INTERVIEW

謎多きヤング・ファーザーズの音楽に迫る! 「トレインスポッティング」でも話題のグループを識者2人が読み解く

Photo by Rob Walbers
 

 

レゲトン、エチオ・ジャズ、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド――ヤング・ファーザーズから広がっていく音楽地図

近藤「『Cocoa Sugar』で天井さんがいちばん惹かれた曲はなんですか?」

天井「やっぱり“Turn”かな。さっき話したスーサイドやポスト・パンクの流れも踏まえて、個人的にいろいろと腑に落ちるところがあった曲なので」

近藤「“Turn”のリズムはレゲトンっぽいですよね。今年サマソニに出るJ・バルヴィンとか、いまレゲトンが注目されている流れを意識したのかも」

天井「エチオピアン・ジャズを感じる“Fee Fi”も良いんですよね」

近藤「エチオピアン・ジャズといえば、ヤング・ファーザーズはクラック・マガジンで公開したプレイリストにハイル・メルギアを選んでましたね。このプレイリストがけっこう面白くて、なかでもトゥシェトゥシャ・ボーイズの“Nwampfundla”を選曲してるのが興味深かった。シャンガーン・エレクトロの人だから、やっぱり!って思ったのと、この曲はDJラシャドやDJスピンといったジューク系の人がリミックスしてた曲なんですよ。『Cocoa Sugar』には、ジュークのリズムを取り入れた“Wire”があるので、ここで繋がった!という驚きもありました。

ソー・ソリッド・クルーというグライムに影響をあたえたUKガラージのグループも選曲していて、やっぱUKのベース・ミュージック・シーンも意識してるんだなと。もちろんスーサイドも選んでますし。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドもありましたね」

天井「ヴェルヴェッツは何の曲でした?」

近藤「“All Tomorrow's Parties”です」

天井「ベタですね(笑)。そのあたりのモータリックというか、淡々としたビートからするとクラウトロックというワードも入ってきそう」

近藤「クラウトロックはなかったですね」

天井「なかったんだ。でも、スーサイドもクラウトロックみたいなものだからね」

 

キリスト教、男性主義、政治性――同時代的で多彩なモティーフが散りばめられた歌詞

近藤「あと、レゲエのブジュ・バントンもプレイリストにあって、しかも“Murderer”を選んでるのが面白い。この曲は、〈すべての人間は公平に創造された〉といった平等の尊さを訴える一節が何度も登場するんですけど、ヤング・ファーザーズもインタヴューや歌詞でたびたび平等の大切さに言及するじゃないですか。そうした考えは、レベル・ミュージックとしてのレゲエやラスタファリズムなどから影響を受けてると思います」

天井「『Cocoa Sugar』にはこれまでの作品よりもスピリチュアルな歌詞が多いですもんね。そこにゴスペルの要素も入ってくるのかな? “Lord”なんかはその要素があるし、『T2 トレインスポッティング』に提供した“Only God Knows”はエディンバラの聖歌隊が参加していました」

『Cocoa Sugar』収録曲“Lord”
 

近藤「ゴスペルはプレイリストになかったですね。ゴスペルに関しては直接影響を受けたというより、チャンス・ザ・ラッパーやフランク・オーシャンといった最近のポップ・ミュージックに多いクワイア的なものを取り入れたんじゃないかと思います。

その“Lord”や“In My View”にしても、キリスト教といった宗教的なモティーフが多いのも『Cocoa Sugar』の特徴ですよね。“In My View”の歌詞では旧約聖書の登場人物のデリラも登場します。そういう意味で、『Cocoa Sugar』はカニエ・ウェストの『The Life Of Pablo』と重なる部分もありますね。カニエの場合は新約聖書ですけど」

天井「カニエはよくヤング・ファーザーズの引き合いに出されますよね」

近藤「マーティン・スコセッシも『沈黙 -サイレンス-』という映画を作ったりと、最近はキリスト教をテーマにした作品が多いじゃないですか。そういう流れも関係がありそうです。それと、天井さんのインタヴューでも語っているように、『Cocoa Sugar』の歌詞は男性についてのテーマが多いんですよね。いわゆるメイル・ゲイズがテーマのひとつになっている。それはいまのアメリカにしっくりくるところだと思います」

