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結局、僕が作るものはポップス

――ピープルの作品を初期の頃から聴いていると、スキルは上がってきていて、自分たちの方法論も固まり、何も言わなくてもスッとできるような感じになっていますよね。最初の頃はわかりやすい歌モノの面が強かったのが、だんだん本能的な気持ち良さの部分が強くなり、意図が入っていない部分が濃くなってきたと言いますか。

波多野「それはその通りですね。僕の問題が大きいと思うんですけど、どんどん自由になっている感じがします。昔は〈どう聴かれるか、どう受け取ってほしいか〉っていうところまで考えていたところもあって。最近、そういうことすらどんどん抜け落ちていますね。それは、自由になってきたことの延長線上にあることなんですけど。

結局、僕が作るものってポップスだし、そこを心配して客観的になる必要はないなって思い始めたのが、ここ4年くらいですね」

――最近のピープルの音楽は、良い意味で深く考えて作っていない感じがします。

波多野「メンバーに説明しないといけない時に自己分析は入るんですけど、能動的に考えていることと本能って似ている気はします。本能的にはよくわからないんだけど、出したものを後から分析するとちゃんと理にかなっていたり、理由があったりするので。

そういう意味で、どんどん引き出しを増やしていくっていうよりは、勘を良くしていくっていうか。お互い、何が来ても反応できるように感性を自由にしていっていますね」

山口「『Kodomo Rengou』では、最終的に理由付けが全曲でできていた気がしますね。〈なんでこのパートはここにあるんだ〉とか。いつもは作りながら理由を各々で見つけていかなきゃいけないのかなって思うんだけど、今回はそれがちゃんとできた気がするんだよね。出来た時、いつもと違う達成感があったかな」

――ひとつ前のアルバムと何かがあきらかに違う感じがしませんか?

波多野「それは、時間をかけて作ったってことがポイントかなって思います。時間をかけて作ることって、昔だとできなかったかもしれないですね。ひとつひとつの判断をしないといけない時間がそれだけ増えていくので、それって慣れていないと辛い作業ですよね。昔だったら、どこで終わりにするかっていうのを判断できないまま時間が過ぎていたかもしれない。そういう意味では、自分たちの意思で制作期間を長く取って、その間、止まることなくガッツリやれたっていうのは大事なことだったかもしれないです」

――『Kodomo Rengou』は音の鳴りとかも違う気がします。バンド感が強くなったというか、生っぽさがあるんですよね。

波多野「それも制作期間を長く取ったからだと思います。細かいところまで指摘をしてやるっていうことをけっこう詰めてきたんですよ。基本的に、僕らは音源は録ってそのまま(ポスト・プロダクションをしない)なんですけど、いままでは綺麗にまとまるような感じの録音をやっていたような気がするんです。今回は自分たちがやろうとしていることがある程度明確になった時点でレコーディングに入りました」

山口「ライヴでやっていたっていうのはあるよね。アルバムの半分くらいの曲はライヴでやっているんですよ。ライヴでやると、リハや練習とは違う実践的な筋肉が付くから、そういった意味ではプレイには直結していると思います」

波多野「BPMも変えたりしたもんね」

山口「だから、演奏っていうところでも、いままでとは違うと思います。バンド感があるとしたら、そういうところから出ているのかもしれないですね」

 

歌詞が自分の日常生活とすごく繋がっているんです

――ところで、ピープルの歌詞ってどうやって作るんですか?

波多野「オケとアレンジがある程度詰まったときに、〈そろそろ作るね〉って僕が言って」

山口「アルバムの曲が出揃ってきた時に、曲調からなんとなく得られるアルバムの雰囲気というか、そういうのを波多野くんが感じるんです。それが出てくるまでは、歌詞は作らないよね」

波多野「メンバーでアレンジしていて、〈ここらへんだね〉っていうのが決まってきた頃に、歌詞も大体こういう感じだなっていうのが、まだ全然具体的な言葉には落としてない状態で出てくるので、そこから始めます。

ほとんどの曲は同時で作っていきます。今回の場合は(ライヴでやっていたから、レコーディングよりも)先に出来ているのもあって。でも、アルバムに入れるとなると、歌詞を変えた曲もあります。“無限会社”とかはライヴでやったのと変えましたね」

山口「“夜戦”も相当変えたよね」

――なんで変えたんですか?

