そうしたら、意外と聴いたことある曲が多かったんですよ。おそらくCMなどで無意識に耳にしていたんでしょうね。どこか物悲しさがあるし、甘美かつ官能的なところもあるのが、大人っぽくて大好きです」

 

一度だけ泣いてしまったんです(南波)

――実際のアルバム作りについてもじっくりお聞きしていきたいのですが、梅林さんは今回、トータル・プロデュースだけでなく、実際に作曲でも関わっていますよね。いつもどのようなプロセスで曲作りをしているのですか?

梅林「どうやって作っているんだろう(笑)。でも、今回は南波さんの楽曲ということで、彼女がどういう人で、どんなメロディーを歌っている姿が見たいか?みたいなところから作りはじめることが多かったですね。〈こんな音楽が流行っているから、こういう曲にしよう〉みたいな、いまの音楽シーンの動向云々よりも、その人と会ってどんな気持ちになるかな?とか、そのあたりを取っ掛かりにすることが多いです」

梅林が作編曲した原田知代の2009年作『eyja』収録曲“ハーモニー”
 

南波「梅林さんは、音楽に対しての妥協が一切なくて、ものすごくストイックに生きられている方だなという印象がありましたね。歌録りの時も、いい悪いをはっきり言ってくださるんですよ。忖度も迷いも一切ないので、すごく信頼できるしやりやすかった。ただ、美しさに慣れなくて、そこは緊張してました(笑)」

――(笑)。梅林さんの他にも様々なコンポーザーを起用していますが、そのあたりのセレクトはどのように行いましたか?

梅林「今回は、インディーズと接点のあるコンポーザーを選ぶことにしました。そういう、あまりオーバーグラウンドに寄りすぎない活動をしている人たちならではのおもしろさがあると思っていて。しかもそういう方たちは、とりわけ音楽の捉え方がとても個性的で、さらには音楽の堀り方が尋常じゃないという(笑)。そういう意味も含めて〈んん??〉って思わせるような楽曲を作ってくれそうな方々にお願いしました。

フランスの音楽って、一筋縄ではいかないコード進行や、ちょっと風変わりなところがあると感じていて。それこそel Recordsのような、グニャッとした部分が曲の中にあったらおもしろいなと思って。そのあたりに造詣が深そうな人たちをキャスティングできたらいいなと思ったんです」

――本当に個性的なコンポーザーが勢ぞろいしていますよね。中でもハヤシベトモノリさんや、鈴木一弘さん、橋本竜樹さんなどは知る人ぞ知る存在というか。

梅林「ハヤシベくんは、膨大なサンプリングソースを駆使しながら独自のサウンドを組み立てる達人で。もっといろんなところで取り上げられるべき人だと思っていたんですけど、これを機会に多くの人に知られると嬉しいですね。

鈴木一弘さんは、僕と同じRallyeに所属しているConcertというプロジェクトをやっています。ものすごくいい曲を作るんですけど、いつもヴォリュームのある曲で、なかなかリリースされないんですよね。今回は彼の新曲が聴きたいという気持ちもあって、無茶を言って作ってもらいました」

――橋本さんはカジヒデキや、MINAKEKKEのファースト・アルバム『Tingles』を手がけるなど、プロデューサーとしても活躍されていますよね。歌詞はAmi Kawaiさんという方がほぼ書かれています。

梅林「彼女は、(橋本)竜樹くんの紹介だったんです。彼女の音楽は知っていたんですけど、日本語作詞をやっているのは知らなくて。実際に書いている文書を見せてもらったら、彼女の独特の視点がとてもおもしろくて。それでお願いすることになりました」

南波「Amiさんの歌詞は、すごく女性的だなと思いました。内に秘めている大胆な気持ちだったり、そういうものを表現されているので、歌っててすごく爽快でしたね(笑)。実際にお会いしたら、すっごく可愛らしい方で。いてくださるだけで空気が柔らかくなる、〈心のオアシス〉みたいな方でした。〈ありがてえ!〉って(笑)。レコーディングにもほとんど参加してくださり、歌い方のニュアンスなどアドバイスしてくださいました。特に、随所に散りばめられたフランス語は、発音などまったくわからなかったので教えてもらって心強かったです。

実は今回、歌うのが難しい曲が多くて。自分の力のなさに悔しくなって、レコーディング中に一度だけ泣いてしまったんです。10年もやってるのにまだ泣くことがあるのか、と自分でもびっくりしたんですけど(笑)。歌録りの時、ヴォーカル・ブースでバレないように泣いたつもりでしたが、バレてたみたいですね」

梅林「(笑)。初日にやった2曲が特に難しい曲だったんです。僕の書いた “イニシャル “S” の恋愛事情”と、鈴木一弘さんの書いた“テリトリー”」

南波「鈴木さんの書く曲は、人が歌うメロディーじゃないんですよね(笑)。いままでも特にミュージシャンの方たちから〈南波志帆の曲って難しい曲多いよね〉〈よく歌えるね〉みたいなことは言われてたんですが、わりと無自覚で。普通にすんなり歌っていたのですが、今回は本当に大変でした。なんだろう、リズムなんでしょうかね、うまくノレないというか。

ただ、壁が立ちはだかると燃えるタイプなので(笑)、初日で〈ひと泣き〉した後は、結構楽しくチャレンジしていました」

 

〈音楽〉というより〈芸術〉を作っているような気持ちになれた(南波)

――特に思い入れのある曲というと?

