カニエ・ウェスト、ソランジュ、ブラッド・オレンジ……多様化するアフリカン・アメリカンの音楽

ブラック・ミュージックが年々面白いように多様化している。いや、もはや〈ブラック〉と限定するまでもない。現在のポップ・ミュージック全般と言ってもいいが、そのヴァリエイションと機動力は明らかに黒人たちによる豊かな発想、自由なアプローチが起点になっている。

R&Bといっても、現在のそれはフォークやカントリーが要素として含まれている場合が多いし、逆にアコースティックなシンガー・ソングライター・スタイルにヒップホップやジャズのマナーを違和感なくクロスオーヴァーさせるアイデアはもはや珍しくもない。そして、ゴスペルやソウルの再構築として、オートチューンでヴォーカルを加工して〈デジタル・クワイア〉としてしまうような手法もすっかり定着したと言える。

いまとなっては、カニエ・ウェストのアルバム『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』(2010年)にボン・イヴェールことジャスティン・ヴァーノンが参加したあたりが、ひとつの大きな転換点となっているだろうし、インディー・ロック勢と手を組むことも厭わないソランジュへの高い評価、あるいはブラッド・オレンジことデヴ・ハインズの縦横無尽なプロデューサーとしての活躍は、そんな時代を象徴するものかもしれない。

ブラッド・オレンジの2018年作『Negro Swan』収録曲“Charcoal Baby”

 

ユニークな新人、コナー・ヤングブラッドのデビュー・アルバム『Cheyenne』

コナー・ヤングブラッドという、おそらくまだ無名に近いダラス出身のシンガー・ソングライターも、そうしたシームレス・ポップの時代だからこそ誕生してきたユニークな新人だ。

実際に、今年のフジロックにも出演したオデッザも所属するカウンター・レコーズ(日本ではBeat Records)からリリースされたばかりのデビュー・アルバム『Cheyenne』を聴いて、ボン・イヴェールスフィアン・スティーヴンスを思い出す人も多いだろうし、フランク・オーシャンやジェイムス・ティルマンあたりと並べたくなる人もいるかもしれない。

CONNER YOUNGBLOOD 『Cheyenne』 Counter/BEAT(2018)

少なくとも筆者は、フジロックでのパフォーマンスが話題を集めたサーペントウィズフィートや、6月の初来日公演が大好評でバンド・セットでの再来日が決定しているモーゼス・サムニー、あるいはこの秋に待望の新作がワープから届けられる予定のイヴ・トゥモアといった、LGBTQA音楽家の次世代とも空気感を共有しているイメージが、このコナー・ヤングブラッドから沸いてくる。

 

印象派のような音楽家? エリートで多才な素顔

ダラス出身ながら現在はナッシュヴィルに拠点を置いているコナーは、医者の父を持ち、みずからもイェール大学でアメリカ研究を先行したというアカデミックな経歴の持ち主(しかも、ザ・バンドについての論文も書いたそう!)。

一方で登山や写真を趣味や特技とし、スポーツにも積極的な青年という側面もある。それでいて、ギターやベースはもちろん、管弦楽器類からパーカッション、打ち込みなどの機材などいくつもの楽器演奏をみずからこなす多才な音楽家としての経験も積んできた。

しかも端正なルックスと表情には気品もある……という素顔を紹介していくと、どこをとってもまったく隙のない、ある意味優等生的な黒人青年像に辿り着いてしまうかもしれない。そして、一見そうした隙のない好青年の場合、露骨に表現できない背後の苦悩が見え隠れしたり、培ってきたものを素直に表出させることに抵抗を見せたりもする。

だが、このコナーは影響を受けた作品や事象に対して実に素直な音楽家だ。いま目の前にいる人々や、これまで体験してきた素晴らしい記憶を、濃淡をつけながら美しく表現する。そういう意味では絵画で言うところの印象派のような音楽家と言っていいかもしれない。

『Cheyenne』収録曲“The Birds Of Finland”