決して廃れることがないもの――それがニューオーリンズ・ミュージックだ。ジャズ、ブルース、R&B、ファンク、ゴスペル、マーチング・ブラス・バンドほか、多数の影響が融合したニューオーリンズ・ミュージックは、ある種の昂揚感があるファンク、フレイヴァーや雰囲気、最高の経験ができるライヴで知られており、それは常に魂に響いてくるのだ。
日本や世界各地にファンがいて、その音楽を経験するためにわざわざニューオーリンズまで巡礼に行く人も大勢いる。いまやルイ・アームストロング、リー・ドーシー、プロフェッサー・ロングヘア、ジェイムズ・ブッカーら大勢の巨匠たちがこの世を去り、その他かの地の象徴的なアーティストは高齢となっている。ファッツ・ドミノは87歳、ヒューイ・ピアノ・スミスは81歳、アート・ネヴィルとアラン・トゥーサンは77歳、ドクター・ジョンとアーマ・トーマスは74歳だ。しかし、ニューオーリンズ・ミュージックは元気に生き続けており、現地では多数の子供たちが幼少期から音楽を習い、往々にしてすでに具だくさんのガンボ(ルイジアナ州のスープ料理)のようなニューオリーンズ・ミュージックにさらなる味わいをもたらすことに貢献している。
ネヴィル・ブラザーズ、ミーターズ、アール・キングやその他の偉人たちによって作られた音楽もよく持ちこたえているが、今回はニューオーリンズと世界を刺激している若いアーティストたちを紹介しよう。
トロンボーン・ショーティ
本名:トロイ・アンドリュースは、ジェシー・ヒル(“Ooh Poo Pah Doo”の作曲者)の孫にあたる29歳のアーティストだ。ブラス・バンドで演奏しながら育ち、レニー・クラヴィッツやギャラクティック、ドクター・ジョン、エリック・クラプトンとレコーディングを行い、U2やエアロスミス、ジェフ・ベックとステージで共演し、ホワイトハウスで演奏を披露したこともある。2010年にはベン・エルマンのプロデュースによるアルバム『Backatown』をヴァーヴからリリースし、グラミー賞にノミネートされた。現在のニューオーリンズにおいて前途有望な、将来を期待されている人物だ。
ギャラクティック
メンバーがテュレーン大学在学時に結成され、いまや絶好調にノッているファンク・マシーンへと変貌を遂げた。シンガーを固定せず、ほとんどの曲がインストであるにもかかわらず、その人気はメジャーで広範囲に渡る。〈フジロック〉の〈GREEN STAGE〉出演時にはコリー・グローヴァー(リヴィング・カラー)をゲスト・ヴォーカルに迎えた最高のパフォーマンスを行い、直近のメイシー・グレイとの共演も含めて数えきれないほどの演奏を披露してきたことで、日本でも有名になった。
カーミット・ラフィンズ
中学時代にトランペットを始め、ニューオーリンズに根付くブラス・バンドの伝統に身を置きながら育ってきた。すでに高校時代にはトラディショナルなニューオーリンズ・サウンドに、より現代的なファンク要素を融合させたリヴァース・ブラス・バンドを結成。バンドの主要メンバーは、トレメ地区を拠点にするジョゼフ・J・クラーク高校の同級生たちで構成されていた。デビュー・アルバムは近所のバーでレコーディングを行い、アーフーリー・レコーズよりリリースしたが、後に大手のラウンダー・レコードへ移籍。多くのニューオーリンズのアーティストたちと同様、ソロ・アクトとして地元で毎週ライヴを開催し、長年に渡って木曜夜にVaughan's Loungeに出演。最近ではBlue Nileでもステージを行っている。
ダンプスタファンク
キーボーディストのアイヴァン・ネヴィル(アーロン・ネヴィルの息子)、イアン・ネヴィル、ベーシスト2名とかなりイケてる女性ドラマーのニッキー・グラスピーから成る〈2世ファンク〉のバンドだ。ニューオーリンズ・サウンドの洗礼を受けながら、ジェイムズ・ブラウンやスライ・ストーンといったファンクの流派にも同調し、ジャム・バンド好きに人気がある。「ニューヨーク・タイムズ」紙は、〈ダンプスタファンクは、現在のニューオーリンズにおける最高のファンク・バンドだ〉と紹介している。
ボーネラマ
トロンボーンを前面に押し出した異色なバンド構成を取っていて、得てして変わったものを受け入れるこの街にはぴったりだ。ハリー・コニックJrのバンドに所属していた2名のトロンボーン奏者によるサイド・プロジェクトとして始まり、徐々に自分たちの主体バンドへ発展していった。自分たちのライヴ演奏のほかには、ホーン・セクションはREMやOK・ゴー、アレック・オウンズワース(クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー)など多数のメジャーなアーティストとレコーディングを行っている。
アンダース・オズボーン
