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サイトウ“JxJx”ジュンのリスナー遍歴を元に振り返る、YSIGの音楽的な変化

 本文にある通り、結成から20年の間に音楽性を大きく変化させてきたYOUR SONG IS GOOD。その背景には、メンバーの多岐に渡るリスナー遍歴があるわけで……。そこで今回は、サイトウ“JxJx”ジュンにバンドの結成時、そして過去のオリジナル・アルバムごとに当時のリスニング体験を振り返ってもらい、その関係性を探ってみた。

「90年代末はエモ時代ですね。98年ぐらいだとキャップン・ジャズみたいな曲をやってました。当時はアメリカのエモだったりと、パンク~ハードコアのその先の流れを追い掛けてましたが、当時、そのシーンにいたバンドのいくつかがインスト化していって。フガジ周辺、ディスコード周りのバンドなんかがダブ化したりとか。で、これは何なんだろう?と。そんな時期にトータスの『TNT』が出たり、ヒムやシー・アンド・ケイクの新作にも刺激を受けて、自分たちもこの道があるのかな?と思ってポスト・ロック化していくものの、技術がまったく追いつかなくて挫折しました(笑)。

 その後、バンドはKAKUBARYHTHMから最初の音源(2002年の7インチ“BIG STOMCH, BIG MOUTH”)やミニ・アルバム(『COME ON』)を出す前ぐらいから徐々にオーセンティックな方向に。その直前まではシンセを弾いてましたが、出来る曲はなぜか暗い曲ばかり。やってるとみんなドンヨリしてきてしまい、このままだとバンドが崩壊すると思いまして(笑)、オルガンに変えました。もともとパンク・バンドだったことを思い出し、反省の意味を込めて、改めてスペシャルズを聴き込んだのもこの時期ですね。で、ガツンときたのがTSUトルネードスという60年代のバンドです。オルガンが入ってて、すごくファンキー。まさにやりたいことだ!と思いました。また、オルガン・ジャズも相当聴きまくってました。クラレンス・ウィーラーのファーストで聴けるハモンドは最高でしたね。

 ファースト(2004年の『YOUR SONG IS GOOD』)を出した頃にはスカ、カリプソはもちろん、ラテンにそれからモホークスなんかのオルガンものも引き続き。オーセンティックなものをパンク解釈でやるという、スペシャルズの再注入以降の流れがどんどん広がっていった感じだった気がしてます。

 『FEVER』ぐらいになると、カリブ音楽からさらにニューオーリンズに夢中でした。もともとミーターズとかエディ・ボーは好きでしたが、アルヴィン・レッド・タイラーなんかのニューオーリンズR&Bにデイヴ・バーソロミューみたいなさらに古いものもよく聴いてました。『HOT!HOT!HOT!HOT!HOT!HOT!』の2007年ぐらいまではそういうルーツ回帰的な聴き方が続いてましたが、その流れも限界までいって、急に終わりがきたんですよね(笑)。

 で、『THE ACTION』を作った2007~2008年ぐらいからは、なぜかPitchforkを見まくってて、最新のインディー・ロックを聴くようになった。あと、なぜかアークティック・モンキーズのファーストのリズム解釈に新しいスカ的な何かを感じて、むちゃくちゃイギリス的な音楽という意味でもスペシャルズのその先の何かを感じ、バンドに落とし込んだものの、その感覚は誰からも理解されなかったような(笑)。

  『B.A.N.D.』の時期で印象深いのは、スティル・フラインっていうアメリカのインディー・ロック・バンド。(80年代にフリージャズやアフリカ~ラテン音楽をニューウェイヴ感覚で鳴らした)ピッグバッグのあの感じをインディー・ロックのスタイルで明るく楽しくやってる感じが新鮮で。あと、アニマル・コレクティヴ、ヴァンパイア・ウィークエンドとかもバンド内でよく話題になってましたね。

 ダンス・ミュージックに開眼したのは『OUT』を作る直前の時期。遅ればせながら、ハウス・ミュージックのオルタナティヴな側面を理解できたときに、むちゃくちゃグッときました。きっかけとしては、ミスター・サタデイ・ナイトの音源が大きかったです。あと、フォー・テットの『There Is Love In You』も衝撃でした。ダンス・ミュージックの緻密なグルーヴの上に、ちょっとエモ、またはポスト・ロック的な感覚を感じて。その後すぐに、自宅のレコード棚を見たらフォー・テットのファースト・アルバムも持ってたことに気付くという(笑)。90年代のポスト・ロックと最新のダンス・ミュージックがフォー・テットのおかげで繋がってしまい、興奮しました。あとは、聴き逃していた2000年代前半のディスコ・ダブものも遡って聴きまくってました。

 『Expanded』以降から最近っていう、ここ数年だと何を聴いてるのか……アナログ12インチが主なフォーマットになってしまってますが、ワシントンDCのレーベル、ベター・リッスンからリリースされてる諸作は良かったです。あと、エディCの『On The Shore』、イジャット・ボーイズの『Versions』もアルバムとして最高でした。漬物みたいにずっと良い状態でいてくれる作品ですね(笑)。ダンス・ミュージックは本当に最高で、それまで取り組んできたスカやカリプソ、ラテンにニューオーリンズとも接続できちゃうような感覚があって、どんどんのめり込んでいったところはあります。それから、やはりヴルフペック周辺も、バンドや音楽の楽しさを再認識させてくれるという意味で刺激をいただいてます。

 こうやって振り返ってみると、楽しみつつも、常に自分のバンドにどうやって活かせるかということを考えながらいろんな音楽を聴いてきたんですね。アイデア・ソースとして聴いてきたというか。もっと普通に楽しみたかったような気もしてますが(笑)、もうしょうがないですね。この先もこんな感じな気がしてます」。

YOUR SONG IS GOODの作品を紹介。

 

関連盤を紹介。