波多野「全体のなかで整合性が取れなくなるからですね」

――それは音楽的な話ですか? それとも歌詞の世界観の話?

波多野「どっちにも繋がっていますね。〈押し出し〉の総量みたいなのがあるんですよ。言葉を変える時ってメロディーとかも変わっちゃうんで。その総合的な〈押し出し〉ですね。その曲がアルバムのどのあたりに来るのかがわかった時に、もうちょっと〈押し出し〉が欲しいとか、逆にちょっとこれは言い過ぎているからちょっと説明をやめようとか、そういうバランスですね」

――〈言い過ぎている〉っていうのは〈言葉が強い〉とか、そういうことですか?

波多野「誰が犯人かを言ってしまっているっていうか。推理小説とかで〈ここで犯人が出てきたら、もうわかっちゃうよね〉みたいな感じです。そういうことって、音楽の印象とめちゃくちゃ関わってくるんですよね。だから、調整は最後までします。

本当に映画を作っている感じなんです。それは明確なストーリーがあるというわけではなくて、音楽が何を言おうとしているかっていうことなんです。それが、アルバムを最初から最後まで聴いて、どう伝わってほしいかってことに影響するので。それを詰めることで歌が変わったり、ウワモノも変わったりしますね」

――アルバム全体のストーリーに合わせて、起伏や濃淡を付けたいみたいなことを考えながら、曲に言葉を付ける感じ?

波多野「〈合わせて〉というよりは、〈ふさわしいもの〉って感じですね。1曲目で言っていることが最後の曲と呼応しているか、していないかってことは僕のなかですごく大事で。その感覚っていうのは、具体的なストーリーというよりは印象の問題ですね」

――例えば、フレーズや言葉がすごく強くて耳に残るような、コピーライターっぽい歌詞を書く人もいるじゃないですか。波多野くんの歌詞って、そういう部分が全くないですよね。〈ここの言葉だけがすごく強い〉みたいな詞を書かない人ですよね。

波多野「〈ここを言いたいから、このラインを言いたいから、そこに向かっていく〉みたいな感じで作ることはないですね。僕の場合は翻訳に近いんですよ。音を聴いて、それが自分にはどう翻訳されるかっていう。

そこは自分の感性なので、作り終えた時に、歌詞が自分の日常生活とすごく繋がっているんですよ。自分が言いたいこととほとんどイコールなんです。社会のことでも身の回りのことでもいいんですけど、それがだいたいイコールになっているんですよね」

 

自己表現のもっと先で音楽を作りたい

――ピープルと波多野くんのソロとでは歌詞が全然違いますよね。

波多野「違いますね」

――ピープルはメンバーから出た音をもとに作っているから、歌詞も変わってくるということですか?

波多野「まさにそうです。やっぱり3人で作っているっていうのが大きくて。これはソロを作ってみてわかったんですけど、ピープルでは僕以外のメンバーが最初のリスナーになるわけで、それをすっごく意識していますね。自分〈たち〉の歌になるっていうのは念頭に置いているんだなってことが、ソロをやってわかりました。それは無意識だったんですけど。だから、僕の言葉っていうよりは、〈ピープルの言葉になるんだ〉って」

――言葉の乗せ方も、バンドの時の方がリズムっぽいですよね。

波多野「そうですね。どこまで意識するかっていう精度に関しては、レンズの倍率が全然違いますね。ソロは、ヘロヘロ具合が良いとか、逆にとんでもなく細かいグリッドまで合わせてみたりとか、そういう自由さがあるんです。でも、ピープルの場合は(ピープルとして)気持ち良いところがバシッとあるので、そこを目指せばいいっていう。〈ソロよりもピープルの波多野くんの方が良いんだね〉みたいなことをよく言われて(笑)。すげー複雑なんだけど、うれしいですね。

