photo by 杵島隆

 

 友人にばったりと会って、「今年の『サマーフェスティバル』……」とのことばがでてきた途端、「悲願だよねぇ!」と眼差しを交わして、うなずきあった。ごく最近のことだ。

 これは「ザ・プロデューサー・シリーズ」、2014年度の木戸敏郎のことを知っていればこそ、かもしれない。このプログラムができてほんとうに良かった。わたし、わたしたちは口にださずともそのおもいを共有していた。

 おそらく、木戸敏郎という人物をすこしでも知っているなら、了解してもらえるのではないだろうか。わたしがこのプロデューサーと実際にことばを交わすようになったのは、すでに国立劇場演出室長を退職してからだったけれども、いろいろ話をすると、そのはしばしにシュトックハウゼンの名と《歴年》のことがでてくる。そのつながりのなかで、武満徹《秋庭歌》のことが、また正倉院に残されている楽器を「復元」することが、でてくる。如何に木戸敏郎の核にシュトックハウゼン《歴年》があるかわたしたち自身のなかに堆積してきた、とでも言ったらいいだろうか。

 『サマーフェスティバル2014』は、だから、そう、シュトックハウゼン《歴年》が雅楽版(1977)と洋楽版(1979)とで演奏される。

 わたし自身は雅楽で初演されたステージには接していない。TVで断片的に放送されたのをみたことがあるだけだ。しかし、この作品へのブーイングは至るところで耳にしたし文字で読みもした。木戸敏郎によれば「国立劇場で行われた世界初演は、音楽関係者の非難と酷評にさらされ、再演の道が閉ざされたまま今に至っています。今年〈20世紀の伝言〉として、37年ぶりにようやくみなさまに聴いていただくことができる機会を得ました」となる。

【参考音源】シュトックハウゼン作曲“Der Jahreslauf(暦年)”

 

 シュトックハウゼン《グルッペン》が「サマーフェスティバル」で演奏されたのは2009年。このときはおなじ作品が2回演奏され、観客は席を移動して、異なった場所から音響を体験することができた。対して今回は、《歴年》を雅楽のために書かれたオリジナル版、べつの日に西洋楽器のために書かれた(とはいえ、もともと西洋楽器でもできるようになっている)版とで対比することができる。しかも雅楽版の際には一柳慧の新作、洋楽版の際には三輪眞弘の新作が初演される。はたして「37年後」の評価は如何に? かつての音楽関係者は聴く耳を持たなかったと立証されるのか。21世紀の聴衆は素晴らしいと大きく拍手を送るのか(ま、礼儀正しい聴衆はきっとたとえちんぷんかんぷんでも拍手を送りはするだろうけど)。それともやはりヘンな作品ということになるのか。雅楽版は駄目だけど、洋楽版はいい、ということになるのか(何度か「洋楽版」と書いてきたけど、これってとても居心地が悪い。何とかならないものか……)。そう、ひとつつけ加えておきたいのは、2012年、クセナキス《オレステイア》の圧倒的名演をおこなった松平敬が、洋楽版ではルツィファーを演じる。ミヒャエルの役は鈴木准。このあたりも聴きどころ。

 木戸敏郎プロデューサーはまた、すでに失われてしまっているけれども、さまざまな資料を駆使して箜篌(くご)や排簫(はいしょう)といった古代楽器を「復元」してきた。その作業=実践を、シュトックハウゼンの作品と結びつけ、《歴年》の2つのコンサートに先立って、『始原楽器の進行形』とのコンサートを計画する。

【参考動画】シュトックハウゼン作曲“Gruppen” パフォーマンス映像

 

 もうひとつ、『サマーフェスティバル2014』では「テーマ作曲家」として「パスカル・デュサパン」がクロースアップされる。ブーレーズがいて、IRCAM周辺やスペクトラム楽派がいて、といったフランスの音楽界に、次世代としてあらわれたのがパスカル・デュサパン(1955-)だった。何らかのグループやスタイルでまとめられることなく、活動をつづけている印象があるが、それでいて、作曲家としてはブーレーズにつづく2人目として、コレージュ・ドゥ・フランスの教授の任にあったりもする。

