INTERVIEW

青木涼子 《くちづけ》初演 エトヴェシュ/オリザと対峙する能の現代、現代の能

青木涼子 《くちづけ》初演 エトヴェシュ/オリザと対峙する能の現代、現代の能

《くちづけ》初演
エトヴェシュ/オリザと対峙する能の現代、現代の能

 内発的であり、先端にいる、ということ――。

 海外で日本文化を紹介することは楽しい。食べ物でも、美術でも、映画でもいい。身近にある何かを紹介することを考えてみてほしい。また海外で日本を題材に作曲や絵画など何らかの制作をすることは楽しい。そこには内発的な何かと、外からの視点が交差してくる不思議な瞬間がある。

 しかし、もしあなたが本格的に伝統文化を習得していて、能動的に国際的な現場で創造する張本人だとしたら、その楽しさはおそらく、尋常ではない――。

 まず、青木涼子の歩みを一度トレースしよう。十代から学んできた能を東京藝術大学ならびに院で総合的に修めた。男性主体の世界なので外国で研究者になろうと、ロンドン大学で能と女性に関する博士論文を英語で書き、伝統的な能楽師には珍しい、客観的に捉える視点を手に入れた。研究者としても特別な存在になり得たけれど、多くの出会いにも恵まれ、現代音楽というプラットフォームで、創造する側にいる。文化と文化の間で誤解されることを恐れず、そのつどハードルを乗り越える、表現の面白さに熱中する――。そんな存在だからこそ、青木は多くの作曲家、芸術家に新たなインスピレーションを与え、エッジの効いた場が生まれているのだろう。

 今企画は、東京文化会館の舞台芸術創造事業として、ハンガリーと日本の国交樹立150周年を記念して開催される。細川俊夫や若手作曲家、中堀海都とバログ・マーテー2人の作品も並ぶ中、ハンガリーを代表する現代音楽の作曲家=指揮者のペートル・エトヴェシュ作品2作品が、その中心だ。

 エトヴェシュが青木に向けて作曲した《くちづけ》は日本初演になる。原作となるのは、映画化されたことでも知られる、イタリアの作家アレッサンドロ・バリッコの小説、『絹』。19世紀の日本を舞台に、詩的な美しさに包まれた作品だ。現代音楽としては聴きやすい美しい室内楽に支えられた上で、音高を始め音楽的な自由がかなり与えられたという青木の謡が、聴きどころになる。また話の中に、茶会で回し飲みする茶碗の間接キス、淡くもエキゾチックなエロティシズムが描かれており、舞台の重要な鍵となる場面がある。譜面上で打楽器奏者に対してインパクトのあるシアトリカルな指示がなされているのでそれを見て欲しい。また、謡や演奏とどう絡むか――。

 共に演奏されるのが1973年作《Harakiri》で、青木の存在によって2014年に日本初演がかなったものでもある。若き作曲家がシュトックハウゼンとともに大阪万博をきっかけに来日し、三島由紀夫の自決にインスパイアされて作られた作品。エトヴェシュは東欧ハンガリー出身ということもあってか、日本は常に彼の創造の源だが、当時前衛の先端を見つめたエトヴェシュが能に求めたものを再び熟考したい。

 今回は《Harakiri》日本初演時の公演に参加した演奏家がほぼ参加している(フルートの斎藤和志、バスクラリネットの山根孝司、そしてチェロの多井智紀ら、名の知られた実力者たちだ)し、また、作曲家の日本観の変遷や音楽的作風(前衛的な作風の色濃い旧作、比較的聴きやすい新作)の違いなどを2作品で比較してみるのは面白い。

 しかも、英語を台本にしたものを日本語に直し、ブラッシュアップするのは平田オリザ。口語的な台詞を精緻に演出してきた彼が演出をトータルで担当するのだが、日本の聴衆にのみ完全に彼が演出する舞台を鑑賞する機会が与えられている。謡と言葉の関係性を視覚性や間合いも含め、捉え直していくことになる。また絹をイメージしたという江角泰俊による衣装も確かな質感を与えるだろう。

 1月27日にスウェーデンで初演を行い、好評をさらったばかりの《くちづけ》は今後ポルト、マドリード、ベルリン、ケルン、ブダペストで公演予定。「やってなんとかできる難易度の高い、攻めている作品にこれからも挑戦していきたい」と意気込み、総合芸術の先端を、世界で身をもって体現する青木涼子。その熱演が、3月9日の東京文化会館で繰り広げられる――。

 


青木涼子 (Ryoko Aoki)
能×現代音楽アーティスト。東京藝術大学音楽学部邦楽科能楽専攻卒業(観世流シテ方専攻)。同大学院音楽研究科修士課程修了。ロンドン大学博士課程修了。博士号(Ph.D)取得。世界の主要な作曲家と協働で、能と現代音楽の新たな試みを行っている。2017年12月にはパリ・フェスティバル・ドートンヌ、ケルン・フィルハーモニーにて細川俊夫作曲、平田オリザ台本の室内オペラ《二人静ー海から来た少女ー》を アンサンブル・アンテルコンタンポランと共に世界初演を行った。2018年1月にはフェデリコ・ガルデッラ作曲のオーケストラ曲「Two Souls」をソリストとしてフィレンツェ五月音楽祭管弦楽団と共に世界初演。2018年2月にアムステルダムでロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団と共演した。

 


LIVE INFORMATION

舞台芸術創造事業 日本・ハンガリー国交樹立150周年記念
「くちづけ~現代音楽と能~」

○3/9(土)15:30開場/16:00開演
会場:東京文化会館 小ホール
【曲目】中堀海都:二つの異なる絵(委嘱作品/世界初演)/バログ・マーテー:名所江戸百景(委嘱作品/世界初演)/エトヴェシュ・ペーテル:Harakiri/細川俊夫:線VI /エトヴェシュ・ペーテル:くちづけ(国際共同委嘱作品/日本初演)
【出演】青木涼子(能)(Harakiri/くちづけ)/斎藤和志(fl)/山根孝司(b-cla)/コハーン・イシュトヴァーン(cl, b-cl)/横島礼理(vn)/ 多井智紀(vc)/神田佳子(pec)
【演出】平田オリザ(Harakiri/くちづけ)
【企画アドバイザー】エトヴェシュ・ペーテル、細川俊夫
【衣裳】江角泰俊〔EZUMi〕

www.t-bunka.jp/stage/host_10968.html

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