南波「私は昔ミュージカルをやっていて、ミュージカルがすごく好きなのと、ダーク・ファンタジーなものが好きだったりとか、そういう要素が梅林さんが作ってくださる曲にはふんだんに含まれていたりして。梅林さんの曲はどれも歌っていてすごく楽しかったです」

梅林「南波さんは、ものすごく表現力のあるシンガーなので、例えばシアトリカルな要素を入れても大丈夫だろうなと。彼女がヒロインになったような楽曲が書けたらいいなという気持ちはありました」

――ダーク・ファンタジー感はすごくありますよね。いままでのアルバムもそうでしたが、今回は特にポップスの中にある毒っ気や変態っぽさみたいなところが引き出されていて。それはセルジュ・ゲンスブール〜フレンチ・ポップというフィルターを通したからこそというところもあったのでしょうね。

南波「そうですね。いままでの作品では見せてなかった私の一面も、梅林さんに引き出してもらったところもあるので、ファンの方達からどんな反応をいただけるのか、まったく読めないですね。マジで幻想を打ち砕いていくようなところがあるので(笑)、でも、そこは楽しみでもあったりします。

あと、今回は〈音楽を作っている〉というより、〈芸術を作っている〉ような、すごく高尚な気持ちになれたんです。それも初めての経験でしたし、すごく新鮮でしたね。何回聴いても新鮮な気持ちになれるアルバムに仕上がって、本当に嬉しいです」

――表題曲“Fille! Fille! Fille!”はミュージック・ビデオもとてもユニークな仕上がりですよね。

南波「梅林さんとレーベルの方と3人でお茶しながら、〈どんな映像だったらおもしろいかな?〉って話をしていて。この曲の主人公がいろんな男性を翻弄していく小悪魔だったので、最後は逆襲されるっていうオチとかどうだろう、『黒い十人の女』の男女逆ヴァージョンみたいだねって盛り上がったんです。他にも、〈南波さんはゾンビ好きなんだから、最後ゾンビになればいいじゃん〉みたいなアイデアも梅林さんから出てきて(笑)。あとで完成品を観てみたら、ソンビになるところで楽曲の展開もまた一捻り加わってたんですよ。〈梅林さんの遊び心最高だな!〉って思いました」

――〈幻想を打ち砕く〉っておっしゃっていましたが、初めておでこを出したアー写へのファンのリアクションはどうでしたか?

南波「男女ともに大好評で。すごく嬉しかったです。うちの母もなぜかずっと〈おでこを出してほしい〉って言ってたので、ようやく親孝行もできました(笑)。

でも、あのアー写も偶然なんですよ。実はまったく違うヴァージョンですごくいい写真を撮り終えていたのですが、撮影の時間が余ってしまったので、〈ちょっと遊んじゃう?〉って話になって急遽おでこを出してみることにして。メイクも大人っぽく変えて、そこから10分くらいで撮った写真が結局採用になったんです」

南波の新アー写
 

――そうだったんですか。それにしても『Fille! Fille! Fille!』は10周年イヤーを締めくくる素晴らしい作品になりましたね。梅林さんとのコラボレーションの続編も楽しみにしています。

南波「そうですね、梅林さんが嫌じゃなければ(笑)」

梅林「いや、僕のほうこそ本当はどう思われてるのか、まだわからないですから」

南波「なんでですか! 思いって伝わらないなー(笑)」

 


Information

■南波志帆

〈THE NANBA SHOW
「10th anniversary oneman live“無色透明”」〉

2018年11月17日(土)東京・赤坂マイナビBLITZ 赤坂
開場/開演:16:30/17:30
チケット:前売4,800円(税込/ドリンク代別)
http://www.tbs.co.jp/blitz
※当日、会場にて『Fille! Fille! Fille!』をお買い上げの方にサイン入りポスターをプレゼント
お問い合わせ: ホットスタッフ・プロモーション 03-5720-9999(平日12:00~18:00)

★10周年記念ベスト・アルバム『無色透明』も好評発売中!

南波志帆 無色透明 PONY CANYON INC.(2018)

■梅林太郎

ソロ・プロジェクト、milkのアルバム『greeting for the sleeping seeds』はこちら!

milk greeting for the sleeping seeds RALLYE(2012)

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