※〈男性目線〉〈男性の視線〉の意。アートや文学において男性主義的で異性愛者的な視点から女性や世界を描くことをフェミニスト理論で〈メイル・ゲイズ〉と呼び、批判の対象とされている
 

天井「“In My View”のステートメントとして語ってくれた〈パワーを乱用している男〉って、トランプがイメージされているのはあきらかなわけで。だから、いまのアメリカの状況と照らし合わせて『Cocoa Sugar』は聴くことができるし、逆にそこに引っかからないなら、どこに引っかかるんだという話ですよね」

近藤「メイル・ゲイズの観点でいえば、ヤング・ファーザーズは2017年に『Random White Dudes』という短編映画を制作しているんです。これはナショナル・ポートレート・ギャラリーに依頼されて作ったもので、一部の特権的な人たちによって築かれてきた歴史や家父長制などに対する批評眼が込められている作品です。こういった活動も『Cocoa Sugar』には反映されてますよね。

その流れで新作の歌詞を見ていくと、“Border Girl”の〈受け取らなくてもいい/必ずしも与えられたものすべてを〉や、“Holy Ghost”の〈俺は国境を越えるつもりだ/警告には耳を貸さない〉など、活動当初から音や歌詞で打ち出していた多様性を訴える言葉が多いと感じます。ただ、前作の『White Men Are Black Men Too』と比べると、より内省的でパーソナルな方向に行っている」

エディンバラのスコティッシュ・ナショナル・ポートレート・ギャラリー
で撮影された「Random White Dudes」。タイトルは〈見知らぬ白人男性〉の意
 

天井「『Cocoa Sugar』には葛藤がありますよね。インタヴューでも言っていたけど、自分たちをトランプに象徴される、権力におぼれた強権的な男性の立場に置き換えた視点から今回の歌詞は書かれたみたいで。そのなかで宗教や法律というテーマも出てくるんですけど、宗教的な正しさや法律的な制度が男性性的なものを逆に強化したり担保してしまうという、そこでの葛藤が描かれている。明確な主張を打ち出すのではなく、両義性みたいなところを提示することで議論を起こしたいという意識が、前作と比較してより確信犯的に表れているんです」

近藤「なるほど。前作の“Old Rock N Roll”にある〈白人を責めるのは飽きた〉みたいなハッキリした言葉はないから、そこをどう評価するかによって、『Cocoa Sugar』に対する態度が変わってきますよね」

『White Men Are Black Men Too』収録曲“Old Rock N Roll”
 

天井「明確でないのをぼやかしてると取るか、その曖昧さに可能性を見いだすかというところですよね」

近藤「ただ、視点が違うとはいえ、これまで同様自分たちなりの想いが込められているのは見逃しちゃいけないと思います。日本だとポリコレ疲れが蔓延するなかでバランスを取ったとか、もっとひどいと〈日和った〉みたいな評価をする人が出てきそうで怖いんですが(笑)。でも全然日和ってないし、主張もある。それは、『Cocoa Sugar』を聴けばわかるんだけど」

天井「そこはちゃんと歌詞を読めばわかりますよね」

 

ダニー・ボイルが「T2」にヤング・ファーザーズを起用した理由とは?

近藤「そういえば、『T2』ではヤング・ファーザーズの曲が6曲も使われたんですよね。これも『Cocoa Sugar』の同時代性を語るうえでは欠かせないトピックですね。監督のダニー・ボイルは『ヤング・ファーザーズを発見することができたのは大きかった。彼らの音こそが、この映画を支える現代の鼓動で、私たちはそれによってノスタルジーに浸らずにすんだ』と言ってるんです。要は、ダニー・ボイルなりにヤング・ファーザーズからモダンな要素を嗅ぎ取って、それを『T2』に活かすことでノスタルジーに陥らないのが狙いだったわけでしょ」