スウェーデン出身のマルチ・インストゥルメンタリスト・シンガー/ソングライターだが、ブルースに魅了されて85年にニューオーリンズへ移住。ジョニ・ミッチェル、リトル・フィートとレゲエ全般にも影響を受けている。そのうちに地元で人気になり、ツアーを回るアーティストになった。さらに彼の楽曲も受け入れられるようになり、ジョニー・ラングは“Pleasin’ You”をレコーディングし、カントリー界の人気シンガーのティム・マッグロウは“Watch The Wind Blow By”でチャート1位の大ヒットを記録した。ソニーのOkeh Records、シャナキー・レコードを経て、現在はアリゲーター・レコードに所属し、精力的にツアーを回っている。
ジョン・クレアリー
UKのケント州からニューオーリンズに移住。R&B、ファンクの影響を受けるキーボーディスト/シンガーだが、最初はボニー・レイットのバンドの一員として有名になった。グラミーを受賞したタージ・マハルのアルバム『Senor Blues』に数曲提供し、演奏も担当している。2009年にジャズ・ギタリストのジョン・スコフィールドがニューオーリンズの影響を受けたアルバムをレコーディングするときには、制作メンバーとしてミーターズのベーシストであるジョージ・ポーターJr、キーボード/ヴォーカルにジョン・クレアリーを選んだ。ジョンはソロでも活動しているし、アブソリュート・モンスター・ジェントルマンという素晴らしいバンドでもプレイしている。膨大な音楽知識を誇るこの鍵盤奏者の巨匠は、すでにツアーで来日を何度か果たしているが、再来日が待ち遠しい。
ストゥープ・キッズ
ニューオーリンズを拠点に活動する若手バンド。メンバーの数人はテュレーン大学を卒業したばかりで、数人は在学中にもかかわらず、しっかりと地元で手堅いファン・ベースを築き上げ、いまや南部と東部をツアーで回り、人気を呼んでいる。ニューオーリンズ・ファンクに基づいているが、ドゥワップにビーチ・ボーイズのようなハーモニーやラップを含めたクールなヴォーカルを加えることによって、ユニークな音楽を聴かせる。
ソウル・レベルズ
ドラマー2名とスーザフォン(チューバを改造した大型の低音金管楽器)奏者を含めた8人編成のブラス・バンドで、ニューオーリンズのマーチング・バンドにそのルーツがあるのは明白だ。幅広い音楽性を持ち、〈パブリック・エネミーとルイ・アームストロングの間にあるミッシング・リンク(=失われた環、つまり繋ぐ部分)〉と表現されたこともある。グリーンデイ、マリリン・マンソン(〈SUMMER SONIC〉では“Sweet Dreams (Are Made Of This)”の素晴らしい演奏を披露)、メタリカ、ロバート・グラスパー、ストリング・チーズ・インシデントやレタスと共演し、ステラ・マッカートニーのファッション・ショーでもパフォーマンスした。凄すぎる。
ブラス・ア・ホリックス
〈ゴー・ゴー〉ファンクを演奏に採り入れている。バンド名からもわかる通り金管楽器を前面に押し出しながら、ドラム、パーカッション、ギター、キーボード(鹿児島出身のケイコ・コマキ)を含む9名編成。ほとんどの曲がカヴァーだが、ジョン・コルトレーン、カニエ・ウェスト、ルイ・アームストロング、シンディ・ローパーなど何でもござれだ。
ジョン・バティステ
多くのルイジアナ州出身のミュージシャンがそうであるように、彼も音楽一家に生まれている。8歳でパーカッション、11歳でピアノを始め、ジュリアード音楽院に進学し、17歳でデビュー・アルバムをリリース。20歳ですでに海外ツアーを経験している。若い世代の音楽教育にも携わっており、ジャズ・シンガーのカサンドラ・ウィルソンとのコラボレーションも果たした。人気TVシリーズ「Treme」、スパイク・リー監督映画「Red Hook Summer」にも出演しており、9歳のときには日本の観光CMにも登場している。最近では超人気番組「The Late Show With Stephen Colbert」のバンド・リーダーとして、週5日ペースでTV画面にお目見えしている。
ビッグ・フリーダ
彼女はまったくもって別物だ。女装家でゲイのフレデリック・ロスは、ヒップホップのジャンルであるシシー・バウンス・シーンにおける女王だ。トゥワーキングを発明し、人気のダンスに押し上げた人物としても名前が挙がる。“Gin In My System”“Azz Everywhere”が有名な曲だが、彼女が好む2つのテーマ――淫らになること、汚らわしくなることが描かれている。ビッグ・フリーダは大胆にも自身のレーベル=クイーン・ディーヴァ・ミュージックを立ち上げた後、ニューオーリンズにおける新旧の人気アーティストが参加するギャラクティックのアルバム『Ya-Kay-May』の収録曲“Double It”に参加したことで、よりメインストリームの聴衆に知られるようになった。ポスタル・サーヴィス、マット&キムなど幅広いアーティストと全国ツアーを行い、ダイナミックなライヴ・パフォーマンスを披露している。2013年に自身が主役のリアリティー番組「Big Freedia: Queen of Bounce」がスタートしてからは広範囲に渡ってTV出演するようになった。