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UKベース、ヒップホップ、チルウェイヴ……様々な文脈で聴けるサウンド

近藤真弥「僕がヤング・ファーザーズを初めて聴いたのは、2010年に彼らがリリースした“Dancing Mantaray”という曲です。当時はいまほど複雑な音楽をやっていなくて、この曲もヘヴィーな低音が印象的なので、ベース・ミュージックやグライムの文脈で聴いてました」

天井潤之介「僕は2014年の『Dead』がマーキュリー・プライズを獲得したと知ってから聴き始めました。ただ、賞うんぬんよりも、アンチコンからリリースしていたことに引っかかったんですね。

それで『Dead』を聴いたんだけど、『Dead』以上に惹かれたのは『Tape One』と『Tape Two』でした。彼らはデビュー当時、〈psychedelic hip-hop electro boy band〉と自ら称していたわけだけど、まさにアンチコンがいちばん盛り上がっていた2000年代後半のサイケで折衷的なレーベル・カラーを継承していたというか。

あとはパンダ・ベアとか少し前のブルックリン勢――アニマル・コレクティヴの出身はボルチモアですが――を連想させるところもあって。2010年代になって、いわゆるUSインディーが失いつつあった良質さみたいなものが彼らには感じられて、それもスコットランドのエディンバラから、しかもこのタイミングで?という驚きがあったんです。だから、近藤さんのようにUKのベース・ミュージックやグライムではなく、僕はUSシーンの文脈で聴いてましたね」

『Cocoa Sugar』収録曲“In My View”

近藤「アンチコンから出たのって、90年代にモ・ワックスがDJシャドウをフックアップしたことも少なからず影響してるのかな? DJシャドウはアメリカ西海岸のヒップホップ・シーンの人で、そのDJシャドウのアルバムをイギリスのモ・ワックスがリリースした。それがキッカケで、アメリカ西海岸のヒップホップのエッセンスを育む土壌がイギリスに作られ、そこからヤング・ファーザーズが出てきて、アンチコンがまたアメリカに持ち込んだみたいな。

僕は正直、そこに明確な繋がりは見出せないけれど、長年アンチコン周辺を追っている人からすると、何かしらの流れを感じるのかもしれませんね」

天井「アンチコン周辺で言えば、サトル(Subtle)や13&ゴッド(13 & God)あたりとサウンドのフォーマットは似てるけど、ヤング・ファーザーズをフックアップした当時のアンチコンで引きが強かったのって、たぶんバス(Baths)のほうだったと思うんですよね。

バスはUSのチルウェイヴやインディーR&B、ヒプナゴジック・ポップと呼ばれるあたりから出てきたわけだけど、それに対してヤング・ファーザーズはそうした登場の背景や文脈が見えづらかったというか、どういう経緯であそこまでのプロップスを集めるに至ったのか、最初は正直読めないところがありました」

近藤「ちなみに、今回の対談に向けてヤング・ファーザーズのベスト・ソングを5曲選んでほしいというお願いがあったので選んできました。僕は“Dancing Mantaray”“I Heard”“Old Rock N Roll”“Only God Knows”“In My View”です。ベース・ミュージックの文脈で聴いてたから、低音が印象的な曲が多くなりましたね」

天井「僕は初期に偏っちゃったけど、“Freefalling”“Queen Is Dead”“Rain Or Shine”“Only God Knows”。そして最新作の『Cocoa Sugar』から、スーサイドの影響が窺える“Turn”。やっぱ、こうした曲のセレクトにはヤング・ファーザーズのどこを聴いているのかが出ますよね」

プレイリスト〈10 Essential Young Fathers Songs Selected by Junnosuke Amai and Masaya Kondo〉