僕らのなかでの音楽の自由さって、いわゆる無秩序な状態じゃなくて、自分たちなりにどんどん新しい秩序を作っていくっていうのが僕らの音楽の自由さなんですよね。それって厳密で、気を抜けないっていうか。その都度、秩序を作っている感じがありますね。その都度、〈新しい国家を立ち上げる〉じゃないですけど(笑)。

曲作りの方法もどんどん変わっていって、それをお互いがどう受け入れていくかっていうところとか、そういうのを楽しみとしているところが僕にはあると思います。それはソロには絶対にないんですよ」

――ピープルはバンドならではの音楽なんだと。

波多野「〈スリー・ピースでギター・ヴォーカルがいる〉っていう先入観だと思うんですけど、ヴォーカルが担う部分がかなりあるって思われるんですよ。でも、僕らの場合は完全にみんなでエンジンを動かせている感じがすごくあって。じゃないと、こういう作品は出来ないと思うんですよね」

――たしかに、去年の『橋本絵莉子波多野裕文』を聴いても、ピープルの人っぽくないんだよね。あれは波多野くんの音楽。別物って感じがありますよね。

波多野「『Kodomo Rengou』って、ソロと橋本絵莉子波多野裕文を経てきた感じが全然出ていないんですよね。完全に〈ピープルの波多野〉になっている。そこは僕が音楽に向き合う時に自覚している部分と合致しますね。そこにふさわしいものがしっかりあってほしいっていうことだから。〈自己表現のもっと先で音楽を作りたい〉〈そこにあってほしいものを作るんだ〉っていう感じ。

自分がこうしたいっていうのは細かい部分ではあるんですけど、それは曲が何を求めているかっていうのを敏感に感じ取ったうえでの欲求であって、そういう意味ではエゴはないんですよね」

――というか、ピープルの3人はキャラは濃いのにエゴを出してない感じがありますね。

波多野「こんなに押し出しが強いのに主張はないんですよね」

山口「僕はその〈エゴ〉っていうのが、あまりよくわかってないんだと思う」

波多野「それはエゴがないってことの証明なんだと思うよ」

――個々のキャラは強いのに、自分の演奏をしている感じじゃなくて、ただ〈曲を演奏している〉感じと言いますか。

波多野「3人ともどちらかというと職人肌なのかもしれないですね。自己証明みたいなことを音楽には求めていないというか。(音楽は)結果としては自分の名刺にはなるんですけど、それ自体を自分の存在証明にはしないっていう態度なのかな」


Live Information
〈『Kodomo Rengou』 release tour〉

2018年6月8日(金) 神奈川・横浜 F.A.D YOKOHAMA
2018年6月9日(土) 静岡 UMBER
2018年6月15日(金) 三重・四日市 CLUB CHAOS
2018年6月16日(土) 兵庫・神戸 VARIT.
2018年6月17日(日) 岡山 CRAZYMAMA 2nd Room
2018年6月21日(木) 北海道・札幌 COLONY
2018年6月23日(土) 岩手・盛岡 the five morioka
2018年6月24日(日) 宮城・仙台 MACANA
2018年6月29日(金) 広島 CAVE-BE
2018年6月30日(土) 福岡 DRUM SON
2018年7月1日(日) 熊本 B.9 V2
2018年7月6日(金) 香川・高松 TOONICE
2018年7月7日(土) 京都 磔磔
2018年7月8日(日) 愛知・名古屋 CLUB QUATTRO
2018年7月11日(水) 東京・渋谷 TSUTAYA O-EAST
2018年7月14日(土) 大阪・梅田 CLUB QUATTRO

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