1年遅れで結成20周年のアニヴァーサリー・イヤーに突入! ダンス・ミュージックへの開眼をきっかけに、シンプルに気持ちの良いグルーヴを得た現在のバンドを体感できるリアレンジ盤が登場!

美味しい状態のバンドを伝えるには

 昨年結成20周年を迎えたYOUR SONG IS GOOD(以下YSIG)は、これまでの長い活動期間を通して、まるでアメーバのように姿形を変化させてきた。結成当初こそパンク/ハードコア経由のポスト・ロック/エモ・バンドとしてスタートしたものの、数年のうちにパンク感覚のファンク・バンドへ変貌。スカやカリプソといったカリブ音楽を吸収してトロピカル度を上昇させると、突如現行ハウスに影響を受けてダンス・ミュージック化。近年ではバレアリックのニュアンスを採り入れながら唯一無二のダンス・インスト・バンドとして活動中――と、こうやって振り返ってみてもその変貌ぶりには驚かされるばかりだ。

 そんな彼らは急激なバレアリック化を遂げた2017年作『Extended』以降のライヴにおいて、進化と原点回帰を同時進行させるという極めてアクロバティックな試みを続けている。リーダーであるサイトウ“JxJx”ジュン(オルガン)はこう話す。

 「ライヴでは最近の曲と昔の曲を織り交ぜてやってるんですが、『Extended』以降ヒントになっている種のユルさ、気持ち良さのフィルターを通して、勢い重視だった昔の曲を、ちょうど良いところまで緩めるという試みをよくやってるんですよね。そこでヒントになってるのが現行のバレアリックな感覚のディスコ・ハウスだったりするんですが、緩める作業もなかなか難しくて(笑)。あと、去年ツアーを回ったときに一緒にやった、VIDEOTAPEMUSICにもヒントをいただいたんです。最近のVIDEOくんの曲は、ユルいけど締めるところは締めてまして、なるほど、と。自分たちの昔の曲は、脱力させていく過程でどうしても緩みきらない場合もあるんですが、そこはそのままでも良いのかもっていう勇気をもらいました」(サイトウ“JxJx”ジュン:以下同)。

 そうしたライヴ・パフォーマンスの成果としてこのたび制作されたのが『Sessions』という一風変わったアルバムだ。初期の楽曲から昨年7インチで発表された最新曲“Motion”まで、まさにYSIGの20年を振り返るのに相応しいレパートリーをスタジオで一発録音。スタジオ録音の緻密さとライヴ録音のダイナミクスが共存した作品となった。

YOUR SONG IS GOOD Sessions KAKUBARHYTHM(2019)

 「紆余曲折ありましたが、今のバンドの状態がなかなかに良い感じなんですよね。新しいことはやりたい、けど昔の曲をやるのもそんなにイヤじゃないっていう。この美味しい状態を伝えるためには、最新から昔の曲を含めたこの形がベストじゃないかと思ったんですよね。ただ、ライヴ盤だと良くも悪くもライヴのテンションになってしまうので、ちょうど良い感じっていうニュアンスを伝えるためには、勢いもあるけど細かいニュアンスも活かせるスタジオ・セッションがいいんじゃないかなと思いまして」。

 なんと収録曲10曲はすべて一日で録音。「(レコーディングの)時間がなかったということもあったし、もしかしたらできるんじゃないかと思ってやってみましたが……エグかったです(笑)」とサイトウも苦笑いするが、緊張感と開放感がせめぎ合う絶妙な空気はそうしたレコーディングだからこそ実現したものと言えるだろう。

 「新録アルバムの場合は新たなるイメージを用意して、そこをめざして進めていくわけですが、今回はそういうものじゃなくて、20年の年月を経過した自分たちの現在の姿をひたすら確認するというやり方で。録音が終わったあと、20年を一気に旅したというか、妙にやり切った感覚がありました」。

 

シンプルに楽しめるもの

 ここ10年ほどライヴでもやっていなかったという初期の代表曲“2,4,6,6,1,64 Number”や“The Love Song”も大幅にテンポダウンし、アーリー・レゲエおよびラヴァーズ調にリアレンジ。原曲ではソカ風のハネたリズムが印象的だった“Boogaloo Super Express”も王道スカへと様変わりしている。

 「昔は技術がなかったぶん、アイデアと編集感覚で乗り切ろうとしていたところがあって。例えばスカにしても大好きなんですが、やはりその道を極めてる、または極めようとしている人がいるわけで。そうなると、自分たちは自分たちなりのやり方でやらないと、っていう思いがあって、いろいろな仕掛けを考えがちでした。でも、『Extended』あたりから、ダンス・ミュージック的発想のシンプルな機能面にフォーカスすることと、年月と共に昔よりは演奏できるようになってきたことから、アイデアをどんどん削ぎ落としていく方向になってきた感じはあります」。

 センスやアイデアを重視するある種の90年代的な編集感覚はかつてのYSIGの特徴ともなってきたわけだが、近年の彼らはそうした鎧を脱ぎ捨て、丸裸で勝負をしようとしている。そんな現在進行形の彼らの姿が生々しく描き出された作品が『Sessions』なのだ。

 「最近の楽曲にもいくつかのアイデアは入ってますが、〈そこを聴いてほしい〉という意識は以前ほどなくって。このアルバムを作るにあたってのリアレンジの過程で、前だったら原型を留めないぐらいイジってたと思うんですが、良いところはそのまま残す、という方向にメンバー一同なりました。そこが20年目の視点かもしれないですね。シンプルで楽しめるもの、単純に気持ち良いもの。そういうことをやろうとしていますね。文脈好きをグッと堪えて(笑)」。

 

フツーのことに喜びを感じるように

 2019年、YSIGは1年遅れのアニヴァーサリー・イヤーを迎える。『Sessions』のリリースに続き、4月21日には9年ぶり2回目となる日比谷野外大音楽堂でのワンマン・ライヴを開催予定。バンドの調子も絶好調だという。20年間、ひとりのメンバーも脱退することなく活動を継続できているのは奇跡的なこととも言えるだろう。

 「なんで続けてこれたのか……メンバーそれぞれが今どんな家に住んでるのかも知らないし、普段のことはまったくわからないんですが。でも、週に一回リハスタに集まっては、ああだこうだいいながら音を出してる。スタジオに入ってくる順番も20年間ほとんど変わらないんですよね(笑)」。

 では、活動を続ける際のモチベーションになっているものとは何なのだろうか。

 「以前は〈このバンドでやるべきことはもうないかもしれない?〉と思った時期もあるのですが、最近はこのバンドでもっともっとおもしろいことができそうな気がしていて。例えば、あのブレイクをちょっと変えてみよう、オルガンの、ギターの音色をちょっと変えてみよう、そういう部分もおもしろくて。曲を作ってライヴをやることはいまだに楽しいし……そうやって考えてみると、バンドをやるうえでフツーのことに喜びを感じるようになってきてるのかもしれないです(笑)」。