 コンサートとしては、室内楽としては弦楽四重奏+曲2つをアルディッティ弦楽四重奏団が演奏する25日、この高名なイギリスの弦楽四重奏団がオーケストラと共演する《ハパックス》、メゾ・ソプラノを伴う《風に耳をすませば》、そしてほかにクリストフ・ベルトランシベリウス《タピオラ》がプログラミングされるオーケストラ・コンサートを21日に予定。

 デュサパンについては、わたしもかつてintoxicateでインタヴューをしたことがあり、現在はネット上でも読むことができる(http://tower.jp/article/feature/2010/06/11/66196)。ご興味のある方はお読みいただければ幸いである。

 芥川作曲賞選考演奏会をのぞけば、シュトックハウゼン/デュサパンの2作曲家に収斂される「サマーフェスティバル」。昨年の池辺晋一郎プロデューサーとは打って変わったプログラム構成。こうして毎年聴き手を期待させてくれるのは、東京での音楽祭多しといえども、なかなか、では?

 

LIVE INFORMATION

サントリー芸術財団 サマーフェスティバル2014

8/21(木)~31(日)
会場:サントリーホール(ブルーローズ/大ホール)

 

●ザ・プロデューサー・シリーズ 木戸敏郎がひらく

〈始原楽器の進行形〉8/22(金)19:00開演 会場:ブルーローズ
出演:佐々木冬彦(箜篌)西陽子(アングルハープ岩亀裕子笹本武志(排簫)中村仁美(アウロス)神田佳子(方響)

〈20世紀の伝言〉8/28(木)19:00開演 会場:大ホール
【雅楽版新演出】カールハインツ・シュトックハウゼン(1928-2007):《リヒト》から歴年(1977)
木戸敏郎(音楽監督)木戸敏郎/佐藤信(共同演出)
一柳慧(1933-):時の佇い 雅楽のための(2014)世界初演

〈21世紀の応答〉8/30(土)18:00開演 会場:大ホール
【洋楽版新演出】カールハインツ・シュトックハウゼン(1928-2007):オペラ《リヒト》から〈火曜日〉第一幕 歴年(1979)日本初演
カティンカ・パスフィーア(音楽監督)佐藤信(演出)
三輪眞弘(1958-):59049年カウンター(2014)世界初演

 

●サントリーホール国際作曲委嘱シリーズNo.37

テーマ作曲家〈パスカル・デュサパン〉
□管弦楽 8/21(木)19:00開演 会場:大ホール
クリストフ・ベルトラン:マナ(2004-5)日本初演
パスカル・デュサパン:弦楽四重奏曲第6番ヒンターランド
弦楽四重奏とオーケストラのための“ハパックス”(2008-09)日本初演
ジャン・シベリウス:交響詩タピオラOp.112(1925)
パスカル・デュサパン:風に耳をすませば
ハインリヒ・フォン・クライスト原作のオペラ《ペンテジレーア》からの3つの場面(2014)世界初演
アレクサンダー・リープライヒ(指揮)ナターシャ・ペトリンスキー(MS)アルディッティ弦楽四重奏団 東京交響楽団
□室内楽 8/25(月)19:00開演 会場:ブルーローズ
パスカル・デュサパン:弦楽四重奏曲第2番 タイム・ゾーン(1988-1990)日本初演
弦楽四重奏曲第7番 オープン・タイム(2009)日本初演
アルディッティ弦楽四重奏団

 

●サントリーホール第24回芥川作曲賞選考演奏会

8/31(日)15:00 会場:大ホール
新井健歩:TACTUS(タクトゥス)(2014)世界初演
稲森安太己:アナタラブル~管弦楽のためのプレリュードとフーガの亡霊(2014)日本初演/大西義明:トラムスパースI―大アンサンブルのための(2012-13)日本初演/鈴木純明:ラ・ロマネスカII―ペトルッチの遍歴~管弦楽のための(2013)
杉山洋一(指揮)新日本フィルハーモニー交響楽団

http://suntory.jp/summer/