ヴォーカルのエミコとギターのc.j.によるfreecubeは、サンバボサノヴァなどブラジリアン・ミュージックを背景に、ハートフルな音楽を届けてきたユニット。

 「もともとハウスが好きで、トラックを作ってクラブでライヴをするという、初期の頃はそういうスタイルでも活動してたんですけど、いろいろ探っていくうちにブラジリアン・ハウスに辿り着いて、そのあたりからc.j.にガット・ギターを弾いてもらったり、アコースティックで演奏をするように変わっていったんです」(エミコ)。

 「ブラジル音楽を熱心に聴きはじめたのは、実際に自分たちがそういうサウンドに寄っていってから……なので、そもそも〈ブラジル通〉っていうわけではないんですよ」(c.j.)。

freecube アムリタ Playwright(2016)

 そんな経緯から生まれた彼ら特有のサウンド観は、結成10年余りにして初めてのフル・アルバムとなる『アムリタ』からも窺える。bohemianvoodooPRIMITIVE ART ORCHESTRAで活躍するジャズ畑の木村イオリ(ピアノ)、小野リサのツアー・サポートも経験している山根幸洋(ベース)、ジャズを中心に数々のセッションで鳴らしてきた岡山晃久(ドラムス)というレコーディング・メンバーを迎えて制作された内容は、ブラジリアン・ミュージックをその骨格としながらも、ジャズとのクロスオーヴァーだけでなく、言葉(もちろん日本語)をしっかりと聴かせるJ-Pop的な性質を持っていたり、いわゆる〈王道〉のブラジル音楽とはひと味違う魅力も湛えたものだ。

 「ブラジル音楽って、ベースの部分が半音ずつ下がる曲が多いと思うんですけど、アルバムに入ってる“sete cores estrada”みたいに半音ずつ上がるものって、自分がよく知らないだけなのかも知れないけど、あまり聴いたことがないんですね。そういう試みができるというのは、この手の音楽をやっていながら誰にも師事してないところが大きいんだと思います。他のアーティストを聴いて影響を受けてるところはありますけど、独学でやってきたので」(c.j.)。

 「歌詞を書くときも、ポルトガル語とか他の国の言葉をあまり使わないで、できるだけ日本語で書こうというのが最初からあって。日本語の響きがすごく好きなので、音楽のスタイルとしてはブラジルとかいろんなノリがあるけど、そこで日本語を綺麗に響かせるのがめざすところで」(エミコ)。

 「サウンドもそうですけど、やっぱり歌と詞を聴いてほしいんですね。日本語でやってる意味もそこにあるので、そこをしっかり伝えるのは大事かなって。英語やポルトガル語で歌うのもカッコイイんですけど、そこをあえて日本語で」(c.j.)。

 シングルとして限定リリースされたうららかなポップ・チューン“beautiful days”を幕開けに、陽気なサンバ調からしっとりと聴かせるボサノヴァ、バンド・サウンドを活かした力強い演奏から、息遣いが感じられる〈2人だけ〉の弾き語りに至るまで、さりげない心地良さとハピネスをもたらすサウンド、言葉、メロディーによって紡がれた『アムリタ』は、おはようからおやすみまで日常の1コマ1コマに優しい光を注いでくれる、そんな一枚として長く付き合えそうだ。

 「〈アムリタ〉というのは、インドの神話で〈不老不死の水〉と言われているものですけど、〈生命を育むもの〉という解釈もあって。毎日生きていくなかで、綺麗なものを見たり美味しいものを食べたり、些細なことでも心が動くものと出会った瞬間がその人の生命を育むと言われているんですけど、私たちのアルバムが、聴いてくれた人にとっての〈アムリタ〉になってもらえたらいいなあって思います」(エミコ)。

 


freecube
エミコ(ヴォーカル)とc.j.(ギター)によるユニット。それぞれ音楽的なバックグラウンドの異なる2人が出会い、2005年に結成。クラブやライヴハウス、バーなどで積極的にライヴ活動を展開する一方、2008年の『GALA ~O sorriso do sol~』、2009年の『fluorite』とミニ・アルバムをリリースしていく。以降もデュオ編成とバンド編成を併用しながら多様なフィールドで活動を続け、2015年末のカウントダウン・イヴェント〈渋谷JAZZ JUNGLE × Playwright -New Year Countdown vol.11-〉にてPlaywright入りを発表。3月にタワレコ限定で発表したシングル“beautiful days”も話題を集めるなか、ファースト・アルバム『アムリタ』(Playwright)をリリース。