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西本智実が〈ヴァチカン国際音楽祭〉に3度目の登場―戦後70年の節目に発信した祈りのメッセージと渾身のレクイエム

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  • 2015.12.16
photo Hajime Watanabe

 

大聖堂で鳴り響く祈りのヴェルディ
―ヴァチカン国際音楽祭三度目となる西本智実、渾身のレクイエム

 2015年、西本智実がヴァチカン国際音楽祭に再び降りたった。

 2013年の第九、2014年のヴェルディ:レクイエムに続き三度目となるこの招聘は、彼女がアジアを代表する指揮者であるということを再確認させてくれる。自身が芸術監督を務めるイルミナートフィルハーモニーオーケストライルミナート合唱団と共に、2015年10月28日にサンピエトロ大聖堂に於いて執り行われたミサでは《オラショ》の原曲「グレゴリオ聖歌」グノー作曲「聖チェチ-リア荘厳ミサ曲」を、そして10月30日には昨年に引き続き渾身のヴェルディ:レクイエムをサンパオロ大聖堂に於いてそれぞれ披露した。

 10月28日のミサは、前ローマ法王ヨハネパウロ二世の没後10年をうけて執り行われた。そこで披露された《オラショ》の原曲「グレゴリオ聖歌」は、長崎県平戸市生月島の隠れキリシタン達が伝承してきた祈祷でグレゴリオ聖歌を起源に持つ。平戸市生月島は西本の曾祖母の出身ということもあり縁が深い。この「グレゴリオ聖歌」の復元演奏は、長崎をルーツに持つ日本のマエストロ西本智実が、キリスト教の生み出した祈りの音楽をカトリックの総本山であるサンピエトロ大聖堂で鳴らし響かせるという、実に意義深いものであった。

 そして、西本はこのミサの中で今年が広島・長崎の原爆投下後70年という節目であったという事もあり、祈りのメッセージを全世界に向けて発信した。このメッセージは欧米中のメディアが関心を寄せ中継・報道を行った。

photo Hajime Watanabe

 

 10月30日、この日はサンパオロ大聖堂にて公演を行った。前日29日に行われたヘルベルト・ブロムシュテット指揮ウィーンフィルベートーヴェン:交響曲第7番・第8番と並んで、このヴァチカン国際音楽祭2015のメインとして堂々たる演奏を披露した。

 曲目は、広島・長崎原爆投下の犠牲者たちの追悼の意味も込めたヴェルディ作曲レクイエム。西本が指揮するイルミナートフィルとイルミナート合唱団は、その持ち味でもある重厚で劇的なレクイエムを奏でるが、サンパオロ大聖堂特有の残響音の響きがそこに神秘性や神聖さを付加している。

 演奏によっては派手さや煌びやかさが先行してしまいがちなヴェルディのレクイエムだが、その残響音も計算に入れた西本の指揮は、“ミサ曲”としての美しさを最大限に引き出すとともに、質実剛健とした表情も見せ堅実な宗教音楽としての側面も見事に呈示していた。

 冒頭から金管群が強奏する《Sanctus》では女声や弦楽を活かすことで高らかな天上の音楽へと昇華し、《Lux aeterna》ではソリストの三重唱をこの上なく美しいハーモニーにまとめ上げている。かと思えば最終楽章である《Libera Me》では劇的なフーガもDies irea部の再現も、身震いをしたくなるほどの気迫に満ちていた。

 随所にイタリアオペラ的な輝かしさが溢れているヴェルディ:レクイエムだが、サンパオロの響きが相まった西本智実の音楽が“これは最上の鎮魂曲”なのだということを改めて思い出させてくれる、素晴らしい演奏であった。

 今回の音楽祭での好演は原爆投下の犠牲となった人々への鎮魂の願いを70年という節目である今、全世界に届けたいという西本智実の思いが強く表れていた。

 しかしそれと同時にこの演奏は未来の平和を願うメッセージでもあると思う。世界各国で繰り返されるテロや紛争が存在する現在だからこそ、この音楽がすべての人に届いてほしいと願わずにはいられない。

 ヴァチカンより帰国した後も、西本は幅広く活動している。最近ではNEWSの新曲《四銃士》の指揮・総編曲を手掛けクラシックとポップスを融合させるなど活躍の場を広げている。

 今後も彼女の音楽が世界に向けて発信されることは間違いない。

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