天井「うんうん」

2017年の映画『T2 トレインスポッティング』 予告編
 

近藤「96年に公開された『トレインスポッティング』は80年代末期から90年代前半のレイヴ・カルチャーから影響を受けてるじゃないですか。レフトフィールドやアンダーワールドの曲が流れることからもそれは窺えます。当時のレイヴ・カルチャーの美学は〈逃避〉だったと思うんですよ。サッチャー政権の新自由主義によって労働者階級は徹底的に虐げられ、緊縮政策によって失業率も上昇し、経済格差も広がった。レイヴ・カルチャー自体には政治/社会的メッセージはなかったけれど、そうした状況にうんざりしていたからこそ、それがアイロニー的にポリティカルな性質を帯びていったのが面白さだった。

そういう逃避願望は、ユアン・マクレガーが演じた主人公レントンが大金を持ってイギリスから脱出するという『トレインスポッティング』のエンディングでもメタファーとして描かれているし、だからこそ当時の若者たちの心情を代表する映画として人気を集めて、世界中の人たちに届いた。でも、『T2』ではレントンは救われないんです。ベグビーやスパッドの子供であったり、あるいはレントンと深い関係になりながらも彼を選ばなかったヴェロニカといった、レントンよりも若い人たちの選択が際立つ未来志向の映画になっている。そのヴェロニカに〈過去に生きてる/私の故国では過去は忘れ去るもの/2人は昔話ばかり〉とレントンとシックボーイが言われてしまうシーンなどは、まさに象徴的ですよね。

これらをふまえると、ダニー・ボイルにとって『T2』は『トレインスポッティング』で描いた価値観との決別宣言だと思うんです。もちろん、ダニー・ボイルもレイヴ・カルチャーやそれに影響を受けたポップ・カルチャーの価値観は好きだったし、それを映画でも表現してきた。でも、いまはそういう時代じゃないと『T2』で訴えたかったんですよ。その訴えを明確にするために、ダニー・ボイルはヤング・ファーザーズの音楽を核に据えた」

天井「なるほど!」

近藤「ここまで僕と天井さんが語ってきたことからもわかるように、彼らは現実としっかり向き合う人たちで、時にはインタヴューや作品で主張することによって現実の世界にコミットしようとしてきたし、そうすることに忌避感もない。これはレイヴ・カルチャーの逃避願望や、それに影響を受けてきた人たちの価値観とは真逆ですよね。この姿勢こそ、ダニー・ボイルがヤング・ファーザーズに見いだした現代の鼓動なんだと思います。

そう考えると、プロディジーによるイギー・ポップ“Lust For Life”のリミックスに合わせてレントンが踊るところで『T2』が終わるのは必然だった。それこそプロディジーは、レイヴ・カルチャーの申し子として世界的な人気を得たグループだから。プロディジーでは踊れるけど、ヤング・ファーザーズでは踊れないんですよ、レントンは」

 


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■応募上のご注意
※こちらのフォームからどなたでもご応募いただけます。
※お名前/ご住所の欄に、ローマ数字・丸で囲った数字をご使用なさいませんようお願いいたします。
※自動表示されている内容を変更して応募される場合は上書きしてご応募ください。
※プレゼントの当選発表は、当選者への発送をもって発表に代えさせていただきます。
※応募フォームの記載内容に不備がある場合は応募対象となりません。
※当選または落選に関するお問合せにはお答えできません。

※応募に際してご記入いただいたお名前・ご住所・ご連絡先等の個人情報はプレゼントの発送のほか、弊社からの各種ご案内(イヴェント、アーティスト情報など)、アンケートの統計資料の作成に利用させていただくことがございます。ご記入いただきました情報はタワーレコード株式会社にて保管し、当選者様の発送先を弊社指定の宅配業者に開示する以外、第三者へ提供することはございません。タワーレコード株式会社のプライバシー・ポリシーに関しましては、次のサイトをご参照ください。 http://tower.jp/information/privacy 

 

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プレゼント対象者:3名様

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Twitter:@beatink_jp
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